半壊した家の屋根に着地し、エリアボスの名を冠するレッドトロールと対峙する。
穏やかなそよ風が肌を撫でた。
が、ここは戦場だ。
穏やかな状態は長く続かない。
「そろそろターン交代といこうぜ! 俺たちが雑魚だと思ってんのかもしれねぇが、精々お前のその身で確かめてみるこったな!!」
全身に
同時に双剣の一本にも魔力を通し、雷属性と
バチバチと火花を散らす短剣を、全力で投擲した。
迸る青白い軌跡。
バチバチと火花と電荷を弾けさせる短剣はレッドトロールの元へ一直線に向かっていき、その切っ先が分厚い胸に刺さった。
「…………グファ?」
が、効果は今一つ。
俺の短剣はレッドトロールの胸に刺さったものの、何せ図体がデカすぎるがゆえに致命傷には遠く及ばない。
心臓には到底届かず、精々表面の筋肉を僅かに裂いた程度。
「こんくらいの攻撃力じゃダメか! なら、魔法ならどうだ!」
【不棄の雷双剣】には、雷属性の魔法を発動できる機構が宿っている。
俺は双剣に魔力を放ち、渾身の電撃を浴びせた。
「グ、ファ!? ……グァアアアアアアアアアアア!!」
バヂバヂッ! と胸に刺さったままの短剣から電撃が迸る。
驚いたのか自然反射か分からないが、レッドトロールは一瞬ビクッと震えた直後、左手を大きく振るった。
――――ッ!
まさかあいつ!?
俺は
「グァアアアアアアアアアアア!!」
巨腕は近隣の住宅を削ぎ落とすように抉り取り、フリスビーさながら横投げで瓦礫を投擲してきた。
さっきの蹴りと同様、対象を選定しての攻撃ではなく、対象が存在する『面』を空間ごと粉砕する無差別攻撃。
「クソッ! やっぱ双剣を投げつけるだけじゃ無理か!」
屋根を転がり軒下へ落下。
広々とした庭を素通りしつつ、流れるような動作でブロック塀を越え、路地を駆け抜ける。
直後、俺が立っていた家に無数の瓦礫が直撃し、蜂の巣状態となっていた。
「……おいおい、あんなの直撃したら肉塊になっちまうぞ。今は北沢の結界魔法もないんだから、俺の身一つで下手に攻撃を食らうとマズイな」
一応、身体強化のスキルで常人よりかは強化されてるのかもしれないが、防御面がどれほど高められているのかは未だ定かではない。
少なくとも防御性能に関しては、北沢のシールドスフィアよりは低いと予測する。
「戦略を変える必要があるな。中途半端にビビってたんじゃ致命傷を与えられない!」
不意に、レッドトロールの胸に刺した剣が手元に自動出現した。
『不棄』の縛りの影響だ。
【不棄の雷双剣】は一定以上の距離が離れると俺の手元に戻すことができるので、紛失することがない便利な機能だ。
路地から歩道に出る。
カーブミラーや一時停止の標識、児童飛び出し注意を警告する看板など、見慣れた日常の風景と怪物の咆哮が同居する異質な空間。
俺は思考を研ぎ澄ます。
「つーか、そもそもレベル差がおかしいだろ。あのデカブツのレベル、たしか三十九だったよな?」
俺は現状レベル九で、ギリ二桁にもいっていない。
対してあのレッドトロールはレベル三十九。
俺とちょうど三十もレベルが離れている。
普通のRPGなら無理ゲーもいい所だ。
「それだけ差があるなら、俺ごときが中距離から投擲したところで歯が立たないのは当然か。むしろ中途半端に距離を取るとさっきみたいな無差別範囲攻撃のリスクがある。だったら……」
生半可な攻撃じゃ勝ちきれるわけがない。
俺に必要なのは、いわば『会心の一撃』と呼ばれる類いの一撃必殺の技だ。
だが、生憎俺はそんな必殺攻撃をしたことがない。
「こっから先はアドリブだな。とにかく基本戦略として、ビビらずに超接近戦でチャレンジしてみるか……!」
双剣を逆手に構え、通学路をダッシュする。
幸い、レッドトロールは巨体であるため見失うことは絶対にない。
逃げるならまだしも、こちらから近づいていくならこれほど簡単なタスクはないのだ。
十字路を左に曲がると、赤く固い肌で覆われた巨大な裸足が住宅の庭先と地面のアスファルトを粉砕しながら屹立していた。
まるで小人の気分だぜ。
遠近感が狂ってしょうがない。
「まだバトルは始まったばかりだ! 図体がデカい分、足元には気を付けるんだな!!」
俺は