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第26話  怒りの殴打


 中距離での攻防は返ってこちらが不利。

 そう悟った俺は戦略を一転させ、超近接戦闘に切り替える。

 目標はレッドトロールの左足。

 家の庭先とアスファルトの地面を無惨に粉砕しながら、十メートルに達しようかという程の巨体を強靭な筋肉で支えている。


 俺は上限突破ハイオーダーを発動し、全身をバネのようにしならせてトップスピードで加速する。


「図体がデカいのは結構だが、せいぜい足元には気を付けるんだな!!」


 逆手に構える双剣。

 瞬く間に接近していく赤い巨大な裸足。


「これでも……食らえやァッ!!」


 レッドトロールの足元と交差する。

 大岩のようなくるぶしを眼前に、【不棄の雷双剣】を硬質な肌に突きつけた。

 ザシュッ、と肉を切り裂く感触。

 鋭利な刃先はくるぶしの上あたりを走り、赤黒い鮮血が吹き出した。


「グガッ!? アアアアアアアアアアアア!!」


 今度の悲鳴は、苦痛の色が混じっているような気がした。

 少なくとも先ほどの双剣の投擲よりは手応えがある。


「まだまだこんなもんじゃねぇぞ!!」


 くるぶしを通りすぎる刹那、俺は身体を反転させUターン。

 そのまま足の後部にあたるアキレス腱に二双の短剣を全力で突き刺した。


「グァアアアアアアアアアアア!!!」


 まるで酒樽に剣を突き刺すように、レッドトロールの不健康そうな血が吹き出した。

 その一部は俺にも飛び散り、身体の一部を赤く濡らす。


「よし! 接近戦は効いてる! あとはこのアキレス腱でも断裂させたら、さっきみたいな蹴り攻撃はできねぇだろ――」

「グァアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ッ!?」


 流れに乗って追撃を与えようとした瞬間、レッドトロールが足を大きく上空へ持ち上げた。

 直後、俺の身体はほの暗い影に飲み込まれる。

 頭上を見上げると、レッドトロールの土踏まずが見えた。

 足裏、である。

 敵の思惑を察し、全身が一気に総毛立つ。


「ヤバッ!!」


 上限突破ハイオーダーをフル稼働させ、俺はその場から全力で飛び退いた。

 瞬間、俺がいた場所に巨大な足が振り下ろされ、凄まじい轟音と土煙が至近距離で襲い来る。


「ぐっ、あがっ、……クッソ! せっかく反撃の糸口を見つけたってのに!」


 無茶な回避動作であったがゆえにバランスを崩し、道を転げ回る。

 体勢を立て直そうとした直後、レッドトロールは上体を捻り、巨大な腕を振り上げた。


「ま、マジか!? ぐぉおおおおおおお!!」


 同時、人ひとりなど簡単にミンチにできそうな巨大な拳が地面を揺さぶった。

 苛立ちを多分に含んだ一撃。

 俺は反射的に地を蹴り、地面から離れて適当な家の屋根に跳躍する。

 が、俺の行動は読まれていたらしい。

 すでに左の拳を握るレッドトロールは俺に向けてパンチを放ってきた。


(ヤバ……! これ完全に回避できるか――!?)


 アンバランスな体勢で無理やり逃げ惑っていたため、まだきちんと地に足がついていない。

 中途半端な状態だが、レッドトロールは待ってはくれない。

 俺はそのまま上限突破ハイオーダーを無理に発動させ、後方へ弾き飛んだ。

 眼前に大型トラックのごとき拳が迫るが、ギリギリ直撃は免れる。

 が、かすかにレッドトロールの小指の端あたりが上半身に掠ってしまった。


 ゴキリッ、と全身を破壊するような衝撃と浮遊感を覚えたと思ったら。


 ――――ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!


 俺は百数十メートル吹き飛ばされ、名も知れぬ民家の二階に激突した。


「ガ、ハァ……!!」


 肺を押し潰されるような衝撃。

 体中をバットで殴られたような激痛が走る。


 思わず意識を手放しそうになる直前――――聞き覚えのある声がギリギリの所で俺の注意を繋ぎとめた。


「!? ち、ちょっとアレ! まさか、神崎君!!?」



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