破壊され、引き抜かれた電柱を肩の上で構えるレッドトロール。
そのモーションは、まるで『投げ槍』を投擲する際の予備動作のようで。
俺とプリムはいち早くレッドトロールの思惑を察した。
「おいおいアイツまさか……」
「ひとまずここから逃げた方が良さそうですね……! 遊一、もう動けますか!?」
「……ああ。問題ない……こともないが、逃げるくらいならどうにか」
身体強化スキルと
そこへさらにプリムと北沢の回復魔法も加わっているので、何とか体は動かせる。
「ち、ちょっと、二人で通じ合わないでよ! 今度は何が起こるっていうの!?」
「見て分かんだろ。レッドトロールはあの電柱を投げ槍よろしく俺たちにぶん投げてまとめて葬り去るつもりだよ。ちなみにだがプリム。もしレッドトロールが投げてくる電柱が直撃した場合、北沢の
「うーん、微妙なところですが……あまりオススメはしませんねぇ。防げたとしても完全に威力は殺せないでしょうし、重傷くらいは覚悟してもらう必要があるかと。運が悪ければそのまま結界ごと貫通して体に大きな風穴が空いてしまうことになりますね!」
「笑えねぇ冗談だ。なら、とっととここから離れ――」
「う、うわぁああああああ!! な、なんなんだあの化け物はぁあああああ!!?」
突如響きわたる叫び声。
俺たちは反射的に声の方へ視線を向ける。
目算で五十メートルほど離れている地点。
そこで中年サラリーマンが情けなく交差点の真ん中で腰を抜かして倒れ込んでいた。
その光景に、俺は血の気が引く。
「……あのおっさん、プレイヤーか!? この近辺に俺たち以外にもまだプレイヤーがいたのか……いやそれよりも、あんな所で腰抜かしてたらマズイ!!」
レッドトロールはすでに投擲モーションに移っている。
無理やり引き剥がされた電柱が無数の亀裂を走らせながら電線をプラプラと揺らしていた。
電柱を握る太い右腕は、まるで弓を引くように後方へ伸ばされている。
もう投擲まで幾ばくもない。
俺は焦りながら声を荒らげる。
「おいオッサン逃げろ! そこに留まってたら巻き込まれるぞ!!」
「!? な、なんだ!? わ、私以外にも人がいたのか!? た、頼む! 助けてくれ!」
「助けるから、まずはそこから離れろっつってんだろ!!」
「う、うぅ、しかし、腰が抜けてしまって……!」
中年サラリーマンは、だらしなく太った体を揺らしながら情けなく地べたを這いずっている。
「グァアアアアアアアアアアアアアア!!!」
レッドトロールの絶叫。
即座にそちらへ視線を移すと、あのデカブツの目は微妙に俺たちの方を見ていない気がした。
ニタァと口角を吊り上げ、口の端からヨダレを垂らしている。
百メートル以上離れているため確証はもてないが、レッドトロールが標的として狙っているのは俺たちじゃなく――――
「……ッ!! おっさんがヤバい!!」
「待ってください! どこに行く気ですか!」
俺が駆け出そうとした瞬間、プリムに呼び止められる。
「レッドトロールの狙いは俺たちじゃない! あのおっさんだ! だから助けに行かねぇ、と――……ぐはっ!」
「か、神崎君!」
クソッ、さっきのダメージがまだ体に残ってんのか……!!
「グフッ、グヒュ、グフファアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
レッドトロールは笑いながら、電柱を投げ放つ。
投げ槍と化したコンクリートの円柱が住宅街の上空を羽ばたいた。
抉り壊された電柱の根元は、交差点の真ん中でくずおれるおっさん目掛けて一直線に襲来し――――
「う、うわぁあああああああああああ!! い、いい嫌だ嫌だ! 嫌だ! し、死にたくな――」
――――メギョ。
肉が潰れる不気味な音。
直後、おっさんは飛来した電柱に全身を潰され、俺たちの目の前で呆気なく死んだ。