破壊された住宅街。
ベキベキに亀裂が走りもはや使い物にならなくなった公道を、俺はひとり静かに走り抜ける。
北沢とプリムはいない。
その代わり、当初のような目立つ行動は避け、レッドトロールから見つからないよう隠密的な立ち回りを徹底していた。
「北沢とプリムが手を貸してくれるようになったからっつって、俺たちが圧倒的に不利な状況のは変わりない。バカの一つ覚えで特攻かますだけじゃ死ににいくようなもんだ」
上を向くと、右から左へ流れる倒壊・半壊した家々の隙間に、赤い肌を露出させる巨大な人型モンスターが垣間見える。
しかし視界に映るのはレッドトロールの正面ではなく、側面だ。
横から見上げるレッドトロールは、でっぷりと蓄えた贅肉が集まる太った腹がより際立っている。
「まだ攻撃はしない。北沢たちに伝えた時間まで……五分くらいか」
ほどほどに発動した
今回は俺ひとりで戦うわけじゃない。
北沢とプリムが所定の位置に到着するまで事は起こせない。
あいつらは俺みたいな身体強化系のスキルや魔法がないから、移動に時間がかかるのだ。
「まあ、おかげで俺も
走りながら苦々しい顔で愚痴をこぼす。
北沢から回復魔法をかけてもらったとはいえ、全快には程遠い。
「だが、泣き言ばっか言ってられねぇからな。今回の作戦、初撃は俺の猛攻にかかってる。気合い入れねぇとな……!」
俺は自ら発破をかけ、先ほど簡単にまとめた作戦会議を脳内で反芻した。
◇ ◇ ◇
遡ること数分前。
北沢のペースに合わせながら住宅街の一軒家に隠れるように走っていた俺たちは、四階建てのアパートに併設された小さな公園で足を止めた。
「……ここまで来たら一旦撒けたか?」
「さっきいた場所からそう遠くに離れたわけではないですが、このアパートはレッドトロールから見て完全に死角になっているのでひとまず問題ないんじゃないかと」
「はあ、はあ。ふ、二人とも、ちょっと待って……!」
俺とプリムが平気な顔で話している横で、肩で息をしながらふらふらと北沢がやって来た。
膝に手をついて、荒い息を整えている。
「なんだこれくらいでスタミナ切れか? そんなんじゃこの先やっていけねぇぞ」
「し、仕方ないでしょ。私、運動はあんまり得意じゃないんだから。……でも、さすがにスタミナ作りは頑張ろうって思ったわ」
俺の意見に賛同するポイントもあるようで、北沢は不承不承に体力がないことを認め、スタミナ作りを決意した。
が、そうは言っても今この場で体力が増強されるわけじゃない。
「スタミナ切れの北沢には悪いが、生憎と時間が有り余ってるってわけじゃない。とりあえず大まかな作戦だけでも立てるとしよう」
レッドトロールの電柱攻撃でおっさんが殺された直後、おおよその位置を捕捉されていた俺たちはひとまず敵から離れた。
話し合いをするなら今が好機。
すると、プリムが難しい顔をしながら顎に手を当てる。
「皆でレッドトロールに立ち向かうっていうのは決まりましたけど、具体的に何か策でもあるんですか?」
プリムの質問に、俺はニヤリと口角を上げた。
そんな俺の表情に、プリムは怪訝な様子で眉を曲げる。
「策ならあるぜ。だいぶ博打にはなっちまいそうだが、成功すればレッドトロールに大ダメージを与えられそうな……最高にぶっ飛んだ策がな」
俺は挑発するような笑みを深め、北沢とプリムに挑発的な視線を向けた。