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第32話  アタッカーとサポーター


「策ならあるぜ。だいぶ博打にはなっちまいそうだが、成功すればレッドトロールに大ダメージを与えられそうな……最高にぶっ飛んだ策がな」


 挑発するような笑みと共に発したその言葉に、北沢とプリムは一度顔を見合せる。

 そして再び俺の方に視線を向けてから怪訝な顔色を浮かべた。


「……遊一。なんかその言い方めちゃくちゃ危険な香りがするんですけど、大丈夫なんですか?」

「私もなんか聞くの怖いんだけど……。いや、私も戦うって言った手前、こんな弱気じゃいけないってのは分かってるんだけどさ」

「安心しろよ。別にお前らにそう危険は……ないと言い切ることもできないが、まあ少なくとも俺よりはだいぶマシだ。今回の作戦は、あくまでも俺がメインに戦う形の陣形だからな」


 北沢とプリムも戦ってくれるのは嬉しいが、俺としてはあまりこの二人を矢面に立たせる気はない。

 元々この戦いは俺ひとりで完結させる気概で挑んでいたっていうのもあるが、能力面で見ても二人とも積極的に自分が攻勢に出て敵を殲滅するタイプじゃないからだ。

 どちらかと言うと誰かアタッカーとなる人間をサポートすることでその真価を発揮するような部類のプレイヤーだと思っている。

 北沢も戦闘経験なんてないだろうし、プリムなんてサポート妖精だとか自称してるんだから、言うまでもないだろう。


 ならば、この中で自身の命を危険に晒してアタッカーの役割を引き受けるべき人間は俺しかいない。


「まず、俺がアタッカーとしてレッドトロールの足に切り込む。そうすれば当然、レッドトロールは俺を殺そうと攻撃を仕掛けてくるだろう。足で蹴り飛ばそうとしたり、踏み潰そうとしたり、あるいは殴って粉砕しようとしたり、な」

「もしかしてそれ、遊一がやってた攻撃ですか?」

「ああ、そうだ。さっきはレッドトロールの猛烈な反撃を捌ききれずにパンチをかすっちまったが、ここで北沢たちの出番だ」

「わ、私たちの……!」


 北沢がごくりと生唾を飲み込んだ。

 少し緊張感が走るのを感じながら俺は続ける。 


「攻撃を仕掛け、レッドトロールが俺に夢中になって反撃をしてきた瞬間、北沢とプリムは魔法で奴の気を引いてほしい。そうだな、あまりレッドトロールには接近しすぎず、中距離くらいで上手く立ち回ってくれ」

「……っ! な、なるほど」 

「でも、そうしたら今度は私たちに標的が移るだけなんじゃないでしょうか? さすがの私でもレッドトロールにガチで狙われたら反撃するのは難しいですよ?」

「大丈夫だ。お前たちは一瞬レッドトロールの気を引いてくれるだけでいい。僅かでも隙が生じれば、そこから俺がもう一回猛攻を仕掛ける。もしできそうなら、遠距離から俺に結界魔法でも張ってくれたら心強いが……まあ、これはできればで構わない」


 その言葉に、二人は黙ってしまう。

 北沢は息を呑むような顔で、プリムは冷静に分析するような瞳で俺を見据える。

 その後、先に口を開いたのは北沢だった。


「で、でもそれじゃあ神崎君がずっと危険な目に合うんじゃ……」

「心配はいらねぇよ。さっきレッドトロールに攻撃した時も、俺の双剣はダメージを与えるレベルには至ってた。反撃さえこなけりゃ、あのまま足一本落とせてた手応えはあるからな」

「あっ、そ、そうだ! 私の炎魔法はレベル六で他の魔法より頭一つ抜けてるし、気を逸らすだけじゃなくて攻撃手段として効果があるんじゃないかしら!」


 その提案に、俺はゆっくりと首を振った。


「……言いにくいんだが、多分北沢の炎魔法じゃレッドトロールに致命傷を負わせるほどのダメージは与えられないと思う」

「な、なんでよ!?」

「レッドトロールの特性、ですね?」


 心を見透かしたようなプリムの発言に、俺は無言で頷いた。


 レッドトロールはただ力が強いだけの巨人じゃない。

 奴には物理的な腕っぷし以外にも、明確な『強み』がある。

 そしてその『強み』こそが、今回の作戦の最大の懸念事項になるポイントなのだ。




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