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第33話  現状での最善策


 レッドトロールは物理的な攻撃力に秀でた巨人だ。

 あいつが暴れただけで、街は簡単に破壊の限りを尽くされる。

 現に今も俺の地元である近隣エリアが大災害に見舞われたかのように半壊しているのだ。

 が、奴の『強み』の本質はその腕っぷしにある訳ではない。

 力が強いのは単純にレッドトロールが巨人であるからという体格的な理由に過ぎない。


「本当に危険視すべきなのは、レッドトロールの腕力じゃなく――――奴の『魔法』と『耐性』だ」


 俺の主張に、北沢は目を丸くして不思議そうに首を傾げた。


「魔法と、耐性……?」

「ああ。この緊急クエストが始まった瞬間、あのレッドトロールの姿を初めて確認した段階で俺は鑑定スキルであのデカブツの情報を見た。そうしたら、あのレッドトロールは炎魔法に高い適正があって、かつ炎にも高い耐性があるんだとさ。だからアイツに炎系統の攻撃はいまいちダメージが通らねぇんじゃないかと思う」

「え、えっ、ちょっと待ってよ。炎の耐性……っていうのはまだ分かるわ。あの赤い肌を見たらたしかに炎っぽいイメージはあるし。でも、炎魔法なんて一度も使ってないじゃない!」 

「それは恐らく……」

「レッドトロールが私たちを取るに足らない羽虫くらいにしか思っていないからでしょうね。これはあれですよ! 俗に言う"舐めプ"って奴です!!」


 プリムが怒りを露にしながら俺の言葉を引き継いでくれた。

 北沢はほのかに絶望を匂わせた顔色で声を震わせる。


「な、舐めプって……そ、それじゃああのレッドトロールとかいう化け物は手を抜いてこれだけ壊滅的な被害を出してるってこと!?」

「そうなるな。だからこそ、そこを狙うんだ。アイツは俺たちを舐めて魔法すら使わずになぶり殺そうとしている。その油断を利用し、一気に形勢逆転して叩き潰す」


 拳をぎゅっと握り、レッドトロールを捻り潰す様をイメージする。

 レッドトロールは明らかな格上だ。

 つまり俺たちが成し遂げようとしているのは下克上であり、格上殺しである。

 だが、奴は自身が格上であると確信しているがゆえに油断しきっている。

 そこがレッドトロールの致命的な弱点だ。


「懸念点があるとしたら、本気を出したレッドトロールの本領がまだ完全には見えていないっていうところですね。特にお得意の炎魔法を全力で振るわれたら、どの程度の被害になるか予想がつきません」


 プリムの指摘に、俺はもっともだと伝えるように頷きで返す。


「最悪ここら辺は火の海になっちまうかもしれねぇな。絶対にそんなことさせる訳にはいかねぇが」


 ここは何の変哲もないどこにでもあるような住宅街だが、俺が十七年間住み着いた思い出がある場所でもある。

 それに何より、我が家が全焼して灰の山にされるのは許容できない。

 まあ、さっきのレッドトロールの暴れ具合からして俺の家もすでに被害を受けている可能性はあるが、炎をばらまかれてしまえばあっという間に延焼して俺の家も焼き尽くされるだろう。


「ま、色々と懸念点はありますし正直言って穴だらけでスマートな作戦だとはお世辞にも言うことはできませんが、現状だと仕方ないですね。それでいきますか」

「言い方に刺がありまくりなんで、もう少し配慮を加えた表現にしてほしいもんだがな」


 べっと舌を出して嫌みに反抗する俺に、プリムは楽しそうに不敵な笑みを浮かべた。

 ややあって、フッと二人で笑い合う。

 すると、俯いて黙っていた北沢がバッと顔を上げ、俺の手を握った。


「か、神崎君!」

「おお、どうした、北沢」

「気をつけてね……危なくなったら、すぐに逃げて」

「……ああ、さすがに二発目のパンチは食らいたくないからな。死にそうになったらその前にとんずらこくとするわ」


 北沢からの忠告を胸に刻みつつ、握られた手に力を込める。

 今から俺は再び戦禍に赴くのだと再認識し、密かに覚悟を磨いた。




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