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第42話  告げる直感


 面白いプレイヤーがいた。 

 街を滅ぼす醜悪な巨人に小さな体で立ち向かう、恐らく僕と同じ高校生の男子。

 使っている武器は、短剣のようなものを両手に一つずつ持っているのが見えた。

 あわよくば彼のおかげで巨人との戦闘の流れが一変するかと期待したんだけど、結果は惨敗。

 勇敢な高校生プレイヤーは、巨人の怒りを買ってしまったことで呆気なく反撃を食らい、吹き飛ばされてしまった。

 タイミングが合えば援護射撃でもしてあげようかと本気で構えていたんだけど、残念ながらその機会は訪れなかった。


「大丈夫かな彼。あの威力のパンチを防御なしで食らったら余裕で死ねるよね。……て、おいおい。あの巨人の怒りはまだ収まっちゃいないって訳かい?」


 勇敢に戦いに身を投じた戦士の死を悼むような感傷に浸っていたんだけど、変化しつつある状況に強制的に意識を移された。

 スコープから目を離し、自らの肉眼でもって高所から様子を窺う。

 巨人は手元に高く伸びていた電柱をガシッと掴み、ベキベキと破壊音を鳴らしながら力任せに引き抜いた。

 ぶらん、と垂れる引きちぎられた電線。

 数本のロープのような電線を垂らしながら巨人は電柱を構えると、そのまま投げ槍のように投擲した。

 方角は、先ほど少年が吹き飛ばされたエリアに近い。

 数秒ほど上空をアーチ状に飛行した電柱は、爆発するような轟音を立てながら街の一角に激突。

 だけど、ここからだと遠すぎてプレイヤーに命中したのかどうかは分からない。


「まさか、さっきの彼に対する追撃か? あの巨人、思ったよりも執念深いみたいだね」


 僕がいるこの場所から巨人がいる場所まで目算の直線距離でおよそ六百メートルほど。

 スコープを通していない肉眼だとあまり細部まで確認することはできない。

 先ほどの彼の生死は不明だ。

 ただ、電柱が直撃した遠方ではもくもくと土煙が浮かび上がっていた。


『でー? さっきからずっと待ってるんだけどいつ攻撃するつもりなのよ。ウチはいつでも準備万端ですけどー?』


 痺れを切らしたように、スナイパーライフルは不満げな様子を表した。

 僕はおずおずと体勢を戻し、再びスコープを覗いて詳細な状況を探る。


「……可能性は低いかもしれないけど、もう一度チャンスを待つ。彼が死んでなければ、多分また巨人に攻勢をしかけるはずだ」

『はあ? なにそれ。結局あのどこの馬の骨とも分かんない雑魚プレイヤーに全てを託すわけ? イミフなんだけど』

「雑魚プレイヤー、か。まあ、彼の強さはどれほどのものかは知らないけど、立ち回りからしてそこまで低レベルというわけでもなさそうだよ。それか、僕と同じで何らかの固有能力を持っているのかもしれないな」

『さっきチラッと見えただけの赤の他人を随分と高く評価してるのねぇ? ウチには大したプレイヤーには見えなかったけど』

「かもね。だけど、僕の直感が告げてるんだ。もしこの絶望的な緊急クエストを攻略できる可能性があるとしたら、彼はきっと――――必要不可欠なピースの一つだって」


 断言する僕にスナイパーライフルは一瞬息を呑み、すぐに気圧された自分を振り払うように、ふんっ! と鼻を鳴らした。

 もしこの子が人の形をしていたなら、腕を組みながらそっぽを向いている光景が思い浮かぶ。

 そんな可愛らしい部分もある無機質なスナイパーライフルの銃身をさらっと撫で、開いた片目でスコープを覗く。


「果たして僕はキミを買いかぶり過ぎているのか……この目で確かめさせて貰おうか。まだ戦えるなら立ち上がってみろ――――向こう見ずのプレイヤーA君」


 遠くにいる巨人と、さらにその遠方から立ち上る灰茶色の土煙。


 僕の期待を背負う少年プレイヤーの姿は、まだない。





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