――――ダァン!
レッドトロールが口に含ませた炎の塊を俺に向かって吐き出そうとした、その瞬間。
銃声のような無機質な発砲音が響いた。
「ガガッ!? グガァァ……」
俺の目の前で大口を開きかけていた巨人が、白目を向く。
そのまま力が抜けたように全身をぶらんとさせ、横向きに倒れた。
「な、なにっ!?」
―――ドシャァアアアアアアアアアアアアアアン!!!
巨人が力を失い、数軒の家々を粉砕して大地に倒れ伏した。
凄まじい衝撃と震動、そして瓦礫の粉塵を多分に含んだ濁った暴風が強く俺の体を叩きつける。
「ぐおっ! や、やべぇ! どっかに着地しないと……!!」
暴風に空中で煽られた俺は、急いで周辺の建造物を探し、辛うじて基礎構造を保っていた一軒家の二階のベランダにダイブした。
しかしスマートな着地などを考えている余裕はない。
とにかく上からベランダに転がり込んだ俺は、そのまま勢いを殺しきれず背中から窓に直撃。
ガシャーン! とひび割れていた窓ガラスが一斉に粉砕し、俺の体に鋭い破片の雨を降らせた。
「ぐはぁ! くっ……いってぇな……!!」
ジャラジャラと体に覆い被さる無数のガラスの破片を払いのけ、よろめきながら立ち上がった。
全身がガンガンと痛みを訴えてくるが、もはやベランダにダイブした際のダメージなのか、
だが、俺は無理やり気合いで足に力を漲らせ、ベランダの落下防止用の柵に両手をついた。
すぐ隣の家は濃霧のような土煙がいまだ立ち上っている。
「……あのデカブツ、どうなったんだ? つーか、さっきの音は銃声、だよな……?」
俺とレッドトロールとの戦闘に割って入ってきた謎の音。
あれは一体何だったのか。
「一瞬しか見えなかったが、レッドトロールの側頭部を何かが超高速で貫通したような気がした。もしあれが銃弾だったとしたら……あの化物にヘッドショット決めた野郎がいやがるってことか!?」
そんな芸当ができるのは、間違いなくプレイヤーだろう。
しかもかなり高レベルの予感がする。
最低でも俺と同じレベルか……あるいは圧倒的に格上かもしれねぇ。
「だが、おかげで助かった。方角的には向こう……あのマンションから撃ってきたのか?」
銃弾が飛んできた方角を辿ると、高いマンションがあった。
あれは駅前の方に位置する十五階建てのマンションだったか。
「おいおいマジか。あそこからレッドトロールの側頭部を撃ち抜いたってことかよ。……スナイパー魔法でも持ってんのか? つーかまさか銃火器まであるとは……この《新世界》、かなりスキルや魔法のレパートリーが広いみたいだな」
まだスナイパーは敵か味方か確定はしていないが、今回はおかげで助かった。
銃弾の横槍が入らなかったら、危なかったかもしれない。
そう安堵しかけた瞬間、土煙の渦中で、ガララッ……と音が鳴った。
「グガァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
沸き上がる咆哮。
と同時に、巨大な図体がぐらり、と持ち上がった。
「なにっ!? アイツ、まだくたばってなかったのか!?」
レッドトロールは家の駐車場に停車してあった軽自動車を無造作に掴み取り、そのまま勢いよく腕を振るう。
エース投手さながらの豪速球と化した軽自動車は、風を切りながら一直線に上空を突き抜けていき――――俺が眺めていたマンションの屋上に突き刺さった。
数百メートルは離れているのにも関わらず、ドガァァアアアアアアアン!! という荒々しい轟音が街中に反響する。
「ぐあっ! な、なんっつー馬鹿力だ! いや、それよりも向こうは大丈夫なのか!?」
音圧と衝撃波を腕で守りながら、吹き抜ける粉塵の中で恐る恐る目を開ける。
マンションの方を見てみると、屋上の辺りに軽自動車が直撃した状態で停止していた。
車体の半分以上がマンションの外壁にめり込み、屋上の一部を抉っている。
しかしここからでは距離が離れすぎていてプレイヤーの安否は確認できない。
「生き残ってくれている、と信じるしかねぇか……! だが、貴重な遠距離攻撃要員を無駄にするわけにはいかねぇ!」
俺は痛む体に鞭を打ってベランダの柵につま先をかけ、そのまま地面にダイブした。
二階から飛び下りた俺は受け身を取りながら道に降り立ち、若干ふらつきながらも立ち上がろうとしているレッドトロールに特攻する。
「あんま遠くばっかり見てんじゃねぇよデカブツ野郎! 足元が疎かになってるぜ!」
これは千載一遇の好機だ。
今この場で畳み掛けて一気に攻め潰す!
俺は【不棄の雷双剣】を構えながら決意し、未だ煙幕のように土煙が蔓延するレッドトロールの元へ突撃するため、