スナイパーと思わしきもう一人のプレイヤーがレッドトロールによって封じ込められる。
が、すでに状況は一変した。
俺は
ズキリ! と足全体に軋むような痛みが走るが、今はアドレナリンでどうにか誤魔化した。
「後で死ぬほど全身筋肉痛で苦しむだろうが……今はんなこと考えてられねぇよな!」
双剣を構え、レッドトロールの大樹のような足首に接近。
狙うは先ほどと同じ左のアキレス腱だ。
土煙を払いながら突進すると、跡形もなくバラバラに砕けた家屋を踏みしめるように目標が姿を表した。
と同時、俺は驚嘆に目を見開く。
「っ! 傷が完全に治ってないな!?」
レッドトロールの左足首はまだ血がだらだらと吹き出していた。
俺が奇襲を仕掛けた際、できる限りのダメージを与えた名残の傷跡だ。
奴には多少の再生能力があるようだが、今回は完治していない。
「キレイさっぱり無傷に戻ってたら心が折れてたかもしれねぇが、まだ傷が塞がってないなら希望が持てるぜ! 追撃食らえや、おっらぁああああああああああ!!」
【不棄の雷双剣】に魔力を通し、電撃性を付加して血が漏れている箇所を切り裂いた。
「ガグォォオアアアアァアアアアアアアア!!!」
レッドトロールの絶叫。
立ち上がろうと踏ん張っていた矢先、俺が影から攻撃を仕掛けたことでその動作は強制的に中断される。
そして、ついに俺が望んでいた展開が起きた。
「グガガガァァアアアア!! ォォオオオオオアアアアアア!!!」
ズシィン……! と膝をつくレッドトロール。
街に凄まじい縦揺れが起こった。
「……っ! これは――!!」
頭上から降ってくる巨大な手。
俺は色濃くなっていく上空からの不穏な影に追いつかれないようにその場を離れる。
直後、数瞬前まで俺がいた場所にレッドトロールの右手が振り落とされた。
しかし、それは俺に対する攻撃というわけではなく、崩れたバランスを立て直すために咄嗟に地面に手をついたという方が正しそうだ。
「よっしゃ! ついにこのデカブツに膝をつかせたぞ!!」
狙い通り!!
やはり巨人といえども身体構造は人間と同じだ!
ならばアキレス腱を切られてまともに立ち上がれるはずがない!
「ただ、問題は長時間放置していたらいずれ傷も再生しちまうだろうってことだな。一回目で最初に俺が刻み付けた傷は二回目の奇襲時には治ってたし、それにさっき頭に食らった銃弾も回復してるみたいだし……!」
地上からじゃ高すぎてレッドトロールの頭をよく確認することができないが、ふらつきながらも体を動かせているということは何とか最低限の回復は完了しているのだろう。
もしかしたら、頭部の回復を優先するあまり俺が攻撃した足首の傷の再生は後回しになってるのかもしれねぇな。
理由は分からないが、どちらにしろ問題ない。
アキレス腱を切断し、レッドトロールの歩行を食い止めたという事実が最大の成果だ。
「ここから一気に畳み掛けるぞ!!」
まだ油断はできない。
特に注意すべきは、奴の炎魔法だ。
物理的な動きは停止させたものの、魔法だけは例外である。
自分が動かずとも魔法を操作することはできるからな。
だから突発的な炎魔法にだけ注意して、どうにかこうにかこの双剣を奴の首元まで刺すことができれば俺の勝ち――――
「――邪魔だ! どいてろ、プレイヤーA!!」
俺が双剣を構えて駆け出そうとした瞬間、遠くから待ったがかかる。
声が降ってきた方に顔を向けると、遠方から家々の屋根を駆け抜ける一人の男――『プレイヤー』の姿が見えた。