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第46話  適応力


 俺の執拗な攻撃により、ついに膝をついたレッドトロール。

 ようやく動きを止めることに成功した俺は、双剣を構えて畳み掛けてやろうと挑戦的な笑みを浮かべる。

 だが、奴の魔法だけは気を付けなければならない。

 どこから飛んでくるか分からない炎魔法にだけは注意して、再びレッドトロールの足元に飛び込もうとした、瞬間。


「――邪魔だ! どいてろ、プレイヤーA!!」

「っ!?」


 突如、街中に響き渡る若い男の声。

 声が降ってきた方角を見ると、いくつも軒を連ねる家屋の屋根を駆け抜けてくる一人の男の姿が見えた。

 遠目であるためはっきりと認識はできないが、手には何か長大な武器のような物を携えている。


「な、なんだ!? まさかあれ……プレイヤーか!?」


 周囲の建物が全壊・半壊するほどの壊滅的被害を受けているからこそ見通しが良くなり、謎の闖入者ちんにゅうしゃの姿も次第に鮮明になってくる。


 その男は、上下とも紺色の衣服だった。

 いや、上は紺色のカーディガンを身につけていて中に白いシャツを着ているのか?

 あの格好……まさか学生?

 今は季節的に夏から秋へ差し掛かろうとしている頃合いだ。

 そのため、最近では俺のクラスでもチラホラとカーディガンを着用しだす奴が現れていたのを思い出す。


「マジか……? まさかアイツ、俺と同じ高校生だったりする?」


 状況からして、もしかしてさっきレッドトロールの頭を撃ち抜いたスナイパーだろうか?

 手にしている武器も細長いスナイパーのような形状をしている。


 その男が家の屋根を蹴りながら、一際大きく跳躍した。

 ガチャリ、と金属が噛み合うような音が鼓膜に届く。


「さっきはよくも車なんてぶつけてくれたね。危うく押し潰されるところだったよ。だからお返しに、もう一回眠らせてあげようじゃないか!」

『や~っと本気を出したのね! それなら、ウチも張り切っちゃおうかな~!!』


 やはり銃火器!

 男はライフルの銃口をレッドトロールの頭に差し向ける。

 数瞬、狙いを定めるようにスコープに顔を近づけた。

 そして――ダァン! と発砲音が響く。

 先ほど突然聞こえてきた銃撃と同じ音!


 弾丸は凄まじい速度でレッドトロールの眉間に向けて撃ち出された。

 あいつ、またヘッドショットを決めるつもりかよ!?

 だが、次もしヘッドショットが決まれば今度こそ決定的なチャンスになる!

 数秒でもレッドトロールが意識を失ってくれれば、俺の剣が致命傷を与えるには十分すぎる隙だ。


 そう直感し、双剣を握る手に力を込めた。

 が、レッドトロールは反射的に空いている左手を襲来する弾丸へと差し向ける。


「ガッッグガガァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「ぐわっ!? あ、熱っちいなッッ!!?」


 瞬間、爆発するような熱気がレッドトロールを中心に全方位に拡散される。


 反射的に俺は上限突破ハイオーダーを発動し、全力でその場を離脱。

 数十メートル離れれば何とか熱気は和らいだので、三階建ての豪華な家の屋根に跳躍し、周囲を見渡した。


「やっぱ一筋縄じゃいかねぇか……! つーか、さっきの銃弾は……」


 レッドトロールは全身を燃え上がらせ、突き出した左手から炎を吹き出している。

 どうやら、銃弾はその炎に呑まれて消失してしまったようだ。

 こちらにやって来ていた男は銃口を下ろし、険しい表情で目を細める。


「……二度同じ手は食わないってわけかい? さっきは完全に不意を突いたつもりだったんだけど、中々適応力もあるようだね。――――だったら、これならどうだい!」


 男は銃身を振るい、レッドトロールに向き直る。

 そして、声を張り上げて宣言した。


「『銃王無尽ジ・オールヘヴィーショット』・モードチェンジ――――ガトリングガン!!」





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