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第47話  ガトリングガン


 突如姿を表した男のプレイヤー。

 恐らくスナイパー的なスキルを有している奴が、再びライフルの銃口をレッドトロールの眉間に照準を合わせた。

 これが決まれば今度こそレッドトロールを屠る決定打となる確信があったが、さすがエリアボスというべきかそう一筋縄ではいかないらしい。


「ガッッグガガァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 レッドトロールは凄絶な絶叫と共に全身から炎を噴き上がらせ、手から火炎放射器の要領で吐き出した炎の波によって襲来する銃弾を無効化。

 いとも容易く突発的な銃撃に対応してみせた。


「ハハ、マジかよ。なんかさっきよりも火力が上がってんじゃねぇか?」


 熱気から守るように腕を前に出しながら独りごちる。


 今の銃弾が命中していればチェックメイトだったが、これでまた振り出しに戻ってしまった。

 そう状況を分析し、俺はいつでも戦闘に参加できるように腰を低く屈め臨戦態勢を維持する。


 だが、不意に静かな熱を含んだ声色で優しい男の声が響いた。


「『銃王無尽ジ・オールヘヴィーショット』・モードチェンジ――――ガトリングガン!!」


 男が手にしていたスナイパーライフルのような長大な銃。

 それが鈍く光を放ち出した。


『オッケーたまき~! ようやくウチの本気を見せるチャンスがきたってことね!』


 女っぽい口調。

 しかしその声は人間が発したとは思えないほどガザガザと濁った音をしており、まるで音声加工を施して話しているかのようだった。

 しかし俺とあの男……たまきとか呼ばれていた人間以外にこの場にプレイヤーはいない。

 じゃあ今の不気味な声は一体どこから……? と意識が向くのを強制的に遮断するように、銃身がガチャガチャと変形していった。

 細長い形状をしていたスナイパーライフルはその銃身をやや引っ込め、代わりに横幅がだいぶ広がっていき、ボリューミーな造形に進化。

 六つの銃口とそれに応じた弾倉、そして給弾ベルトがだらんと伸びて完成だ。

 その武器を、俺はかつて遊んでいたゲームで見たことがあった。


「あれは……ガトリングガン!?」


 俺の叫びに呼応するように、束ねられた銃身がグググ……と回転し出す。

 その瞬間、男が愉快げな声で口を開く。


発射ファイア!!」


 同時、回転式の銃身が一斉に火を吹いた。


 ――――ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!


「グガァァアアア!! ガグァア! ウガガガァァアアアアオオオオアアアア!!!」


 鳴り止まない銃撃音は壊滅的なダメージを撒き散らす。

 次から次へと毎分数百発は優に撃ち出せそうな回転性能と、一発一発の弾丸が持ち合わせる威力。

 それらが弾幕となってレッドトロール目掛けて襲いかかる。


「さっきのライフル一発じゃキミの炎に焼かれて終わりだったけど、無数の弾幕ならどうかな!」


 ガトリングガンの哄笑は終わらない。

 レッドトロールも炎で対抗しようとしているが、あまりにも銃弾が多すぎてその全てを捌ききれないでいた。

 時間が経つごとに一発腕に当たり、また一発頬をかすめ、じわじわと少しずつその銃弾がレッドトロールの肉を破壊して血を吹き出させている。


「す、すげぇ……!!」


 その光景に、俺は心の底から感嘆の声を漏らした。

 いまだ連続して鳴り響くガトリングガンの銃撃。

 その銃弾の大半はレッドトロールの炎に呑まれて消失しているものの、このまま長期戦に持ち込めば本当に勝ちきれるかもしれない。


 俺はその圧倒的な戦闘能力に心惹かれていた。


「今の俺じゃ再現できないプレイスタイルだ……! これはもう俺の出番はないか? ていうか、この状況で迂闊にレッドトロールに飛び込んだら流れ弾で簡単にゲームオーバーになっちまいそうだが」


 ぽっと出の謎プレイヤーに全てをかっさらわれたようで少し癪だが、まあエリアボスを倒せたなら取り敢えずは及第点だ。

 俺はかすかな期待を胸に抱きながら、勝負の行く末を傍観することしかできなかった。




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