堀切寿を尋ねてやって来たというので、なごみはとりあえず父親を家に上げた。麦茶の用意をしながら、心臓は肋骨を突き破らんばかりにバクバクしていた。
なんせ実の父親であり、七歳の頃のなごみをこの世で誰よりもよく知っている人間である。まさかなごみが小学生の身体になってしまったとは思わないだろうが、先ほどその窪んだ目が驚きで飛び出さんばかりになったのを、なごみははっきりと見ていた。
「これ、よかったらどうぞ」
「おぉ、ありがとう。しっかりしてるねぇ。今時の子にしては、感心だ」
父親はなごみが淹れた麦茶をいかにも美味そうに一気に飲み干した。父親の笑顔は自然だが、なごみの笑顔は引きつっている。これからどうしたらいいのか、まだよくわかっていない。
「お父さ……いや、おじさんは、何しにここに来たんですか?」
咄嗟の判断で、おじさんという代名詞を使った。やはり本当のことは父親にも言えない。話したところで父親には何もできないし、こんなわけのわからない事態に巻き込んでしまうだけだ。
「うん、ちょっと娘に会いにね。最近、連絡がつかないもんだから、心配していて」
「……」
「それでまずは娘のアパートに行ったんだが、夕べも今朝も留守だった。おそらく寿くんなら何か事情を知っているかと思って、ここに来たんだ」
寿が何度も父親に会っていて、父親がこのアパートに来たことさえあるのを思い出した。寿はあんな性格だが、なごみの父親には好かれている。本性がバレていないからだ。
それにしても、自分を心配して遥々東京までやってきた父の気持ちが切ない。未だにメール機能が使えない父とは電話で連絡を取っていたが、子どもの姿になってからはその電話を一切していなかった。
七歳の声でなごみです、と名乗るわけにもいかない。でも、考えればもっと何か方法があっただろう。
「ところで、君は?」
「あ……わたし、寿おじちゃんの姪です」
「姪」
「はい、堀切なみっていいます。この近くに住んでるんですけど、今家の都合で、寿おじちゃんに預かってもらってて」
椿にした言い訳がすらすらと出てきた。親に嘘をつくなと子どもの頃に叱られた経験があるが、今は嘘も方便だと思いたい。
「ほう、なるほど、なみちゃんというのか、へぇ」
「……」
「うちの娘はなごみというんだが、一文字違いだねぇ。いやぁ、顔も小さい頃の娘にそっくりで、君を最初に見た時、びっくりしたよ」
「はぁ、あ、あはははは……」
ぴんと張った顔の筋肉が自動的に唇を震わせた。