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第4話 異変



 日付けが変わって、翌日の未明。また浦吉町の空に小規模のオーロラが現れた。けれど私たち住民は、現れたことは全く知らなかった。

 そして朝になると、またもや異変が起きていた。けれど今回の異変は、これまでとは様子が違った。その異変に真っ先に気付いたのは、小金こがね地区と新田地区の人たちだった。明らかに様子が違う状況に困惑した人たちは、他の地区にも異変を伝えた。

 もちろん私が住むもと地区にも話がまわってきて、まだベッドの中にいた私の耳にも強制的に入ってきた。


「だからぁ。なんでいちいち私に報告しに来るの……。で。異変て、なに?」


 久し振りにちーちゃんに無理やり起こされて、眠い目を三分の一くらいまでしか開けられず着替えもしないまま外に連れ出された。マリウスたちも一緒に外に出ると、新田の地区長さんと小西さんたちボランティアスタッフもなぜか勢揃いしていた。


「あれを見てくれ!」


 私たちを待っていた地区長のおじさんが、西の空を指差した。


「あれは……!」


 それを捉えたマリウスたちは、訝る表情になった。

 夏休みも終盤に差しかかった今日も、太陽は朝っぱらからギンギンに輝いて、私たちの頭上はいつも通りの夏の空が広がっている。ところが、指を差された西の空は見たこともない黒雲が渦巻いていていた。目が開き切っていなかった私も、その異常な雲に驚いて覚醒した。


「なんなの。あの雲……」


 絶対に雷雲なんかじゃなかった。だってその下が、夏の太陽の日差しさえ全く通さず、光という光を全て遮蔽したように真っ暗くて、まるで深海か地獄のようだったから。


「未明にまたオーロラが現れたんだら? きっとまたそのせいなんだら(※)?」


 地区長のおじさんは深刻な顔をして私たちに訊くけど、出現を知らないからなんとも言えなかった。だけど、オーロラが現れたのなら関連はある。

 だけど今回の現象は、何か異様な予感がする。それはマリウスたちの表情を見ればわかった。一同は揃って眉を顰めて、これから深刻な事態が訪れるかもしれないことを面持ちで予告していた。

 その時、地区長のスマホが鳴った。


「見てくれ! これが西あるんだよ!」


 そう言って、送られてきた写真を見せてくれた。その写真を撮った位置と画角的には、丘の上の西小学校の校舎が写っているはずだった。校舎の代わりに写っているものに私たちは驚愕し、目を疑った。


「これ……お城?」


 西小の校舎の代わりに写っていたのは、坂の下からの画角でしか入らないくらい大きなお城だった。夢の国にありそうな城だけど規模が全く違って、パークのやつの十倍はありそうだった。実際はどのくらい大きいのかは写真ではわからないけれど、とにかく、一番高い尖塔が黒雲に届くんじゃないかってほどの規模に見える。


「この城は、まさか……」


 途端にマリウスの表情が険しくなる。ヴィルヘルムスも、ノーラも、ティホも、私がマンガやアニメでしか見ていない危機感を帯びた表情を、こっちの世界に来てから初めて見せた。

 これは、只事じゃない。四人がいつもと全く違う表情をしているせいもあるけれど、あの怪しく渦巻く黒雲を見た私も、平和的に解決できるような出来事ではないとひしひしと感じていた。

 町にも、いつの間にか異様な空気が漂っているような気がする。ベランダで洗濯物を干そうとしていた人は洗濯物を干すのをやめてそそくさと家の中に戻り、これから仕事に行く人は西の空を不安そうに見つめると足早に駅に向かった。フーヴェルの人たちの姿もない。普段からが働いているからか、誰も顔を出していなかった。


「ねえ、マリウス。もしかしなくても、ヤバイの?」


 不安に心が支配されそうになった私は訊いた。


「かもしれない。俺たちは実際に見たことはないが、恐らくあれは魔王城だ」

「魔王城!?」


 それを聞いた瞬間、私の身体が罪悪感に侵食されていく。

 私は間違ったことをしてしまったのか。やっぱりマリウスたちの主張の方が正しかったのか。とんでもない間違いを犯してしまったんじゃないかと。これから起こるかもしれないことを想像して、身体が緊張した。

 異世界ものを観てきたから、魔王との戦いがどんな熾烈なものになるかはだいたい想像ができるけれど、とても容易かった。自分にこれだけの想像力があったなんて、こんな状況で知りたくなかった。

 だけど、その想像の中にいる魔王の存在に気付いた私は、あることにハッとした。


「舞夏。大丈夫か?」


 私が緊張していることに気付いたマリウスが、声をかけてくれた。私は平常心をできるだけ保って答える。


「うん。大丈夫……。というか、あのさ。さっきからヘルディナがいないけど、どこに行ったの?」

「え?」


 私が訊くと、マリウスたちもその時ヘルディナがいないことに気付いたようだった。




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