目次
ブックマーク
応援する
6
コメント
シェア
通報

第84話『クリスマス』

 クリスマス・イブ。私はウキウキしながら神社を出発した。


 昨日から学校は冬休みに入り、しょっぱなの予定が友達と遊びに行く約束だなんて子どもの頃以来だ。


 出掛けに私は芹と狐たちに何度も何度も忘れ物は無いかと尋ねられ、全員に送り出されるという何だかむず痒い体験をした。


「家族ってあんななのかな」


 あんな風に送り出された事が無かった私は思わずニヤける顔を引き締めて、待ち合わせ場所へと向かった。


 待ち合わせ場所に到着すると、そこには既に細田が棒付きの飴を咥えてスマホを弄っている。


「遅くなってごめんね!」


 私が近寄ると、細田はスマホから視線を上げて私を見るとパッと顔を輝かせる。


「待ってないって! つか、早くね?」

「田舎は乗り遅れると遅刻確定だからね!」

「なるほど」


 笑いながらそんな話をしていると、そこへ椋浦がやってきた。


「おっはよ~! お、何だ何だ細田! 良いもん食べてんじゃん」

「一本しかないからやんねぇよ~。で、まずはどこ行く? ムックなんか見たいんだよな?」


 細田の言葉に椋浦はハッとして頬を染める。その反応を見て私と細田は思わず顔を見合わせた。


「彼氏か~? 『なんつってな。彼氏だったらクリスマスに遊ばねぇよな』」

「ち、違う! まだ! 『ぎゃー! 彼氏とか言わないで!』」

「まだ!? ムック、何も聞いてないよ! クラスの人?」


 思わず身を乗り出すと、椋浦は耳まで真っ赤にして俯いてボソボソと話し出す。


「じゅ、塾の人。まだそんな話すような段階でもないって言うかさ」

「よし、決まりな。まずはお茶しようぜ! で、じっくり聞きたい。な、彩葉」

「うん!」


 生まれて初めての恋バナに何だか私まで嬉しくなってしまった。そんな私達の言葉に椋浦はやっぱり顔を真っ赤にして頷いたのだった。


 それからカフェに移動して話題は椋浦の好きな人の話をしばらく聞いていたが、それから細田の彼氏の話になり、最終的には私の話になる。


「で、巫女様は誰か居ないの? 気になる人!」

「巫女様は止めてよ! それにそんな暇もないって言うか、それどころじゃ無いっていうか」


 夏休みから怒涛の展開過ぎてたまに自分でも今の日常は実は全て夢なのではないかと疑うほどなのだ。


「まぁそうだよな。突然家出されて神社に一人暮らしだもんな。それどころじゃないよな~」

「あれ? でもたまに親戚のお兄さん来るんだよね?」

「あ、うん……そう」


 椋浦に咄嗟についた嘘だったが、唐突に芹の顔を思い出して思わず私は俯いた。そんな私を見て突然二人が身を乗り出してくる。


「おいおい、彩葉まさか!」

「ちょっと! ちゃんと親等離れてるんでしょうね!?」

「は、離れてる! すっごく遠い!」


 何せ相手は神様だ。親等どころか人間ですら無い。そんな私の言葉を聞いて二人がにんまりと笑った。


「よし! ムックと彩葉の好きな奴に渡すプレゼント見に行くぞ! で、今日はうちで晩飯食って解散な!」

「えっ!?」


 細田の言葉に私と椋浦の声がピタリと重なった。そんな私達を見て細田がニヤニヤしている。


「だって私は彼氏の実家がケーキ屋だから昔からクリスマスは会えないんだよ。だからまだ猶予あんの。でもあんた達には無い。はい、決まり!」


 張り切る細田に引きずられるようにして私達はそれから夕飯の時間まで色々な店を周った。


 こんなにも長時間友達と買い物するのは初めてで、疲れよりも楽しさや嬉しさが勝つ。


 そして結局細田に言われるがまま私は芹と狐たちへのクリスマスプレゼントを買って細田の家へ向かうと、何故かご家族に感謝されながら焼き肉をご馳走になった。


「いや~食った食った!」

「美味しかったね!」


 笑顔で言うと、二人は満面の笑みで頷く。


「さ、それじゃあ送ってくよ! ムックは塾な! そんで彩葉は最寄り駅まで!」

「ほ、本気だったの!?」


 細田の言葉にまた椋浦と私の言葉が重なった。


 するとそんな私達を見て細田が怖い顔をして私と椋浦の肩をがっしりと掴む。


「もち! 彩葉、ムック、よく聞け。友情は永遠だ。でも愛情は一瞬だ。旬を逃したらあっという間に他のに持ってかれる。つまり、他の日ならともかくクリスマスなんかに友情を取るのは大馬鹿者のする事だ。分かったか『二人がクリスマスに一緒に居るべき相手は私じゃないもんな、絶対に。でも、予定空けてくれたのは嬉しかったよ、本当に』」

「わ、分かった。友情は永遠なの?」


 細田の言葉が嬉しくて思わず目を潤ませると、そんな私に椋浦が抱きついてくる。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?