「当然でしょ! うちら中学からのお付き合いじゃん! 細田だって神社友達じゃん! 『彩葉なら絶対うまくいく! こんなチャンス逃させないよ! ついでに私も頑張る! 細田がくれたチャンスだもん!』」
「いや、神社友達って……まぁ何でもいいや。ちょっと待ってな。田舎は電車もバスも終わるの早ぇからな! 車出してって頼んでくる!」
「え!? い、いいよ! ただでさえご馳走になったのに悪いよ!」
「悪くない! 食後のドライブだ! ついでにケーキ買って行こうぜ!」
「あー! そんな事言って彼氏自慢するつもりだな!?」
「へへ、バレた!」
「細田さん……ありがと。あのね、良かったら二人ともお正月にうちの神社に来ない? 新年の餅つき大会するんだ」
昔から私はこんな風に誰かに自分の事を打ち明けた事がなかった。だから今まではその場限りの友人しか居なかった。こんな風にクリスマスに遊び、友情は永遠だなんて言ってくれる友人は1人もいなかったのだ。
指を擦り合わせて二人に尋ねると、二人はすぐさま満面の笑みで頷いてくれる。
それから本当に細田の両親が揃って私達を車で最寄りの駅まで送ってくれた。
「こんな所まで……夕飯もご馳走になったのに本当にご迷惑をおかしました。そしてありがとうございます」
「いいのよ~! この馬鹿娘にこんなまともな友達が出来るなんてちょっと感動よ!」
細田の母親はそう言ってずっとニコニコしてくれている。今まで細田にはどんな友達が居たのだろうか。
「細田さん、ムック、ありがとう! また遊ぼうね!」
「もちだよ!」
「あったりまえだろ! 話聞かせろよな! あと私の事は由紀でいいぞー! そんじゃ、次は正月な!」
「うん! おやすみなさい! 良いクリスマスを!」
私はそれだけ言って走り去る車を見えなくなるまで見送った。
行きには小さなバック一つしか無かった荷物だが、今は両手に一杯の荷物を抱えてバスに乗り込む。
バス停に到着すると、私は早足で帰路を急いだ。
プレゼントを渡したら三人はどんな顔をするだろうか? 今日は泊まると言ってあったけれど、突然帰ったら驚くだろうか?
胸を弾ませながら小走りであぜ道を歩いていると、何故か前方から芹が歩いてくるのが見えた。その後ろから狐たちが走って追いかけている。私はそんな三人に手を振って叫ぶ。
「芹様ー! 先輩たちー!」
すると、ワープでもしたのかと思うほど一瞬で目の前に芹が現れる。
「巫女! お前はどうしていつも連絡を寄越さないんだ! お前が村に入ってきた事に気付かなかったらどうするつもりだったんだ!」
「あ、歩くの早すぎませんか?」
「普通だ。そんな事よりも、どうした? 何かあったのか? まさか虐められたか?」
「ち、違いますよ!」
「せ、芹様! ち、力を使うのは反則です!」
「そうです! 普通に走れば良いではないですか!」
「ち、力を使ってワープしたんですか?」
「ワープとは何だ? それよりも私の質問に答えろ。今日は帰らないと言っていただろう」
相変わらず蛇のようなしつこさでじっとこちらを見下ろす芹に、買ってきたケーキを手渡した。
「今日ね、実はクリスマスって言う日なんです。この日は海外の神様のお誕生日なんですけど、日本ではそれよりもお祭りの日って意味が強くて、恋人とか家族とか、大好きで大切な人と過ごす日なんです。だから皆で晩ごはん食べて解散してきちゃいました!」
「……つまり、巫女は私達と一緒に過ごしたかったという事か?」
「ええ、まぁ」
細田に言われて半ば無理やり帰されたが、本当は心の中では芹達と初めて過ごすクリスマスも楽しそうだなと思っていた。だから細田があんな風に機転を利かせてくれた事に感謝しかない。
私の言葉に芹は口の端を上げて微笑み、私の手からケーキを受け取る。
「帰るか」
「はい! 晩ごはんは美味しかったですか?」
昨日の夜から今日の為に夕飯を色々と仕込んで出掛けたが、皆には喜んでもらえただろうか? そう思いつつ狐たちを見下ろすと、二人は何かを思い出すかのように笑顔で頷く。
「唐揚げが美味しかったです」
「僕はローストチキンだな!」
「私はどれも美味かった」
「そうですか! 良かったです」
それから神社に帰ってケーキを食べて皆にクリスマスプレゼントを渡す。
「これクリスマスプレゼントです。はい、ビャッコ先輩とテンコ先輩には雪遊びしても濡れない手袋。それから芹様にはマフラーにしました!」
プレゼントを渡すと狐たちはクリスマスを調べたらしく、それはもう喜んでくれたのだが、芹は……。
「巫女、どうして私達にせっかく貯めた金を使うのだ。あれはお前が貰ったものだろう?」
「それはそうなんですけど、皆から貰った感謝のお金だからこそ正しく使いたかったんです」
私利私欲に使うのではなく、誰かの為に使いたかった。
それを芹に伝えると、芹は首を傾げて不思議そうな顔をする。
「それがケーキと私達へのプレゼントなのか?」
「はい。私にとって三人は今は何よりも大切にすべき方達ですから」
芹がここへ置いてくれなければ、狐たちが今みたいに接してくれなければ、私は今頃どこで何をしていたのか分からない。
それだけじゃない。空虚だった私の毎日に彩りを与えてくれたのもこの人たちなのだ。
はっきりと言い切った私に芹はしばらく私を見つめていたが、やがてプレゼントしたマフラーを首に巻いてくれた。
やっぱり思った通り、白くて長い髪の芹には薄い紫が良く似合う。
「素敵です、芹さま」
「ああ。ありがとう、彩葉」
「! はい」
微笑んで突然の名前呼びをされて思わず顔に熱が集中する。
そんな私を見て狐たちは何か言いたげな顔をしていたが、結局すぐにプレゼントに夢中になっていた。