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第109話『詐欺の常套句』

 その日から私の周りはより一層忙しくなった。芹への手紙も相当だったが、とうとう私の元にも謎の手紙が届くようになったのだ。


 そのほとんどは今まで連絡すらしてこなかった親戚たちからだった。


「どうして今更こんな手紙が届くんでしょうか?」


 手紙を読みながらぽつりと言うと、狐達はお菓子を貪りながらため息をつく。


「そりゃお前、神堕ち連中が裏から手引いてんだよ」

「そうです。彩葉を芹様から引き離そうとしているのですよ」

「今更ですか?」

「おう。お前の事を土地神が合格したから上に報せたって言ってたろ? あれはお前が鬼籍に入った時にその魂を輪廻から外して神の元に置くって意味なんだ」

「えっ!?」


 何だかとんでもない事をサラリと言われた気がしたのだが、驚いた私を二人はキョトンとした顔をして見ている。


「何だよ、その顔。もしかして芹様から何も聞いてないのか?」

「な、何も! ていうか、そんな事勝手に――」


 そこまで言ってふと思い出した。


 以前、芹は確かに私に『では後に彩葉が神の元へ来た時には、お前の事は私が永遠に面倒を見てやろう』などと言っていた気がするが、もしかしてあれが!?


「どうやら思い当たることはあるようです。芹様はいちいち他の神と違って書面を用意したり口頭で説明をして了承を得るなどというまだるっこしい事はしません。常に平坦に尋ねてきて、それを契約として履行するのです。何故なら情緒のない山だから」

「そ、それは詐欺の常套句では……」


 愕然とする私を見て狐達は「どんまい!」と言わんばかりに私の肩を叩くが、つまりどういう事なのだろうか。私は死んでもここで巫女をするという事なのだろうか。


 そんな疑問を投げかけると、狐達は真顔でコクリと頷いてくる。そんな二人を見て思わず私は青ざめてしまった。どうやら色々と早まってしまったようだ。


 きっとシンが考えろと言っていたのはこういう事なのかもしれない。


「まぁ神の元に置かれるのは良い事ばかりですよ。輪廻と違って記憶も失いませんし、ウチ達のようにやりたい放題です」

「そうそう。姿だって自由に変えられるし、どこへだって行けるしな!」

「……やりたい放題してるっていう自覚はあるんですね」


 この二人を見ていると確かに悪いことは無さそうだが、今そんな事を考えても仕方がない。結局それらは私が死んでからの話だからだ。


 今何よりも考えなければならないのは、生きている間の事だ。


 私は新たに届いた手紙を封筒に戻した。


「それにしても毎日のように届きますね。流石にこれは他にも原因がありそうです」


 ビャッコの言葉に私はため息を落として言う。


「来月私の誕生日だからだと思います。18になったら私は成人するので、それまでに色々と手続きしておかないといけないんじゃないでしょうか」


 生きている間は人の法に則らなければならない。流石の時宮もそれぐらいの良識はあるようだ。


「あー、なるほど。18になったら今は成人か。それまでにここの権利を奪っときたいって事か」

「多分?」


 むしろそれしか考えられないだろう。逆に言えばほとんどの親戚に神堕ちした神達が干渉しているという事でもある。


 私達が部屋で頭を悩ませていると、そこへ芹がやってきた。


「探しても居ないと思ったら、またここに集まっているのか」

「集まってるっていうか、皆さんここで寝てるので」


 つまり寝る前の談笑だ。


 苦笑いを浮かべて言うと、その言葉に芹が眉をピクリと動かした。そんな芹に何か感づいたのか、ビャッコが先回りして言う。


「芹様は駄目です。夜中に寝ぼける癖を直さないと彩葉と眠る事は許されません」

「そうですよ、芹様。朝起きたら彩葉が鬼籍に入っていたとか洒落になりませんよ」

「……直すよう努力しよう」

「いや、直っても一緒に寝ませんよ!?」


 どうして一緒に眠る方に持っていこうとするのだ! そう思いつつ手紙の束をまとめていると、その手紙を芹がじっと見つめている。


「お前の所もか」

「はい。私の所もです。ほとんどがあの時はごめんなさい。辛い思いをさせたわね、戻ってらっしゃい的なやつです」

「そうか。いくら神にそそのかされたと言っても、あまりにも虫が良い話だな」

「全くです! もちろん戻りませんよね!? 彩葉!」

「戻りませんよ。ていうか、それどころじゃないですしね……受験……」


 神堕ちに狙われているというのも親戚の連絡寄越せも一大事ではあるが、今は何よりも進路の方が重要である。


「そうだった。彩葉、お前本当に三重に行くのか?」

「一応、東京にもあるんですけど、そこは伽椰子さんが今も居るんですよね」

「でも伽椰子はもう力を失ったんだぞ? それでも通ってるのか?」

「そりゃ、力が無くなってしまっても本当に巫女になりたいのであれば通ってると思いますけど、どうなんでしょうね」

「調べてやろう」


 そう言って芹は立ち上がると部屋を出て行った。

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