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第110話『神堕ちに魅入られた者達』 

 しばらくして戻ってきたかと思うと、相変わらずの無表情でコタツに入り込む。


「ど、どうでした?」

「在籍はまだしていた。が、今は休学中だそうだ」


 それを聞いて私は小さなため息を落とす。やっぱり力を失ってしまった事が相当にショックだったのだろうか。


「そうですか……休学中か……やっぱり三重の方が良さそうですね」


 ぽつりと言うと、それを聞いて狐達が何故か喜び出した。


「三重と言えば真珠ですね! それに伊勢海老! 散財するなら今ですね!」

「牡蠣だろ? 松阪牛だろ? あぁ~! 彩葉、いつから行くんだ!?」

「……先輩たち、遊びに行く訳じゃないんですよ……?」

「お前たち私を差し置いて毎日食べ歩くつもりか? やはり私も行こう」


 旅行ガイドでも見たのか狐達はやたらと三重に詳しいし、芹は芹で完全についてくる気満々である。こんな状態の人たちを引き連れて本当に勉強などできるのだろうか? 答えは否だ。


「ほら、もう寝ますよ! 今日はもう遅いので映画鑑賞は明日にしましょう」


 明日は久しぶりにシンの所に行かなくても良い週末だ。


 私が手を叩くと、狐達はさっと狐の姿になって布団の中に潜り込んでいく。そんな二人を見て芹が眉根を寄せた。


「これは本格的に部屋を創った方が良いかもしれないな」

「え? マフィアの部屋創るんですか?」

「いや、お前の好みに合わせる。手が空いたら書き出しておいてくれ」

「はあ、わかりました」


 なぜ私の好み? そんな事を考えていると、芹は御札が貼られた部屋へと封印されに戻って行った。


 翌朝、薄汚れている鳥居を拭いていると参道の下に数台のタクシーが停まった。


「誰だろ」


 何の気なしに通りを覗き込むと、タクシーから見覚えのある人たちが下りてくる。親戚達だ。


「彩葉ちゃん!」

「……叔母さん?」


 鳥居を拭くのを止めて参道を見ると、下から親戚たちがぞろぞろと上がってくるのが見える。まさかこんな大人数でここまでやってくるとは思ってもいなくて思わずその場で硬直していると、すぐ後ろから声が聞こえた。


『彩葉、気をつけろ。神堕ちがついている』

「えっ!?」


 振り返るとそこには久しぶりの半透明芹が立っているが、その表情は険しい。


 そして親戚たちが鳥居の辺りまでやってきた時、突然芹が静かで厳かな声で話し出した。


『ここは私の社だ。そこから一歩でも境内に入ってみろ。お前たちはもう二度とここから出る事は叶わないぞ』


 芹の言葉に親戚たちの足が止まった。まるで何かに阻まれたかのように、そこから上へは誰も上がって来ないのだ。


「芹様?」

『あいつらにはべったりと神堕ちした神が張り付いている。皆、時宮にそそのかされたか』

「そそのかされた?」

『ああ。あそこまで憑依されるということは、何かの契約を結んだに違いない。どうやら時宮は本気でなりふり構わないようだ』


 一体何が起こっているのか、親戚たちは私に向かって必死になって話しかけてくるが、その声が不思議と何かに阻まれて聞こえない。


「芹様、皆の声がよく聞こえないんですけど……」

『お前の方が力が強いからな。あれはあいつらの言葉ではなく、神堕ちした神から発せられる言葉だ。どのみち口汚い言葉ばかりだ。聞く必要はない』


 そう言って芹が何の前触れもなく大蛇の姿に戻った。それを見て親戚達は青ざめて一目散に参道を駆け下りていく。


「皆、帰っちゃった……」


 結局何をしに来たのか謎のまま、親戚たちはまたタクシーに乗り込んで去って行ってしまった。


 その光景をポカンとして見ていると、芹がまた人の姿に戻る。


「彩葉、二条と連絡を取れるか?」

「二条先生ですか? はい、取れますけど」

「そうか。だったら明日、ここに来る事が出来ないか聞いてくれ」

「え!? な、なんで――」

「私では人の法律が分からないからだ。神を使う事が出来ないとなると、あちらはきっと人の法を使ってお前をここから引き離そうとしてくるはずだ」


 それを聞いて私はすぐさまスマホを取り出して二条に連絡をした。


 すると、数分もしないうちに二条から返事が返ってくる。


「大丈夫だそうです」

「そうか。彩葉、戻るぞ」

「はい」


 本殿に戻ってその話を狐達にすると、狐達は息巻いて結界を作るべきだと芹に怒っていたが、芹は決して首を縦に振らなかった。


「それをすると外界の事が分からなくなってしまう。土地神にも既に伝えたが、明日は土地神も一緒に話を聞くそうだ」

「何かすみません……」

「いや、狙われているのは私だ。だが、その手段として彩葉を使おうとしているのが気に食わない」

「どうしてそんなにも芹様を狙うんですか?」

「力が強いのと、誰とも交流が無いからだろう」

「交流が無い?」


 確かに芹はぼっちを極めているが、シンとはそれなりに仲良くやっているように見えるのだが。

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