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第111話『心を知りたかった神』

 私の質問に芹は深い溜め息を落とす。


「神在祭にも出ない私は、土地神以外の神と交流がない。だから狙いやすい。何よりも一度力を失いかけているからな。最初から目をつけられていたのだろう。時宮が私を祀ったあの日から」

「なるほど」


 確かに時宮がここへ来た理由は芹をこの土地から引き離す事だったと言っていた。それを思い出して頷いた私を見て、芹が複雑そうに言う。


「聞いたのか? 私の話を」

「あ、はい。土地神様から……黙っててごめんなさい」

「いや、構わない。あの頃の私は本当に無知で無垢だった。神の世界があると言う事すら知らなかったんだ」


 そう言って視線を伏せた芹の横顔は驚くほど儚げだ。この顔でそんなにも力があると言われてもあまりピンと来ないが、さっきやってきた親戚全員に憑いていた神堕ち達を一瞬で追い払った所を見ると、やはり相当なのだろう。流石霊山だ。


「何も知らなかったのによく人の願い事叶えようとか思いましたね」

「最初は時宮に言われたからだったが、そうすると気の巡りが良くなる事に気付いたんだ。だが、悪しき願いは私を蝕んだ。それを止めたのが小鳥遊だ。今思えば小鳥遊は実に良く私を操ってくれていた」

「操るってそんな言い方したら小鳥遊さんにも悪いですよ。小鳥遊さんはきっと芹様を守りたかっただけだと思うから」

「そうか?」

「はい。そりゃ土地神様に自分の気持ちに気付かされてそれが芹様に聞こえちゃった時は苦しかったと思いますけど、それでも芹様の側に居たのはあなたを守りたかったんだと思いますよ。時宮から」


 私の言葉に芹は何も言わずに頷き、おもむろに私の手を掴む。


「そうだな。小鳥遊はいつも私を気遣っていた。心の声が私に聞こえまいとしてくれていた。だが彩葉、私はそれが嫌だった」

「え?」

「私は小鳥遊の心も知りたかった。何を考え私の側に居るのか、それはどういう気持なのか、それを知りたかったんだよ」

「でも、心が聞こえると力を失うって……」

「そうだな。だが力を失ったからといって私の気持ちは変わらない。ここに居たければいつまでも居れば良い。戻りたければいつでも戻れば良い。たとえ力を失っても、小鳥遊もお前も私の巫女だ」

「……」


 心の奥底を見透かされた気がして私は思わず息を呑んだ。そんな私を見て芹が目を細める。


「何よりも彩葉は顔が全てを物語るからな。心の声を聞くよりも分かりやすい。だからいつかのように思っている事は私に直接言え。応えられる事は応えると約束する」

「……はい。それはもう知ってます」


 何せ文句を言った翌日にはあっという間に参道や本殿やネット環境を整えてくれたのだから。そんな優しい芹だからこそこの気持ちは仕舞っておかなければいけないと思うのだ。せめて鬼籍に入るまでは。


「そうか。なら良い」


 満足したように頷いた芹を見て微笑むと、何故か芹が光った。


「な、何故?」

「分からない。分からないが、最近こういう事が多いな。明日にでも土地神に聞いておこう」

「そうしてください。何だか怖いです!」


 何もしていないのに力が回復するなんて、本当に何かを吸い取られているのではないのか。


 こんな風に他愛もない話をしていられたのは、この日が最後だったように思う。


 翌日、昼過ぎに二条がやってきた。それから少し遅れてシンがやってきたのだが、二条は私と芹の話を聞いて深い溜息を落としながら眼鏡を押し上げた。


 シンは姿を消したままで芹の隣に座っていて一切の口を利かない。


「つまり何か。芹様を狙ってる輩が小鳥遊を出汁にしようとしてるって事か?」

「はい。噛み砕くと」

「なるほど。で、神様には神様で対抗出来るけど、人間の法律に神様は手出し出来ないから俺に相談してきたって事で良いか?」

「その通りだ。二条は彩葉を守る同志だからな」

「いや、待ってくれ。俺は別に小鳥遊だけを守ってる訳じゃねぇぞ。まぁでも飛び抜けてこいつは悲惨だからな。まず初めに聞くが、お前の親権はどうなってんだ?」

「母親の所に移されてました」

「そうか。で、お前らが心配してるのは多分、親戚が母親に何か入れ知恵をして小鳥遊の戸籍を自分たちの所に移してここの所有権を奪おうとしたりするんじゃないかって事だと思うんだが」

「そう! その通りです! そんな事出来ませんよね!?」

「出来ない。お前の意思が無ければいくら母親を言いくるめてもそれは無理だ。それにお前はまだ17だ。未成年を養子縁組するには裁判所の証明がいる。多分、それがクリア出来ない」


 それを聞いて私はホッと胸を撫で下ろしたけれど、そんな私を見て二条は小さなため息を落とす。

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