「だが、それが出来ないからこそ最悪の手段に及ぼうとする可能性がある」
「え?」
「お前を物理でどうにかする方法だ。拉致監禁、誘拐、まぁ何でも良いが、そういう手段を取って無理やり頷かせる方法もある。時宮とやらが神堕ちを集めている理由は知らないが、それをする事でそんな罪を凌ぐほどのメリットがあるのだとしたら、そいつらは平気で仕掛けてくるんじゃないか?」
二条の言葉に芹とシンが頷いた。
「そ、それ言い出したら私、外すら出歩けなくなりません?」
「話を聞く限り、そいつらは何百年も前から芹様を狙ってんだろ? だとしたらそれぐらい平気でするだろ。一つ解決策があるとすれば、芹様がもう小鳥遊に構わない事だな」
「……どういう事だ?」
二条の言葉に芹が眉根を寄せて二条を見つめる。
「そのまんまだよ。あんたのアキレス腱が小鳥遊だって向こうが思ってるからこいつが狙われる。だったら、あんたがこいつを手放せば良い。せめてこいつが18になるまでは。違うか?」
「それは……」
それだけ言って芹は黙り込んだが、その奥でシンが頷く。
「他にも何か解決策が無いか俺も考えとくけど、現状それが一番手っ取り早いと思うぞ?」
「……心に留めて置こう。二条、済まなかったな」
「別にいいさ。ったく、ただでさえ受験で忙しい奴をあんまり振り回すなよ。さっさと片付けて小鳥遊の進路を応援してやってくれ」
「ああ。お前は本当に良い教師だな。ありがとう。礼を言う」
芹は二条にそれだけ言うと、何やら考え込んでしまう。
「先生、そこまで送ります」
「寒いから出てくんな。しかし次から次へとお前も難儀だな。その時宮とか言う連中はそんなに偉いのか?」
「分かりません。でも古くから居るシャーマン一族らしいので、それなりに偉いんじゃないですかね」
「そんな人間に目をつけられてんのも厄介だな。だけどお前、とりあえず進路どうにかしろよ?」
「う、わ、分かってます」
言葉を詰まらせた私を見て二条が意地悪く笑った。
「なんてな。あっちが誘拐とかも視野に入れてんなら、そっち片付ける方が先だ。GPS常にオンにしとけ。共有アプリ入れんぞ」
そう言って二条は私のスマホを渡せと迫ってきた。確かにその方が良さそうだと判断した私は大人しく二条にスマホを渡す。
それを聞いて芹とシンが首を傾げているので、私は位置情報を共有するアプリの事を簡単に説明する。
「――という訳で、本来なら彼氏とか彼女とか家族が入れる奴なんですけどね」
そこまで言った途端、芹の顔色が変わった。
「なに? では私のにも入れておいてくれ」
「芹様?」
「当然だろう。私はもはや彩葉の父であり兄であり彼氏であり夫のようなものだからな」
「え……そ、そうなんですか?」
私の心を知らない癖にそんな事を言い出す芹に戸惑ったが、何故か芹は自信満々だ。
「そうだとも」
言い切られてよく分からないまま頷くと、二条が苦笑いしながら芹のスマホにもアプリを入れている。
「相変わらず頓珍漢な神様だな。こいつにまつわる男役を全部やりたいのか?」
二条の言葉に芹はすぐさまこくりと頷き、アプリがスマホに入った事を確認するなり元の場所に戻って行く。
結局二条を鳥居の所まで見送って本殿に戻ると、狐達とシンが芹のスマホを見て皆して同じアプリを入れている。
「何やってるんですか? 皆さん」
「僕はお前の先輩で兄も同然だからな! 妹の居場所は常に掴んでおきたい」
「ウチも姉で先輩です。当然です」
「えー、それじゃあ僕はお爺ちゃんとか? ま、何でも良いんだけどこれは便利だね。僕達の分も登録しとこう」
「……何か怖いです、皆」
これはあれか? これから四六時中、神様御一行に見張られるという事か? そう思いつつ皆の輪に入ると、シンが腕組をしてため息を落とす。
「とりあえず向こうの目的は芹。それは間違いない。それを人間側の手段でどうにかしようとするなら、あの二条という男が言った通り狙いは彩葉とここの所有権だね」
「誘拐をして無理やり彩葉を頷かせるという方法を取るやもしれません!」
「そうだね。かと言って今更彩葉をここから離してもなぁ。小鳥遊の時みたいに放り出しでもしないとあっちは信じないよね、多分」
「そもそもそんな事はしない。小鳥遊の時は致し方なく手放したが、もう二度と同じ過ちは繰り返さない」
「だけどね、芹。君が彩葉に執着すればするほど、あっちは彩葉を狙うんだよ。君を直接どうこう出来なくても、女子高生1人浚うなんて事は神堕ちした連中からしたら容易い事だ」
サラッと怖いことを言ってのけるシンに私が引き攣っていると、両手を狐達がそれぞれ握りしめてくれる。こんなにも小さな手でも、それが凄く心強い。
「芹様、だったら土地神に一時彩葉を預けてみてはどうですか?」
テンコの言葉にシンは驚き、芹は途端に角を出した。そんな芹を見てもテンコは怯まない。