今日、俺は「戦い」に負けた。
戦いといっても、戦争とかそういったものではない。
そんなものよりもっと汚くて醜くて血生臭い、「派閥抗争」という戦いだ。
「戦いに負けた者」の末路は悲惨だ。
早速「孫会社の総務課長」と言うポストが打診されたが、どう見ても明らかな報復人事だった。
当然そんな打診を受けるわけもなく、俺はその場で辞表を提出した。
そしてその足で行きつけの居酒屋に飛び込み、いつもと同じメニューを頼んでいた。
だが、負けたといっても「悔しい」と言う感情はなかった。
むしろ清々しい気分に近いものさえあった。
きっと対抗勢力に「あいつ」がいたからなのかもしれない。
同期入社の「あいつ」とは最初の配属の頃からずっと一緒で、何をするにもつるんで動いていた。
楽しい時も、辛い時も、そして悪巧みをする時も…
お互い馬が合ったのか、どんな時でも楽しかった。
だが今回は「敵同士」になってしまい、その結果「あいつ」が勝ち、俺は負けた。
それだけのことだ。
次の道を探すところからのスタートだが、きっと険しい道になるだろう。
-でもまぁ、生きてりゃまだチャンスはあらぁな-
そう自分に言い聞かせて、お猪口の日本酒を飲み干す。
と同時に、
-「あいつ」は今頃、派閥連中と「勝利の美酒」に酔いしれているんだろうか…-
そんなことを考えながらお猪口に酒を注ごうとしたが、なぜかお猪口が見当たらない。
あたりを探すと、
「旨そうなもん食ってんじゃんか」
お猪口を持ちながら横から声をかけてきた、「あいつ」の顔があった。
「お前…何でここに」
と、沸いた疑問を口に出すと、
「派閥連中の人の多さで悪酔したくないもんでね、さっさと逃げてきた」
と言い、ニヤリと笑った。
「そんなことしていいのか?いろいろ面倒なんじゃないか?」
俺が聞くと、
「大丈夫、辞めて来ちまったから」
「あいつ」は涼しい顔で答えた。
「はぁ?」
俺の間抜けな声を「あいつ」は気にせず、
「俺は派閥になんて興味ないし、それにお前がいねえと面白くねえしな」
と言った。
俺が言葉を出せないでいると、
「まぁ、生きてりゃまだチャンスはあらぁな、何とかなるだろ」
と、涼しい顔で言い放った。
「だから今日は、お前と飲みたかったわけだ」
「…しょうがねぇなぁ、お前の奢りな」
「何でよ」
不満そうに「あいつ」が文句を言う。
「お前は勝者で俺は敗者、そういうこった」
俺がそう返すと、「あいつ」は
「仕方ねぇな」
と、満更でもない表情で苦笑いした。