目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第43話 魔女イザベルとの最終決戦

 ハウロンの葬儀がレジスタンスの面々により、厳かに執り行われる。


 しかし、その時、アストリアはある異変を感じ取っていた。


「俺の目が、また見えなくなってる...!」


 それは、セラフィスもまた同様に感じ取っていた。


「僕の足が、再び歩けなくなっている....」


 セラフィスは、遂に松葉杖を使っても立てなくなった。


「どうやら、一体化時の影響の身体回復は一時的なものだったようだ。また以前の僕達に戻ってしまった....。」


 セラフィスは苦しげに呟く。


 アストリアは、再び以前のように目の前に広がる暗闇に対する不安に怯えながらも、空元気を振り絞り皆に言う。


「とにかく、レイグラスの奴は鏡面世界を通って瞬間的にイザベルのいるルザンナに今頃辿り着いてしまっている筈だ。今にも魔女イザベルは4つの魂によって復活してしまっているかもしれない。急がないと!」


「しかし、私の杖の宝玉は修復不可能だ。ルザンナまではかなりの距離がある。今の私の力では近距離ワープが関の山だ。」


 ギルバートが悔しげに言う。


「アストリア、私の力はようやく回復した。」


 その時、天空から声が響き、魔法陣からネクロマンサーが現れた。


「アストリア達よ、今の私の力ではルザンナへ5人まで同時に瞬間移動させることが出来る」


 アストリア、セラフィス、ローハン、マチルダ、ギルバートの5人はネクロマンサーの魔法陣を使ってルザンナまで瞬間移動した。


 一方、その頃、レイグラスは、アストリアの読み通り既に魔女イザベルの復活の儀式に取り掛かっていた。


「なんだ、もう来たのか、邪魔な奴らよ」


 レイグラスが冷たく吐き捨てるように言う。


 抜け殻のようになっているイザベルの周りを喜・怒・哀・楽の魂が取り囲み渦巻いている。


 5人は近づこうとするが、あまりの魔力の強さに吹き飛ばされてしまった。


 城壁に叩きつけられるが、セラフィスは即座にスキャニング能力を使って魔女イザベルの弱点を見つけようとする。


「スキャニ....」


「させるか!」


 その時、セラフィスにレイグラスが襲いかかってきた。


 彼はサーベルを振りかざし飛びかかってくる。


 レイグラスの刃がセラフィスを貫こうとしたその時、セラフィスを庇った者がいた。


 ローハンだ。


 レイグラスのサーベルはローハンを貫通していた。


「うぅ....」


 彼は苦しげに呻き声を上げながらも、最後の力を振り絞り、レイグラスに土魔法を使う。


「フ、フロル・テルリス(大地の怒り)!」


 レイグラスは土の柱によって潰されていきながらも最後までせせら笑っていた。


「お前らがどう足掻こうとも、我がイザベルは蘇る....」


 土の壁の中にレイグラスは消えていった。


 ローハンはその場に倒れ込む。


 アストリアは目が見えないながらも必死にローハンの声のする方に走る。


「ローハン!死ぬな!!!」


 しかし、ローハンは静かに目を閉じた。


 目の前には死んだ弟が立っていた。


 ハンスだった。


 彼は優しく微笑んでいた。


「兄さんはもう十分戦った。ゆっくり休んで。」


「やっぱり、お前は幻なんかじゃなかったんだな.....」


 ローハンは弟ハンスの差し出す手を取り、静かに光の差す方へと歩いて行った。


 その頃、マチルダとギルバートは魔女イザベルの復活を阻止すべく、必死に応戦していた。


「サギッタ・アルデンス(燃え盛る矢)!!」


 マチルダは烈火の矢を何本も一気にイザベルに浴びせる。


 ギルバートは魔法を使って、イザベルから4つの魂を引き剥がそうとした。


 しかし、彼らの努力も虚しく4つの魂はイザベルの中へと吸い寄せられ入っていく。


 魔女イザベルはゆっくりと目を開けた。


「やっと、我が力が戻ったぞ....」


 イザベルは手をかざすと魔力でマチルダ、ギルバートを吹き飛ばした。


 二人は衝撃で意識を失ってしまう。


 残るはアストリアとセラフィスを始末するのみ、と言わんばかりに彼女は今度は彼らの方を向く。


 その時、アストリアとセラフィスの胸が眩い光に包まれ出した。


 再び魂の共鳴が起きたのである。


 静かにセラフィスが言う。


「アストリア、手を。」


 二人が手を取ると、セラフィスが以前のように霊体となってアストリアの中に入っていく。


「なんだと?!」


 イザベルが戸惑いの声を上げる。


「どうなろうと、今の我の力に適う者はいない。負の感情の力を食らえ!」


 イザベルがアストリアへと手をかざすと、アストリア、セラフィスの脳内に彼らが生まれたばかりの頃の記憶が蘇った。


 ──────────────────


 彼らの眼前には父アリスター王が立っていた。


 彼は普段よりも疲れた様子で、周囲の人々に囲まれている。


 しかし、その顔に浮かんだ表情は、どこか毅然としていて、決して弱さを見せるものではなかった。


 城内では騒動が起こっていた。


 兵士達がざわついている。


 その中にはアリスター王を侮辱する言葉を浴びせる者がいて、その言葉はまるでアストリア、セラフィスの心をえぐるように響いた。


「お前の息子の双子のように不自由な者達が果たして次期王としてふさわしいのか?」


 兵士達はさらに声を荒げる。


「奴は不完全な王だ! 無力な者を産み、民に恥をかかせる存在...そして、俺達が奴に従うのは間違っている!」


 アストリア、セラフィスは驚愕した。


 その時、周囲で見守っていた兵士達が一斉に王に向かって矢を放ったのだ。


 アリスター王はその矢を受けても尚、必死に立ち向かおうとしたが、遂に力尽きて倒れた。


 父の死因は今まで母から病死だと教わってきた。


 しかし、真実は決して病気などではなく、兄弟を蔑んだ者達から守るため、命を賭けて戦った結果であったのだ。


 彼らの父アリスター王は、自分達兄弟の存在を否定する群衆に立ち向かい、彼らを守り抜くために命を落とした。


 その深い愛情にアストリア、セラフィスは涙を流さずにはいられなかった。


 ──────────────────


 意識が再び戻り、眼前にはイザベルが立ちはだかっていた。


「王の殺害に加担した者達は全員追放されたようだが、今でも家来の心の中ではお前達を蔑んでいるぞ。不具王としてな。そんな無力なお前達に一体何ができる?」


 イザベルは嘲笑いながら言う。


 しかし、アストリアは高笑いをした。


「気でも狂ったか?」


 イザベルが問いただすと、アストリアは堂々と胸を張って叫ぶ。


「人は誰しも心に光と闇の両方を抱えているのを知っているから、いまさら何も驚くことはない。あいにく、俺とセラフィスは城内の人達から負の感情の何万倍も愛情を受けて育っているんでね。父上の勇気を受け継いでいる俺達は人の愛を知らないお前になんて絶対に負けない!いくぞ、セラフィス!!」


 アストリアが勢いよく叫ぶと彼の身体にセラフィスが瞬時に憑依する。


 そしてセラフィスは叫ぶ。


「スキャニング!奴の弱点の核が見えた!」


「トドメを決めるぞ!ザ・インフェルノ!!」


 アストリアの放つ業火の剣撃はイザベルのすべてを焼き尽くした。


 ──────────────────


 すべてが終わると今までの曇天が嘘のように消え、青空が澄み渡っていた。


 そして、ついさっきまで城があった場所には朽ちた城の瓦礫だけが残されていた。


「やっと、終わった...。」


 融合が解け、再び二人に戻ったアストリア、セラフィスは肩を撫で下ろす。


 近くには、マチルダ、ギルバートが倒れていた。


 大丈夫だ。


 二人は手当てをすれば命に別状はない。


 ハウロン、ローハン、そして、その他数多くの犠牲を払い、やっと掴んだ勝利。


 それはとても虚しいものだった。


 このような過ちは、もう決して繰り返すことを許してはならない。


 二人は固く心に刻み、空を見上げた。


 ──────────────────


 その後、エリトールに帰還したアストリア達を母エリザを含め城内の人達は温かく迎え入れてくれた。


 それからしばらくして、ルドルフ・ノルヴィア、レイグラス・ノルヴィア共にいなくなり分断状態となっていたノルヴィア国をセラフィスはマチルダと共に再建し統治した。


 そして、アストリアが宰相ギルバートと共に治めるエリトールとノルヴィアの両国は共に末長く友好関係を築き世界を平和へと導いていった。


──完──

















この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?