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第42話 闘技場の死闘②

 闘技場の一角、破壊された地面に身を横たえるマチルダ。


 彼女は血まみれで、もう立ち上がれないかのように見えた。


 しかし、彼女は怒りに突き動かされるように立ち上がり、一人孤独な戦いを続けていた。


 ローハンは必死に叫ぶ。


「一人で抱え込むな!誰もが心に闇を抱えている。俺もやっと死んだ弟に向き合うことができるようになった!!」


 アストリア、ローハンは彼女に近づこうとするも爆風で近寄れない。


 その時、突如として声が響き渡った。


「マチルダ!」


 セラフィス、そしてギルバートが駆けつけたのだ。


「ギルバート、僕を彼女のもとへ!」


 セラフィスはギルバートに頼んだ。


 ギルバートは転送魔法を用いて、瞬時に彼を彼女のもとへ送り届けた。


 セラフィスはゆっくりとマチルダに近づき、優しく彼女を抱きしめた。


「僕は君の悲しみ、憎しみをすべて受け止める」


 彼の手のひらが、彼女の背中を優しく包み込む。


 そして、セラフィスはそっと唇をマチルダの額に寄せた。


 その瞬間、"怒の魂”の力が暴走していた彼女の心に、セラフィスの温もりが染み込み始める。


 (何だ、この気持ち悪い感情は....!!!)


 彼女の中の"怒の魂”の声が次第に弱々しくなっていく。


「セラフィス……」


 マチルダは涙を浮かべ、彼の名前を呟いた。


 その声には、かつての優しさを取り戻したような、穏やかな響きがあった。


 セラフィスは、にっこり微笑むと素早くゾグナスの方に鋭い眼差しを向けた。


 「スキャニング!!!」


 彼の瞳が蒼く輝き、瞬時にゾグナスのすべてを分析した。


「アストリア、ローハン、奴は鎧の奥に古傷がある。その一点だけはバリアの死角になっている!」


「了解!フロル・テルリス(大地の怒り)!!!」


 ローハンが叫ぶと大地が揺れ、ゾクナスを捕える土の牢獄が瞬時に形成された。


 ゾクナスはその牢獄に身動きできずにがんじがらめになり、もがいている。


 アストリアはその隙を逃さなかった。


「フルメン・デイ(神の雷)!!!!」


 雷撃を帯びた剣を手に取ると、一気に駆け寄り、ゾクナスの胸部に一閃を突き刺す。


 その鋭い刃が鎧を切り裂き、古傷がむき出しになる。


「今だ!いくよ!」


「うん」


 セラフィスが叫び、マチルダと共に弓を引く。


 彼は精神エネルギーを矢に集中させた。


 彼らの矢は怒りや悲しみを超えて金色に輝き、放たれた。


 二人の力が一つとなり、矢は空を切り裂き、ゾクナスの胸に突き刺さった。


 その瞬間、ゾクナスは激しくのたうち回り、魔力を失いながら倒れた。


 ついに、ゾクナスが倒れたのだ。


 闘技場はしばしの静寂に包まれる。


 その後、ようやく聞こえるのは、仲間達の息遣いだけだった。


「やった……」


 ローハンが息をつきながら呟く。


 アストリアもまた、安堵の表情を浮かべる。


「これで、すべてが終わったな。」


 マチルダは微笑み、力無く呟いた。


「みんな……ありがとう。」


「くそっ....ハウロン....!」


 ローハンが彼の亡骸のもとに駆け寄り項垂れる。


 しかし、そこにいる誰もがすべての戦いが終わったことを実感していた。


 闘技場にいた捕虜の人達は一斉に声を上げた。


「俺たち……自由だ!」


「これは夢じゃない! 本当に……終わったんだ!」


 彼らは互いに抱き合い、歓喜の涙を流した。


 しかし、その喜びの瞬間も長くは続かなかった。


 突然、マチルダの中から真っ赤に燃える魂が分離し、空中に舞い上がったのだ。


 それは激しい熱を放ち、燃え盛る炎のように輝きながら宙を舞った。


「……あれは?」


 アストリアが剣を握り直し、構える。


 すると、セラフィスが静かに呟いた。


「"怒の魂”だ……。」


 その瞬間、セラフィスの持つ喜の魂、そして楽の魂が彼の手元で震え始め、彼の懐から淡い光を放ちながら宙に浮かび上がった。


 それらの魂は、怒の魂に共鳴するようにして輝きを増し、空中で一つの軌道を描き始めた。


「待て、あれだけじゃないぞ......」


 ローハンが指を指した先には、ゾクナスが倒れていた王座の上から深青色の光を放つ哀の魂が現れた。


 4つの魂は同じ軌道を描きながら宙を舞った。


「4つ……」


 セラフィスは驚愕の表情を浮かべた。


「4つの魂が揃うのはまずい!」


 ギルバートが急いで杖を掲げ、呪文を唱え始めた。


「あの魂を回収しなければ!」


 彼の杖の先端から放たれた光が魂達を捉えようとしたその時、何かが起こった。


 魂達は突如として動きを変え、一斉に闘技場の中心に現れた大きな鏡へと吸い込まれていったのだ。


「な、なんだ....?」


 ギルバートが苦悶の表情を浮かべた。


 鏡の中から、重々しい声が響き渡る。


 その声は、誰もが聞き覚えのあるものだった。


「遂に、4つの魂が揃った…!」


 その声はノルヴィア国王、レイグラスのものだった。


 鏡面の中に彼の姿が現れると、闘技場にいた人々は凍り付いたようにその場に立ち尽くした。


 レイグラスの表情には冷酷な笑みが浮かんでいる。


「これで、我が主人──イザベル女王が復活する。」


 鏡面の中のレイグラスは勝ち誇ったように言った。


「お前は奴の手先だったのか!」


 アストリアが剣を向けて叫んだが、鏡の中のレイグラスは嘲笑するだけだった。


「また会おう、アストリア……お前達の努力は、すべて無駄だったのだ。」


 そう言うと、4つの魂は鏡面の中で激しく輝きを放ち、眩い光と共に姿を消した。


 その場に残されたのは、静まり返った闘技場と、驚愕に打ちひしがれる仲間達だった。


「魂が……奪われた……」


 セラフィスが震える声で呟く。


「くそっ! どうすればいいんだ!」


 アストリアが地面を拳で叩きつけた。


「......私のせいで......」


 そう呟いた彼女に、セラフィスがそっと手を差し出した。


「君のせいじゃない。全員で魔女の復活を阻止する。僕達の力を合わせて。」


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