目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第15話~チリとララの視点3~

 不覚だったなの。

 チリはわかっていたのに、結界を張れなかったなの。

 チリが結界を張ろうとしたらチリは巫女から離れていたなの。

 チリが小さいから落ちてしまったなの。

 しがみつくことが出来たはずなのに、チリが伸ばした手が小さすぎて巫女の服に届かなかったなの。

 地面は雪があってふかふかだったから痛くはなかったなの。

 ただ、凄く凄く冷たかったなの。

 チリの心もとっても冷たかったなの。

 チリはすぐに顔を上げたなの。

 でも、もう巫女はいなかったなの。

 あの嫌な奴も、いなかったなの。


「いってしまったなの」


 ララが目の前にいたなの。

 ララもチリと同じように落ちてしまったみたいなの。

 だけどララはチリより冷たそうだったなの。

 だって、ボロボロと涙を流していたなの。

 雪に落ちた涙が凍っていく様子をチリはただ見ていたなの。

 こんなララをチリは初めて見たなの。

 チリも、なんだか目が冷たくなってきたなの。


「ごめんなの。チリがちゃんとできなかったなの」


 ララは首を横に振ったなの。

 言わなくてもわかったなの。チリのせいじゃないってララが伝えたいって。


「ララ、急がなきゃなの」


 とにかくすぐに巫女を追いかけなければいけないなの。

 ララがチリの言葉に頷いたなの。

 ひとまずチリたちは狸を起こそうとしたなの。

 狸に近づいたら、思っていたよりひどかったなの。

 狸の手はぐちゃぐちゃで、首はまだ繋がっていなかったなの。

 でも、ぐちゃぐちゃの中に金色の糸はあったなの。

 だからきっと、狸が起きたら金色の糸で巫女の場所がわかるはずなの。


「たぬき、おきろなの」


 チリは狸のいろんなところをぺちぺち叩いたなの。

 でもチリの手は小さいから狸は全く動かなかったなの。

 そしたら、ララが残っている魔力を狸に注いだなの。

 そうしたら、狸は人型から獣型になったなの。

 ただの狸になったなの。

 首も手足も全部あるから、後は目を覚まさすだけだったなの。


「つかれた、なの」


 狸を起こそうとしたらララが倒れてしまったなの。

 動けるのはチリしかいなかったなの。

 チリは狸をぺちぺち叩いたり、両手で掬った雪を丸めて投げてみたけど全く目が覚めなかったなの。

 このままのチリとララではあいつを追いかけられないなの。

 狸の力を借りるしかないなの。

 早く起きろバカ狸なの。


「閃いたなの」


 チリは一つ思いついたなの。

 巫女が持っていたものを食べれば力が回復するなの。

 チリはララをおんぶして部屋へ行ったなの。

 色んな人間が「いない!」て叫んでドタバタ走り回っていたけど、チリたちは妖怪だから踏まれずにすり抜けたからよかったなの。

 部屋についてすぐに、チリたちは巫女が買ってくれたおやつを食べたなの。

 食べていたら、母様の言葉を思い出したなの。


『私の力全てを引き継いで生まれた巫女ならば、巫女が思いを込めてあなた達に贈るものは力を与えてくれるものになる』


 カリカリコリコリ音がして、美味しくて甘い、巫女がくれたお土産。

 お星さまのようにキラキラ光っていて、色はチリとララの瞳の色にそっくり。

 美味しくて美味しくて、どんどん元気が出てくるからチリとララは瓶の中がなくなるまで口いっぱいに入れて食べたなの。

 そしたら、チリとララは元の大きさに戻れていたなの。

 つまり母様が言っていたことは本当だったなの。

 やっぱり巫女は、母様と同じ力を持っている存在だったなの。

 チリたちが目覚めたのは間違いじゃなかったなの。


 なら、今こそチリとララの力を全部使う時なの。


 とにかく狸を叩き起こさないとなの。

 大きな雪玉を作って狸の上に落としたなの。

 凄く怒られたなの。

 でも緊急事態だから仕方ないなの。

 狸もわかっていたみたいで、怒りながらもチリとララのために神社に連れていってくれたなの。

 チリとララは、今まで座っていた土台まで連れていってもらって、せーのでララと一緒に触ったなの。


『時が来たら触りなさい。全てここに込めた力が教えてくれる。あなた達の使命を導いてくれるから』


 母様の言う通り、巫女を連れ去ったのは苦埜という名前の妖怪だと分かったなの。

 この世に一匹しかいない純粋で純悪な九尾だと記憶が教えてくれたなの。

 だから、母様は苦埜に対抗できる九尾としてチリとララを残したなの。

 チリとララはどの妖怪も知らない特別な九尾の双子だったなの。

 そしてチリとララだけが、苦埜を連れていける存在なの。


 全部分かったけど、狸には言わなかったなの。


 わからないけど言っちゃダメだと思ったなの。

 巫女にも教えちゃダメだと思ったなの。

 チリとララだけが分かっていればいいと思ったなの。

 チリとララは1人じゃなくて2人で1つだから、秘密を抱えていても一人ぼっちにはならないから。

 だから、ララも同じように何も言わなかったなの。


 チリとララが土台に触れた時、母様が残してくれた過去は全て見たなの。

 苦埜の末路も、母様の最後も。

 そして狸は、母様がまだ妖怪で、人間の楠子として変化している時に出会った人だとわかっても、狸には言わなかったなの。

 だって、過去を見てからチリとララは巫女の守り神でもあり狸の守り神でもあるとわかったからなの。

 ちょっと嫌なの。

 でも、母様は人間になる前に不死身の妖怪には不死身の妖怪をぶつけないと終わらないと気づいたなの。

 だから一番対抗できそうな狸を封じたなの。

 母様の生まれ変わりの巫女が狸と結ばれる未来も予知していたから、母様は全てを託すためにチリとララにたくさんのものを残してくれたなの。


 もうこの世に母様はいない。

 チリとララが狸と巫女を苦埜から守れるように力を全部くれたから。


 そしてチリとララは、巫女と狸の力を一度貰ったことで、母様がチリたちを眠らせた時よりずっとずっと強くなることが出来たなの。


 でも、チリとララが使命を果たしたら、チリとララはもうここに居られないなの。

 チリとララに優しく笑いかけてくれる狸と巫女に会えなくなるなの。

 それは寂しいなの。なんだかとっても嫌なの。


 でも、巫女と狸がいなくなってチリとララを置いていく方がもっと嫌なの。


 だから、チリとララは狸に過去のことは話さなかったなの。

 エト族の妖怪がまさか手伝ってくれるとは思わなかったけど、母様はきっとそれも予想していたと思うなの。


 ララがチリの手をぎゅっと握りしめてきたなの。

 チリも握り返したなの。

 わかってるなの。

 もう時間が少ないんだって、気づいていたなの。

 巫女が攫われた時から、分かっているなの。

 だけど、最後に巫女にぎゅっと抱きしめてほしいから。

 温かいあの腕にもう一度だけ包まれたいから。


 だから、だから


 狸が運んでくれていた時、狸にララと一緒にこっそりぎゅってしたのは、ずっと内緒にするなの。

 狸は巫女の変わりになんてならないけど、チリとララにとっての狸は、巫女の次に、大好き、なの。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?