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第11話~チリとララの視点6~

「「パパ、ママ、さようならなの」」




 ララと一緒にそう言った時、やっぱり悲しくなったなの。

 でも、隣にいるララがチリの手をぎゅっと握ってくれたのがとっても温かかったから、なんだか、ふわっと浮いているような気持ちにもなったなの。




「ママ、て……私が、え?」

「おい、チリ!ララ!言い捨てなんて許さねぇぞ!」




 そういえばママとパパって呼んだのは初めてだったなの。

 心の中で何度もララと一緒にそう呼んでいたから、ずっとそう呼んでいたような気持ちになっていたなの。

 拒絶されちゃうかな?、てチリはちょっと不安になったけど、ママは目を丸くして驚いていて、その目の端から透き通ったものがこぼれ落ちそうになっていたなの。


 悲しい時に流すものだけど、嬉しい時にも流すとチリは知っているなの。

 喜んでくれているとわかって嬉しかったなの。

 それに、何より嬉しかったのは、狸が怒らなかったことなの。

 パパって呼んだことに驚いたり怒ったりするよりも、違うことに怒ったなの。

 チリとララが何をするか、同じ妖怪だから、多分悟ったのかな?

そのことにパパは怒っているなの。

 チリは、それで十分なの。



 本当だ、ララ。

 言わない方が悲しくなるところだったなの。

 ありがとうなの。



「……あ、行かないで!待って!」

「くそ、何で動かねぇんだよ!!」



 ママがチリたちを止めようと叫んでるなの。

 パパがチリたちを捕まえようともがいてるなの。

 でも、ごめんなの。

 きっと追いかけてくるってわかっていたから、チリとララがママに抱き着いた時に2人の足元に足止めの陣を縫い付けたなの。

 これは、チリとララが解除するまでか、チリとララが消えるまでは残る陣なの。



 そうなの。

 チリとララは、2人より強くなったなの。

 葛葉神社の土台に触れて膨大なお母さまの力を受け取ったから、誰にも負けないなの。

 こうなることはずっとずっと前から決まっていたなの。

 チリとララが生まれた時から託された使命だったなの。

 チリは、ちょっとおまけのような存在だけど、ララの傍にいるのが一番の使命だから仕方ないなの。


 もう、振り向かないなの。

 ララと手を繋いだまま、目を合わせて頷きあって、苦埜に近づいたなの。

 苦埜はチリたちの存在が目の前にきたことに気づいていながらも視線を向けてこなかったなの。

 それもチリ達の術中にはまっているということなの。


 苦埜。


 血のつながったチリたちのお父様。

 チリとララの家族たちをずっと食べ続けてきた罪深い九尾。

 きっと、お前の目には、チリとララの存在はとるに足らぬどこにでもいるちっぽけな妖怪だと思っているだろうね。


 でも、それはチリたちが隠しているからなの。


 苦埜にとってそう思うように、ララの幻惑が成功しているからなの。

 警戒されたらやりにくくなるからなの。

 チリとララが強くなったとしても、苦埜をどれだけ弱らせたとしても、苦埜はどの妖怪よりも油断ならないくらい強いのをチリたちはよくわかっているなの。

 だから、容赦なんてしないなの。


「行くよ、ララ」

「準備オッケーなの」


 チリの合図でララと一緒に、小さくなった自分の身体に混乱して両手を見つめ続けている苦埜の手をぎゅっと握ったの。


「あ?いって!てめぇら何すんだ!?」


 苦埜が初めてチリとララを見たなの。

 生まれてきてから初めてのことかもしれないなの。

 きっと少し前なら怖くてたまらなかったと思うなの。

 でも、もう覚悟を決めた強い強いチリとララにとって、もう恐怖なんて文字は浮かばないなの。


「なんだ?お前ら妙に私の気配と似ている……?う、ぐ、あ、なんだ、なんだこの痛みは。くそくそくそ、私の手を離せぇ!あつい、あついいいい!」


  苦埜が悲鳴を上げたなの。

 手を振りほどこうと必死なの。

 でも離してやらないなの。

 チリとララとつないだ手から真っ赤な炎が現れて互いの手を焼いてるから、離すわけにはいかないなの。


「ちょっと熱いなの」

「でもずっとじゃないなの。すぐ終わるなの」


 思わずチリが言うとララが慰めてくれたなの。

 やっぱり、巫女の力を一度取り込んだ分ララの方が力が強いなの。

 ララはすごいなの。

 双子でも全然違うなの。

 チリも、狸の……パパの力を取り入れた分、強いからしっかりしなきゃなの。



「それじゃあ唱えるなの。コイツの縫い付けを頼んだなの」

「任せてなの。ララは動きを封じて、チリが門を開くなの」

「チリが門を開いたら一緒に白い糸で苦埜を巻き巻きするなの」

「そして絶対に逃げられないように門の向こうに落とすなの」

「母様は1人だったから封印が永遠にならなかったけど」

「ララとチリの2人なら、永遠にできるなの」


 チリとララはお互いがやるべきことを確認するために会話をしていただけだったなのだけど、苦埜はそれなりに賢いみたいでチリたちが何をしようとしているか気づいたみたいなの。


 「まさか、お前ら、まさか……!やめろ、同族なんだろ!?私の血を引いた子なんだろ!?なら、なら!」

「「うるさい」」


 思ったことを思わず冷たく言っちゃったなの。

 でもララも同じだったみたいなの。

 ララの思考がチリに伝わってくるなの。

 そう、チリとララの父はこいつだけど、パパとママはあっちなの。

 だから苦埜は家族でもなんでもないなの。

 チリの家族たちの敵なの。


「縫い付け縫い付け、ここからは、どこにもとおりゃんせ」


 ララが唱えたなの。

 苦埜とチリたちの手を焼いていた真っ赤な炎が3人の身体を全部包んだなの。

 とっても熱いなの。

 息が苦しいなの。

 でも最後だから、頑張るなの。


「開け開けや、獄門。地獄へ共に落ちなはれ」


 初めての言葉を頑張って唱えたなの。

 ララの呼吸が浅いなの。

 きっとチリも同じなの。

 だけど、成功したなの。

 動きを封じられた小さくなった黒い苦埜は、体系もチリたちと同じだから腕力で振り払うことも出来ず、チリとララにぎゅっと手を握られたまま何も抵抗できていなかったなの。


「できたなの」


 声が枯れてきたなの。

 うまく言葉が出ているか分からないなの。

 でもララは、わかってくれていたなの。

 チリが発現させた真っ赤な鳥居。

 そこに門が現れてどこまでも白い闇が続いている亜空間が目の前に広がったなの。

 ここに入るのが目標で、門を開くのは最初で最後なの。

 妖怪の血を引く者が入れば消えてしまう、本来は陰陽師にしか開けない空間なの。

 苦埜は勿論、チリとララもこの門をくぐったら、きっと同じように消えちゃうなの。

 でも不死身だから、暫くは残っちゃうなの。

 それを母様はわかっていたなの。

 苦埜1人だと勝手に出ちゃうから、チリとララが一緒に入るなの。


「うん、行くなの」


 ララが息も絶え絶えに言って進んだなの。

 チリも一緒に進んだなの。

 動けない苦埜は、チリとララに捕まれたまま、引きずられて成す術がないようなの。


 ……本当は、怖いなの。


 もう二度とパパとママに会えないなんて嫌なの。



 もっと遊びたい


 もっとご飯を一緒に食べたい


 もっと抱き着きたい


 もっと、一緒に、



ぎゅっとして、寝たかった


「さよなら、なの……」


「なの……」


 不思議なの。

 母様に聞いていたこの白い空間は真っ白で、入ったら痛みを感じなくなるはずと聞いていたなの。

 だけど。

 チリの目も、頬も、胸の奥も、どこもかしこもとっても痛くて。

 視界がぼやけて何も見えなくなっていくなの。

 でも、チリとララの最初から決まっていた使命だから。

 パパとママが笑顔になってもらうためなら。

 あちこち痛くなるのは、我慢するなの。

 だってチリは。

 パパとママの強い子だから。



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