とても、熱いなの。
でも、だいぶ慣れてきたなの。
白しかない空間で、ララは炎に包まれた状態でずっと呪文を唱え続けているなの。
最初に唱え始めていた時は、炎の熱が口の中に入ってきて、言葉が言いずらかったなの。
痛くて、苦しくて、辛くて。
涙もいっぱいこぼれてしまったなの。
でも、呪文を唱え続けられるのはララだけだから、頑張って頑張って我慢したなの。
そしたらだんだん慣れてきて、最初は咳き込んじゃった呪文も今はスラスラ唱えられるようになったなの。
「あがあぁああ!」
苦埜のもがき苦しむ悲鳴も慣れてきたなの。
むしろもっと苦しめなの。
そのためにララは唱えているなの。
これまでのララたちの兄弟の苦しみや母様の苦しみ、ママとパパが感じていた苦しみをもっともっとその身に刻み込めなの。
「ララ……」
チリがララを呼んだけど、ララは唱えるのを止めないなの。
むしろチリは今までずっとずっと頑張っていたから、そのまま休んでいてほしいなの。
「ぐぞぉおおお!なぜ!なぜ!お前らは平気なんだあぁあああ!」
苦埜が炎に包まれた状態でもがき苦しみながら叫んだなの。
ああ、まだそんな余力があったのね。
ララは全く答えないなの。
チリも隣で冷たい目で苦埜を見つめて沈黙しているなの。
そう、覚悟が違うなの。
守るものがあるから。
もう傷ついてほしくない人がいるから。
二度と悲しい気持ちになんてなりたくないから。
お前がいて苦しめられる時代を終わらせるためにララたちは生まれたから。
「ゴホッ」
流石に、不死身の身体でもララの口から血があふれ出たなの。
悔恨をこめすぎたせいなの。
血がとっても黒いなの。
浄化の炎なのに、やってしまったなの。
「ララ……!」
チリが咎めるような声を発したなの。
あ、チリから力が流れ込んできたなの。
ララのために流してくれたなの。
「ありがとなの。もう少し頑張るなの」
「こちらこそありがとなの。ララのためにチリはいるとわかってるなの」
「……そんなことないなの。チリとララは双子なの。2人で1人なの」
「ありがとなの、ララ」
ララの背中に触れていた手がするりと滑り落ちたなの。
チリが倒れたなの。
残っている力を全てララに渡してしまったようなの。
青白い顔をしたチリは炎に包まれながら息も途切れ途切れでもう起き上がれなさそうなの。
ふと苦埜を見たら、苦埜も悲鳴を上げられないほど喉を焼かれてしまったようなの。
苦埜も同じ不死身だけど、回復能力を浄化の狐火で奪い取ったからもがき苦しむ体力もなくなってしまったようなの。
ざまぁみろなの。
「ケホ、ゲホッ」
ああ。
流石にララも限界が来てしまったなの。
ララの呪文も止まってしまったなの。
口は頑張って動かしていたつもりだけど、もう声が出なくなってしまったなの。
ああ、地面が近いなの。
と言っても、ここは全部白い空間で作ってあるからどこが壁でどこが地面かララ自身もわからないぐらいなの。
もう、呪文を唱えることは難しそうなの。
ララは先に倒れていたチリの手を握ったなの。
お互い炎に包まれているのに、チリの手はとてもとても冷たかったなの。
ララは、全部知っているなの。
でも、ララだけが知っている事なんだと思っていたなの。
チリも知っていたなんて、知らなかったなの。
どうして双子として生まれたか、知っていて、ララと一緒にいてくれたのだと思うと、チリの優しさが嬉しかったなの。
『1人でいなくなるのは悲しいものと私は知っている。悲しい役目を背負わせることは心苦しいけど、せめて、役目を終える時に1人でないようにしてあげたいの』
お母様がそう言ってララに言ったなの。
それはチリがまだ生まれる前なの。
ただ、お母様の力がその時にもうララに注ぎすぎていたから。
言語能力がチリの方に行ってしまったなの。
でもそれでよかったなの。
ララは余計なことを言わずにいられたから。
ララの変わりにチリが話してくれることがとても心地よかったから。
それに、何より。
「チリと一緒に、家族になれて嬉しかったなの」
ララはまだまだ言いたいことがいっぱいあったなの。
でも、もう意識が続かなかったなの。
熱いなの。
苦しいなの。
でもこの苦しさをもっともっと苦埜が味わっているなら、いいなの。
ママ
パパ
チリ
ララを、忘れないでね。