“地獄の門の形は一つ”
“妖怪の全てを封じる門”
“人になど扱えぬ、見えぬ、現れぬ”
“瘴気漂う門の中は妖怪の力を奪う”
“門の主はおらぬ”
“主になりたくば形を失え”
“新たな主死す時門は二度と現れぬ”
巻物に書かれた文章に指を添えながら、時々つっかえつつも楠葉は読み上げた。
それに対し、貫が感心したように顎に手を添えつつまじまじと巻物を眺めた。
「よくそのぐにゃぐにゃな文字を読めたな?」
貫の疑問に対し、楠葉は苦笑を返すしかなかった。
「うーん……前にこの巻物に書かれていた文字は読みやすかったけど、文字を覚えたての子どもが書いたようにぐちゃぐちゃだから部分的にしか読めなかったけどね」
「ああ、だから無茶苦茶な文章だったのか」
「うん……なんか、人間じゃ理解できない言葉があるような気がする。貫もわかることない?」
「残念ながらオレには全く読めねぇな」
「そっか……」
貫の返答に、楠葉は手掛かりを見つけたことへの喜びも束の間、この文章の意味をどう読み解けばいいか分からず頭を抱えた。
「妖怪の全てを封じる門……ていうのは、実際に苦埜やチリとララが一切姿も気配を表さないことから、これは事実ってことはわかるんだけど……その他の文章の意味が私にはよくわからないわ」
「地獄の門の形は一つ、てのは恐らくオレたちが目にした地獄の門の形しかねぇってことじゃねぇか?」
「形……えっと……確か……」
楠葉はこめかみに指を当て、目にした地獄の門の形状を必死に思い出した。
巨人が通れそうなほど大きく真っ赤な鳥居。
そこに重苦しい鉄の扉が鳥居全ての隙間を埋めていた。
「鉄の扉があって、両開きに開いた。で、その奥は真っ白で……」
「待て。扉を囲んでいたのは鳥居だ。そうか、そういうことか、わかったぞ」
貫は突如巻物に両手をバンっと叩きつけると楠葉が先ほどまで指でなぞっていた文字を睨みつけた。
「クッソ、なんで気づかなかったんだ。そもそもチリとララがいた場所がそうじゃねぇか」
「え?え?何?貫、どうしたの?」
苛立ったように言葉を吐く貫の怒りっぷりに楠葉が戸惑っていると、貫はハッと我に返ったように顔を上げ「ああ、すまねぇ……頭の悪ぃ自分に苛立ちが勝っちまった……クッソ」と、深くため息をつき、頭をガシガシとかいた。
「何か、わかったの?」
まだ何もピンと来ていない楠葉が問いかけると、貫は間髪入れずに「ああ」と答えた。
「地獄の門は鳥居だ。そもそもチリとララは常に鳥居の傍にいた。しかも楠子、いや、葛と言った方がいいな。あの女は鳥居に力を注ぎ続けていた。そしてその傍に、チリとララが狐像となる為の土台を置いていた。だから、チリとララはあの台座を触った瞬間に力を得たんだ」
「あ……!」
言われて、苦埜に無理矢理見せられた過去や葛から見せられた過去、そして先ほど貫と共に見たチリとララの過去を一気に思い出した楠葉は全ての事柄の点と点が繋がることに気づいた。
「じゃあ、葛葉神社の鳥居を使えば」
「地獄の門を開ける可能性はある。だが今の門の主はチリとララだ」
「え、それってどういうこと?門の主はおらぬ、て、門の主はいないってことじゃないの?」
「いや。“新たな主死す時門は二度と現れぬ”ってあるだろう?そこに“主になりたくば形を失え” “瘴気漂う門の中は妖怪の力を奪う”てのもあるってことは、だ。楠葉が読めなかった文字の部分があるならば、主になるための詳しい方法だとオレは思う。それを満たしたら主になれるってことだ。なら、あの門を出現させた時点で主になっている可能性が高い。だから今の主はチリとララだ」
「確かに、つじつまが合うわ」
「ああ。だが、形を失う、門の中では妖怪の力を奪われる、ていう文があるってことは、だ。楠葉に力を教えたのがあいつらなら、その巻物に書かれていることが本当なら、チリとララは苦埜を地獄の門の中に閉じ込めたまま共に死のうとしていたってことじゃないのか?だから、あいつらはオレたちに――」
「ばいばい、って言ったのね」
楠葉は貫の言葉を引き取ってから、自分の声が震えていることに気づいた。
気づかない内に、涙がとめどなくこぼれていたのだ。
楠葉は両目をごしごしとこすって拭い、無理矢理涙を止めた。
そして、貫を見据えた。
「貫、行こう。鳥居に」