目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第25話~貫の視点15~

 楠葉が巻物を読み上げてから、地獄の門についてのことをオレは大体察していた。

 妖怪の中で噂になっていたことだ。

 いや、狸妖怪の中で噂になっていた、という方が正しいか。

 オレが家族ごと同族を全員食いつくした理由が、それだ。


『不死身妖怪と言えど地獄の門に入れれば成す術がないようだ』

『子どもを全て食い、力を手に入れろ』

『私についてくるものは私を手伝え』

『そして私こそが不死身の大妖怪となり狸妖怪こそが最強だと全妖怪たちに伝えてやろう』


 その会話を聞いたのは、オレがまだ生まれて20年しか経っておらず、人間で言えばまだ小学生くらいの姿の時だった。

 1人で術の練習をしている所に急に大人たちがこそこそと集まって話をし始めたかと思うと、その話の内容がそれだったのだ。

 その話を聞いたオレはすぐに命の危険を感じて練習するために力をため込んでいた葉っぱの幻術を発動した。突然の幻術に対応できなかった大人たちは一瞬にして大混乱を起こしていた。その隙にオレは今まで小せぇ妖怪にしか使ってこなかった黒い爪で全員を引き裂いた。

 首を最初に掻っ切るのは簡単だった。


『子どもを全て食い、力を手に入れろ』


 なら、大人を食えばオレは大人を超えることが出来るのか?

 そう思って落ちている首にかぶりついた瞬間、オレの記憶は吹っ飛んだ。

 我に返った時には、口からは溢れてポタポタと滴るほどの同族の血でいっぱいになっていて、オレの全身に汚れていない部分などなかった。食った瞬間、妖怪としての力が暴走したのだということは容易に予想がついた。

 両手に持っていた父と母の両手を捨て、オレは身体を洗うために湖に行った。

 そこには、今の姿になっているオレがいた。

 大人も子どもも無差別に同族を食らいつくし、狸妖怪として最強の存在となったオレがその日誕生し、他の妖怪たちはオレを見るだけで恐れおののき逃げるやつらばかりだった。

 その中で、頭のよさそうな奴が言った。


『力さえあれば、地獄の門に封じることが出来たのに!』


 ――そんな過去を思い出している内に、オレと楠葉は鳥居の前にたどり着いた。


「あれ、そういえば貫の術で黒くなっているはずよね? でも、私の目には赤く映ってる」

「ああ、術を解いたからな」

「え?なんで?」


 楠葉の驚いた様子の問いかけにオレは答えなかった。

 ただ、黙って鳥居に手を触れた。

 今この世でチリとララの力を超えることが出来るのはオレか、楠葉だ。

 だが、巻物にあった“人になど扱えぬ、見えぬ、現れぬ”という意味は、門は楠葉には扱えないという意味だろう。

 だからこそチリとララも楠葉を頼らなかった。そして、葛もあまりに力を使いすぎていたがため地獄の門を諦め、自分の子であるチリとララに託し、楠子になることでチリとララの力を引き出せる子孫を残すことを選んだ。

 そしてオレは、運命の相手であれば殺せないとでも思ったんだろう。だからこの鳥居に封じたが、もし上手く事が運べば、オレ自身がチリとララに変わって地獄の門の主になりえると予想したんだろう。

 あの女狐の思い通りになっているという事実は非常に不愉快であるが、もう過去の人間のことなんぞどうでもいい。


 “人になど扱えぬ、見えぬ、現れぬ”

 “妖怪の全てを封じる門”


 この言葉の意味から考えて、地獄の門の主になることが出来るのは、オレだけだろう。

 だが、地獄の門の中に出入りすることは楠葉にもできる。

 半分妖怪で、半分人間だからこそ。

 妖怪の力を奪われても、巫女術を使って弱った苦埜を門の中で消滅させることぐらいはできるはずだ。

 そして、弱ったチリとララを連れ戻すことが出来るのも、楠葉だけだ。

 だが、オレは地獄の主になる代わりに、妖怪のままでいる限り門に引きずり込まれるだろう。


 “新たな主死す時門は二度と現れぬ”

 “門の主はおらぬ”


 だからこそ、主がいない。

 主にすらなれず消えているから。


 ならば、今やるべき最善なことは決まっている。

 チリとララが消えてしまう前に地獄の門の主にオレがなる。

 そしてそのために――


「オレが妖怪をやめればいい」

「え?」


 楠葉の困惑した声が聞こえる。

 顔を見たら、オレの言葉を全く理解できなくて困り果てた様子があって、愛しいと感じた。

 この感情が、オレの中の全ての答えと言っていいだろ、もう。


「気にすんな。計画はこうだ。オレが地獄の門の主になる。それで開いた門の中に楠葉が入って苦埜を消滅させて、チリとララを救い出す」

「そ、そんなことができるの?」

「ただの人間ならできねぇが、お前は人であって人じゃない」

「あ、そっか……!」

「それと妖怪を消滅させるには楠葉の力がいる。だからこそ、門の主として力を全力で使うのはオレの方がいい」

「なるほど……わかった!」


 オレが説明していくと、困惑からどんどんと真剣な表情へと変化し、両こぶしを握り締め「頑張る!」と言わんばかりに脇を締め気合を入れはじめる楠葉。


「楠子、つーか、オレにとっては葛か。あいつの思い通りに全部コトが運んでるっつーのが癪だが、お前のような奴に会ったことはねぇ。出会わせてくれたことには感謝しねぇとな。オレにとっての唯一無二、それが楠葉で、チリとララだ」

「私にとっても、同じよ」

「ああ。それじゃあ行くぞ。無理だと思ったら、すぐに出ろ」

「私がチリとララを救わずに出ると思う?」

「そん時は無理矢理連れ出してやるよ、主権限でな」

「ふふ、頼りにしてる。よし、いつでもいいわよ」

「任せろ」


 オレは鳥居に力を注いだ。

 封印されていた鳥居だったからだろうか、妙に力が馴染みやすい。

 そして、勢いよくオレの力が吸い取られていくのも感じる。

 だからこそ、実感する。

 地獄の門を閉じた時、オレの身に何が起こるか。

 黙ってたらきっと楠葉は怒るだろうな。

 でも、こうするのが必要なんだ。


 だからよ。

 オレが全部やった後は、頼んだぜ?



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?