双子が死ぬ?
不死身の狐妖怪が?
「死ぬって、どういうこと?」
私がすぐに門から離れなかったから?
すぐに2人を門から離して白い手に捕まれないようにすれば死ぬことなどなかった?
様々な最悪な疑問が渦巻き、踏ん張る力が弱まりそうになる楠葉に、息もとぎれとぎれの貫が言った。
「チリとララは地獄の門の中に妖怪の状態で長時間いた。それを一旦出したはいいが、吸い取られた力は取り戻せねぇ。それに、オレはこいつらから主としての権限を奪ってしまった。すまん、これはオレの誤算だ。“主になりたくば形を失え”。つまりそいつらは、形を失うために狐妖怪としての不死身を失ったってことだ。だから門を出ても引っ張られる。“妖怪の全てを封じる門”ってのはそういうことだ。オレがもっと早く気づいていればよかったが、門の中に居させ続けたのが悪かった」
「ねぇ、それってどういうこと?それじゃあチリとララは……どうなるの?」
貫の言葉一つ一つ、楠葉自身理解は出来ていた。
けれど、どうしても理解したくないという思いが強く、楠葉の声は震えてしまう。
「生きて取り戻すことは、できないの?」
「できねぇ」
きっぱりと答える貫の言葉に、楠葉の喉からヒュっと空気が抜けた。
そのせいで力が緩み、抱えていたチリとララが引っ張られてしまった。ハッと気を引き締め直した楠葉は再び双子を強く強く抱きかかえて踏ん張り、怒りと悲しみの馬鹿力で何とか門から一歩距離を離した。
「嫌よ。せっかく見つけたのに。取り返したのに。このまま失うなんて、私は嫌」
「わかってる。オレだってそんなの認めたくねぇさ!だがな、一つ別の方法がある。よく聞け、楠葉。そして絶対にその踏ん張りを諦めるな」
「方法があるなら私は諦めない!貫、言って!」
「まず地獄の門で滅した苦埜の行く先だ。アイツは地獄に落とされ二度と帰ってこない。輪廻転生の輪に入れない場所に落とされたんだ。それが地獄の門だ。だが、地獄の門から出されれば話は別だ。例え妖怪でも輪廻転生の輪に入ることが出来る。そしてそれを可能とするのが、同族の血を持つ者による弔いだ。意味がわかるか?」
「……待って、ねぇ、それって」
「覚悟を決めろ!この扉を閉めた瞬間、こいつらは消える!ただ消滅してしまえば輪に入ることも出来ない可能性が高い。だがお前が弔えば、双子の意識を保ったまま輪廻転生の輪に入ることが出来るんだ!本来なら許されない事だが、同族が弔えば、弔われた同族の輪廻転生の先が近くなる。例えば」
そこで貫は言葉を止めた。
楠葉は必死に足を踏ん張りながら次の言葉を待った。
その顔は涙でボロボロで、息も絶え絶えになっているが、それでも二人をこのまま失うだけになるのは嫌だという思いで死ぬ気で力を使っていた。
「もう一度オレたちの子になれと願えば、それが叶う可能性だってある」
貫が苦し気に発した言葉は。
今まで共に居たチリとララの状態で過ごすことは絶対に不可能だという意味であった。
それでも、存在が完全に消えるという否定ではなく。
消滅後に時が経てば共に居れる可能性はある、という意味でもあった。
このまま一緒にいられないという事実が受け入れられないままの楠葉であったが、このまま地獄の門に持っていかれるくらいなら、自分の手で、という思いに火が付いた。
「わかった。覚悟を決めるよ、私。だから……」
「大丈夫。背負うのはお前だけじゃねぇ。オレも共にだ」
貫はそう言うと、鳥居の柱を両手でがっしりと掴んだ。
カッと目を見開き、瞳を全て赤く染める。
同時に、全身が金色のオーラに包まれる貫。
そして貫は。
全ての力を鳥居に向かって注ぎながら声高らかに叫ぶ。
「大妖怪様からの命令に逆らうな!さっさと閉じろぉ!!」
叫ぶと共に、今まで獣人のように生えていた耳や尻尾が消えていき、目の色さえ黒くなる貫。
その姿は、いつしか人間になろうと力を鳥居となる石に捧げ続ける葛の面影と重なって、ここにきて漸く貫が何をしようとしているか気づいた楠葉は息を飲む。
「まさか、貫、あなた――!」
しかし、これ以上楠葉の声は届かなかった。
眩しすぎるほどの金色の光と共に。
ギギィ、と重苦しい音を立てて門が動く音が鳴り響き。
バタン、と閉まる重々しい音と共に一陣の風が吹き。
砂埃や白い糸、光の痕跡などで咄嗟に腕で目をかばっていた楠葉が恐る恐る目を開けると。
そこには、真っ赤な鳥居と。
その真ん中に仁王立ちする、黒髪黒目で顔が整った人間の男がいた。