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<エピローグ>~貫の視点16~

 人間になった瞬間、オレは勿論戸惑ったさ。

 人間というものはこれほどまでに何も出来ねぇもんなのかと。

 オレの場合は妖怪という形を犠牲にしたからか、楠葉のように糸を見ることは出来ても操ることは出来なかった。だから仕事に関しては、楠葉に任せるしかなかった。

 とはいえ、だ。

 オレの容姿はそんじょそこらの人間どもとは違う魅力を持っている。

 それを使えば、まぁ、多少のお小遣いをゲットできるのはありがたかったな。

 楠葉にバレると1時間以上正座させられて立てねぇほど足を痺れさせられるが、慣れればどうってことはなかった。

 なんせ、もう悲しむ必要はなくなったからな。

 そりゃあ、チリとララが金色の糸と全く同じ色の粒子となって天に昇って消えていく姿を見た時は、ガラにもなくオレは泣いちまった。泣きじゃくる楠葉を抱きしめていたら、妖怪の時は決して出なかった涙がボロボロとこぼれ落ちて地面に涙の水たまりが出来る勢いだった。人間は、身体だけでなく心まで弱くするんだと実感したな。

 だが、一度強さを持つと、強いのもまた人間だ。

 オレは、妖怪時代に得た人間を騙すための話術で嘘八百を適当に並べて婿養子に入った。

 ああ、家族がいない、ていうのは嘘じゃなかったけどな。

 で、今悲しむ必要がなくなったっつー理由だが。

 それは、楠葉とオレの間に子どもが出来たからだ。

 輪廻転生が出来るかどうかは賭けだったが、双子の赤ん坊は生まれた瞬間オレと楠葉の指に金色の糸で結ばれた。

 楠葉は、運命の相手として夫婦に現れるものしか見たことがなかったらしく、家族で出るのは初めてだとかなり驚いていた。

 オレも金色の糸についてはあまり詳しくなかったが、家族でずっと糸でつながっているということは悪い気がしなかった。

 オレたちにしか見えない糸だが、この糸がオレたちを必ず繋いでくれているという安心感は大きかった。

 どれだけ離れていても、どこにいるかわかるってのは、無力な人間になると大切な存在を守るために結構便利だってわかったからな。

 まさか最初はあれほど鬱陶しいと思った金色の糸がここまで便利だと感じることになるとは思わなかったぜ。

 オレ自身、金色の糸に対してこれほどまで感謝する日が来るとは思ってもみなかったしな。

 あっと、そういや、生まれた双子については話してなかったな。

 不思議なことに、2人とも狸妖怪の頃のオレそっくりの茶髪で生まれた。

 目も茶色だが、男女の双子だから一目で見分けがつく容姿をしていた。

 オレと楠葉の子だから、美男美女になることは間違いなしだな。

 ちなみに名前だが、勿論男は知里。女は楽々だ。

 血がつながった本当の家族っていうのは、目に入れても痛くないくらい愛しく感じるってのはこういうことだろうな。

 もう人間や妖怪を食う化け物でもねぇのに、ついつい双子のほっぺは食いたくなる。

 今では5歳になって立派に喋って走れる双子の好物は、いつしかチリとララに土産として楠葉が買っていた金平糖だ。

 色の好き嫌いも似ていてな。

 知里は水色。

 楽々は桃色だ。

 服もその色ばっかり選ぶから、本当にチリとララの生まれ変わりなんだろうと感じるから、輪廻の輪には感謝だな。


「「パパー!!」」


 オレを見つけると、可愛らしい下駄の音を鳴らしながら駆け寄ってくる双子。

 ああそうだ、オレがパパだ。

 お前らにとって、ちゃんと血のつながった、まごうことなき家族だ。

 今まで年を取るということはなかった。

 オレは人間になってしまったから、楠子のように月日が過ぎると共に老いていき、こいつらより先に死んじまうだろう。

 でも、それでいい。

 楠葉と同じ墓に入って、愛するがきんちょたちに見守られて天寿を全うできるなら。

 人間になるのも悪くねぇ。


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