目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

第87話 三国同盟

 レイと合流したわたし達は、ケルベロスのケルちゃんの背に乗り、カオスローディア城へと帰還した。レイはドワーフの国ノルマンディアで起きていた事をかいつまんで話してくれた。


「ノルマンディア国へ到着すると、周辺の小国、亜人の集落が既にグリモワール騎士団によって制圧されていた。ドワーフの王は父上からの書状を受け取るとすぐに危機を察知し、動いてくれた」


 蜥蜴人リザードマンの国・リザードリバーと、豚魔人オークの村・マウントオーク、牛魔人ミノタウロスの村、報告があがっただけで七、八の国と地域の制圧。どうやら王国の王宮騎士団と魔導師団による精鋭部隊が動いているらしい。


「そんな……また戦争が始まってしまうの……?」

「いや、そうなる前に俺たちが動く。事実、刺客がやって来たが返り討ちにしておいた。土精霊アースの恩寵は無事に死守した。これ以上、王国の好きにはさせん」


 王国は黒套こくとうで身を隠した魔導師団らしき者達を送り込み、土精霊アース様の力を奪いに来たらしい。まさかそこにレイが居るとは思わなかったんだろう。魔法を吸収する魔剣に怯んだ魔導師団達を、ドワーフの戦士とレイの共闘で返り討ちにする。


 土精霊アース様の恩寵は、レイの代わりにドワーフの戦士の中から資格を持つある人物が受け、その人物はレイと共にカオスローディアへ同行してくれているみたい。


 お城の入口でケルちゃんから降り立つと、そこには既に任務を完了したとある人物が、わたしたちを出迎えてくれていた。


「遅かったじゃない! って、あんたその姿、その様子じゃあそっちも問題無かったようね」

「ミルフィー……いや、ミルフィーこそ、衣装素敵……その姿も似合ってる♡」

「ほ、褒めても何も出ないわよ」


 自身の背中まで伸びた髪と肌の色を確認して魔力変貌中だった事を思い出す。あ、レイは火精霊マーズ様から大量に魔力を戴いた事で魔力変貌を起こしたってすぐに気づいたから驚かなかったのか。あの場ではそれどころじゃなかったしね。


 変化していたのはわたしだけではなかった。ミルフィーが今まで身に着けていた民族衣装メーテ黒糸こくし部分が全て水色へと変化していた。水を羽衣として纏ったかのように美しい新たな民族衣装メーテ。両耳には氷の結晶を象ったイアリング。トレードマークの金色の髪へ、水色のメッシュが入っている。いつもの瞼の水色のラインに加え、睫毛まで水色に変化し、長く伸びていた。


「綺麗。嗚呼、ミルフィー♡」

「ちょ、近い近い」


 魔力変貌中はついつい情熱が燃え上がっちゃうから駄目ね。ミルフィーみてるとつい、そのぷっくりとした潤った口元を食べちゃいたくなるもの。


「二人共、面白い変化じゃのぅ~」

「あらサザメさん。居たんですか?」

「なんじゃ? 居たら不満かの?」


 ミルフィーの背後で腕を組んで佇んでいたサザメさん。ミルフィーともう少し濃密な時間を過ごしたかったわたし、つい表情に出ちゃったみたい。


「いえいえ、冗談です。ミルフィーを連れて行って下さいまして、より一層美しくしてくれてありがとうございました」

「魔女は何かいつもより大人な雰囲気を醸し出しておるようじゃが、恩寵は問題なかったようじゃから良しとしよう」


「ミルフィー、無事で何より」

「ええ。お兄様。当然ですわ」 


 こうして再会を喜んだわたし達。でも、すぐに気づく。ルーズとジズさんの姿がなかったから。


「ねぇ、レイ。大丈夫……よね?」

「嗚呼。その話は謁見の間で行う。客人もそこに居る」

「え、ええ」


 謁見の間へ向かうと、既にドワーフの国からの客人が皇帝と謁見を終えたところだった。その顔を見てすぐに誰か分かった。その人は、闘技大会へ出場していたドワーフだったから。わたし達を出迎えてくれたジークレイド皇帝が、ノルマンディアからの使者を紹介してくれた。


「皆へ紹介する。ノルマンディア国、戦士ガンダール・ガイア・フォルストイ。土精霊アースの恩寵を受け、我が国に協力してくれる事となった。ガンダール、改めて感謝する」

「ガンダールと申す。レイス殿下には昨日、助太刀していただいた。それに、そこにおるノーブルと儂は古くからの戦友だ。協力を惜しまない手はない」


 ジークレイド皇帝の横に立つノーブルさんが会釈する。ドワーフの国と魔国と距離も近いため、昔から協力関係にあるようで。ノーブルさんは魔国幹部として、ガンダールと何度も共闘した間柄みたい。


 もし仮に戦争となった場合、ノルマンディアは魔国へ力を貸してくれる事となった。わたし達はお姉さまを救うため、これから王国へ向かう事となる。ドワーフの土魔法による鉄壁の守りは有名で、留守にした城を固めるにはこれほどありがたい協力体制はないと言える。


 互いに自己紹介を終えた後、皇帝を前に、わたし達は各精霊の恩寵に関する報告をしていく。わたしは火精霊の恩寵を賜る事が出来た事。その後、待ち構えていた元王国の騎士団長ソルファと戦闘になった事。その手には大悪魔ベルゼビアの力を持った魔剣グラトニクスが握られていた事。戦闘後、ソルファの魂はその剣に喰われ、グラトニクスは何処かへ消えた事。


 かつて、大悪魔サタンと契約していた皇帝は黙って頷いて聞いていた。


「左様か。ならば、王国の誰かが悪魔と契約している可能性を疑うしかあるまい」

「あの魔剣を撃ち破るには、〝浄化〟の力か、或いは俺の魔剣しか対抗出来ないでしょう。もし、交戦するとなれば俺がやります」

「否、レイ。お前には戦うべき相手が別に居る。魔剣の捜索は別の者にやってもらおう」


 皇帝の視線はある人物に注がれており……。


「なっ、恐れながら皇帝陛下。わっちは確かに捜索ならば得意じゃが、戦闘に向いてはおらんぞ!?」

「勿論。魔剣を追い、黒幕・・を炙り出してくれるだけでよい」

「魔国に協力する利点は?」

「お主が一番よく分かっているだろう」


 暫く考え込むサザメさん。サザメさん率いる〝宵闇〟が優れているとはいえ、有事の王国へ潜入するにはリスクを伴う。が、四大精霊を祀っている以上、この戦い。サザナミの国が巻き込まれる事も必至だった。やがて、覚悟を決めたサザメさんは、わたしへとんでもない提案を持ち掛ける。


「タルトの店、コボルちゃん」

「え?」

「あれの二号店・・・をサザナミの国へ作れ。続けて東国と魔国の流通経路を作る。それが条件じゃ」


 え? そんな事でいいの? とも思ったけれど、後で聞いた話だが、魔国と東国の間には幾つもの山脈と、山脈の向こうにはかつて悪魔が支配していた不可侵領域もあり、中々西と東の流通経路を確保出来ない問題があるんだそう。皇帝はこの戦いが終わったら、サザナミの国と協定を結ぶ事を約束した。サザメさんは満足そうに頷いた。


「皇帝殿の言質。しかと受け取った。東国最強の密偵部隊〝宵闇〟が、グリモワールの悪事を全て炙り出してやろうぞ」


 カオスローディア、ノルマンディア、サザナミの軍事同盟。火、土、水、三つの精霊の恩寵と、各国の協力体制が固まった。残るは問題の風。聞きたくはない。聞きたくはないけれど……聞くしかない。


「皇帝陛下……ルーズは……ジズは無事なのですか?」

「二人共無事だ」

「よかった」

「だが、風精霊シルフィーユの恩寵は王国に奪われた可能性がある」


 エルフの国・シルフィリアで一体何が起きていたのか?

 皇帝の口から語られる事となる。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?