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第31話 大喧嘩

 ドカーン! ズバーン! バシューン!

 目の前で、そんな擬音で表せられるような光景が広がっている。


「“ライト・スラッシュ!!”」

「“パワー・ミサイル!!”」

「“マジック・シュート!!”」


 ユウカの飛ぶ斬撃が放たれて、それをメタルマンがミサイルを放って相殺。

 そんな二人に対して、マホが魔法弾のような物を複数放って行く。

 3人の互いの特徴的な能力を活かしたような戦い方で、とても激しい攻防が繰り広げられている。


「……何これ」


 俺はその光景を体育座りで見ながら、そんな事を呟いていた。

 現代で平凡的な生活を送っていたら、到底見られないような光景。

 女勇者と、パワードスーツと、魔法少女。異なる世界観を持つ住人達が一か所で争っているその状況は、まるでお祭り騒ぎのパーティゲームだ、とぼんやり思い込んでいた。


「何でこうなったんだっけ……」

「そりゃあカイト。あの3人が喧嘩しそうだったから、逆に思い切って争ってスッキリして貰いましょうって話になったんじゃない」


 隣に座っていたソラが、コーラとポテチを準備してポリポリ飲み食いしながら、そんな事を言い出した。

 こいつ、まるで映画鑑賞のスタイルになってやがる。完全に楽しむ気満々だ……


「あのままじゃ家が壊されそうだったからね。この荒野で思う存分争って、互いに不満を吐き出して貰いましょう。ここなら幾ら暴れても、安全だし。……多分」

「つーか、よくこんな都合の良い荒野があったな。本当に何もねえぞ」


 コーラをストローでチューチュー飲んでいるソラをよそに、俺はこのあたり一面の光景を見渡していた。

 本当に何も無い平野で、特に障害物も何も無い。

 強いて言うなら俺たちの後ろに廃屋があって、そこのドアが俺の自宅と繋がってたくらいか。


「この後ろの扉も、“マーカー”ってやつで繋がってるんだよな? ここもユウカ達みたいな異世界の一つって事でいいのか?」

「そうよー。私の管理世界の一つ。その中で丁度空き地みたいな世界があったから、暴れるのに丁度いいと思って」

「空き地みたいな世界、ねえ……? そういえば、今までは“一つの世界に一人のセーブポイント使用者”がいるような気がしたけど、この世界にはいないのか?」


 そう言って、俺は辺りをキョロキョロと見渡してみる。

 後ろの廃屋にも、到底今も人が住んでいるような気配は無いほどボロボロだった。

 何十年も経っているような廃墟で、近くに人がいるような気配も無い。

 セーブポイント使用者らしき人が見つからず、今回はソラが自分からこの世界にみんなを連れて来たからまだこの場にいないだけかと思ったが……


「──“いないわね”、最初から」


 そんな俺の予想を裏切るように、ソラは否定の言葉をサラッと話す。

 その表情は、さっきまで3人の喧嘩を楽しそうに見てたのに、今はスッと真顔になっていた。

 いない? セーブポイント使用者が?

 しかし、その言い方はまるでどちらかと言うと……


「……この世界には、もう“人”が存在しない世界。“霊長類”と言えるものが育たない場所で、いわゆる“詰んだ世界”。私の管理担当になった時には、既に手遅れだった。──【最高の世界】には程遠い世界よ」


 担当世界の配布がランダムだから、こんな世界もあるのよね。とソラは呟いている。

 それを話した後、ソラはストローで勢いよく飲み物を飲み干して行く。

 まるで、何かちょっと動揺した事があった時、自身を落ち着かせる為に水を飲むように。


 敢えてなんて事のないように呟くソラの言葉に対して、俺はちょっと気になる言葉があったので、それを聞いてみる事にした。


「……【最高の世界】? 何だそれ?」


 普通に考えると、幸せいっぱいの世界、と言う事だろうか?

 しかし、何故か強調して話していたのが少し気になる。

 ソラのらしく無い態度といい、少し深掘りしてみたくなったが……


「……何て事のない、深く考える必要のない話よ。ホラ、そんなことより! 向こうの状況が動いたわよ!! さあ、どうなるかワクワクするわね!」


 そう言って、先ほどまでの真顔を取りやめて、ワクワクした表情に切り替えたソラ。

 その様子を少し疑問に思いながらも、俺は大人しくソラの指差した方向に視線を向ける事にした……


 ☆★☆


「ック!! 飛行するとは、厄介な能力を持っているねっ!!」


 遠くでユウカがそう喋りながら、剣をブンっと振り下ろした。

 その斬撃の軌跡を辿るように、光がその場に残り、その光そのものが斬撃となって空中に飛んでいく!

 狙いは空中に浮かぶメタルマンだった!


「ふん! 当たるわけがないだろう、そんな大雑把な攻撃!」


 対してメタルマンは、その飛んでくる光の斬撃を余裕を持って場所移動で回避する。

 簡単な回避行動をしながら、小型ミサイルを10数発ほど地上に向かって放ち出す。

 それが地上のユウカに、全て向かっていった!


 ユウカはクッと悔しがりながらも、急いで走りながら距離をとってその場から逃げようとする。

 だが……


「っ!? こっちを追いかけてくる……!!」

「バカめ!! 追尾型だ!! 狙った獲物は逃がさん!!」


 逃げ出したユウカを追うように、地上付近で向きを変えたミサイルはそのまま真横方向になって飛んで行く。

 逃げきれないと悟ったユウカは、急ブレーキで反転し、飛んでくるミサイルに向かい合った。

 剣を横に構え、まるで居合切りのように──


「──シッ!!」


 一閃。二閃。三閃。

 鋭い振りが放たれ、その通りに剣の刃が辿って行く。

 飛んでくるミサイル達のど真ん中を斬っていき、ミサイルとユウカはすれ違う。

 斬られたミサイルは、ユウカを素通りした後しばらく飛んでいき……離れた位置で、爆発する。


「……まったく、本当に嫌な能力だ。これも、そっちの世界の魔法か何かかい?」

「ふん、魔法なんて眉唾なものじゃない。科学と言え。そっちこそ剣でミサイルをぶった斬るとか、正気か?」


 ユウカは、振り切った剣を降ろしながら、問いかけるようにそう呟き。

 対してメタルマンは、その問いを否定しながら、空中で腕を組みながらユウカの異常性に慄いていた。


「普通は斬った時点で爆発するだろうものを……よっぽど切れ味が鋭かったのか、綺麗に通り過ぎて行ったな。インベーダーですら、そんな芸当出来る奴には会った事ないぞ……っグオ!?」


 そんな空中で余裕綽々で考え事してたのが不味かったのか、別の場所から放たれた魔法弾がクリティカルヒット。

 まあヒットはしたと言っても、全身金属で覆われているから、そこまで致命傷にはなっていないが。

 メタルマンは体制を崩しながらも何とか空中に踏みとどまり続けて、今の下手人を睨みつけた。


「へへーん♪ 余所見は厳禁です!! 油断しちゃいましたね!」

「小娘がっ……これでも、食らえ!!」


 そう言って、メタルマンは腕をマホの方角に構えて、チャージする。

 数秒間の待ち時間の後、エネルギーがレーザーのように放出される!!

 超高速なレーザービームが、マホに向かって飛んで行く……!!


 ……が、実はメタルマン、頭に血が上りながらも冷静に狙いを定めて、少女に直撃はしないように狙いを調整はしていた。

 流石にインベーダーのように機械ではない、見た目生身の人間に対して兵器を向けるのは気が引けたらしく、目の前でビームが着弾したら流石にビビるだろうと思って、当たらないギリギリの所を狙っていたらしい。


 ちなみに相手がユウカだったら普通に狙っていた。あの目、なんか並の実力者じゃ無さそうだったし。との事。


 これで心が折れるだろう、そう思っての攻撃だったが……


「“マホ・シールド!!”」

「っ!? 何!!」


 しかしマホは、空中に向かって“透明なピンクのガラス”のようなものを張り出し、上から飛んできたビームをそれで防いでしまっていた。

 威嚇目的とは言え、そこそこの威力で放たれたそれを完璧に受け止められてしまい、メタルマンは大いに戦慄する。


「へへーん、防御魔法は得意なんです! それにしても、あれー? 少し狙いが逸れていましたね? 実は狙撃能力低かったりします? ダメですよー、せっかくの距離を活かせないなんて」

「こ、この小娘っ……人が手加減したのをいいように……!!」


 マホの純粋な疑問の言葉、それが逆に煽りにも取れるような発言に対して、メタルマンはワナワナと拳を震わせている。


「……ねえ、こっちにも魔法弾らしきものが飛んできたのだけど」

「そりゃあそうですよ!! 空中の人もムカつきますけど、あなただって私の楽しみを奪った人で許してませんからね!!」


 剣を振り上げたままの体制で、ユウカがマホにそう問いかけると、そんな返事が帰って来た。

 どうやら、マホにとってはユウカも攻撃対象なのは変わらないらしい。


 こうして、三者三様の戦いがしばらく続いて行くのだった……



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