目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第41話 絶望の女勇者②

 ──それから、ボクは何度も挑んだ。


 部屋に入ってから、問答無用で切り掛かりに行ったり。

 常に走り続けて、狙いを定めないようにしたり。

 耐熱装備を整えて、防御を固めていったり。

 魔法で炎上耐性を上げてみたりと。


 ……けれど、その全てが無駄だった。


 ボクに考えられる対策方法は全てやった上で、あの魔王四天王には敵わなかった。

 ……何とか、一瞬で燃やされる現象については。あいつのかざした手の先で、狙った位置で炎上するらしいと言う仕組みだけは理解出来た。


 けれど、ボク一人じゃそれだけ。

 それが分かっただけで、あいつの狙い撃ちから逃げられる手段が無かった。


 攻撃も、意味が……無い。

 一度、あいつの腕を切り落とせた回はあった。……けれど、直ぐに再生して、くっついてしまっていた。

 元が炎なんだ。実体なんてあってないようなものなんだろう。

 この時点で、ボクの心には絶望が覆いかぶさっていた。


 ──こいつは、倒せない。


 そう勇者として、判断するしかなかった。


 だから別の回で、こいつの部屋に挑まずに、元の道を戻ろうとした選択肢もあった……


「──おいおい。せっかくそこまで来たのに、帰るのかよ」


 背筋が、凍った。

 真後ろに、あの四天王が立っていたのだ。

 その直後、またボクは燃やされて終わった。


 遅かった。

 この部屋の前まで来た時点で、ボクはあの炎の四天王に認識されてしまっていたのだ。


 次の回で、全力疾走で逃げ出してみた。

 後ろを振り返らず、何か聞こえても振り返らずに。

 ──また燃やされた。


 次の回で、隠れながら逃げてみた。

 簡単には、見つからないように。

 ──また燃やされた。


 次の回で、透明化の魔法を使用してみた。

 これで見つからずに、元の道を帰ってみた。

 ──また燃やされた。


 ──恥も外聞もなく、全力の必殺技、“シャイニング・レイ”を要塞の壁に向かって放ってみた。

 壁に穴が空いた。穴の先は、王国軍が戦っている最中だった。

 ボクは、逃げ出す事に成功した。


 すぐに王国軍のリーダーに伝えた。

 魔王軍四天王がいたと。ボク一人では到底叶わないと。

 援軍を要請し、その場にいる軍の過半数以上を、炎の四天王への戦力に割り当てた。


「──“薪役”ごくろーさん、っと……」


 ──全滅だった。


 直接相対したものも、他の魔物を相手していたものも。全て、全て平等に燃やされた。


 何度も。何度も。全軍率いて相対しても。

 何度も。何度も。全軍率いて逃げ出しても。


 ──全てを投げ捨てて、“ワタシ”一人で逃げ出そうとしても。

 ──涙ながら、命乞いをしても。

 ──痛く無いように、先に自殺しようとしたとしても。


 あの炎の四天王は、燃やしにくる。

 “ワタシ”の全てを、燃やし尽くす。


 戦いにならない。逃げることも許されない。全て、全て燃やしてくる。


 魔王を倒すと言う意思も。

 世界を救うと言う誓いも。

 ……子供達を守りたいと言う願いも。


 全て、灰になっていく。


 “ワタシ”には、勇者の勇気も燃やされて。

 もう立ち向かう意思が残っていなかった。

 全てを燃やし尽くされた“ワタシ”には、何も残っていなかった。


 ──ただひとつ、カイトの家の入り口を除いて。


 ☆★☆


 ……一つ、気づいた事がある。


 “ワタシ”がカイトの家にいる間、あの炎の四天王はカイトの家にやって来なかった。

 マーカーが向こうに置いてあるから、繋がってるはずなのに。

 それとなくソラ様に確認してみると、“ワタシ”のように選ばれた人だけが、カイトの家に繋がる通路が見えて入れるらしい。


 それを聞いて、“ワタシ”はとても安心した。

 カイトの家は、絶対の安住の地になっていたのだ。


 それからだ。“ワタシ”がカイトの家に居続けるようになったのは。

 カイトの家から、元の世界に戻る事は無くなった。

 カイトの家で、彼の事を手伝うようになった。──追い出されないように。

 ソラ様と、一緒によく遊ぶようになった。──気に入られるように。

 メタルマンとマホと呼ばれる彼、彼女を見送るようになった。──現実を見ないように。


 この場所は。とても、居心地がいいから。

 だから、ずっとこの場所に居たくて。

 いつまでも、このままだとダメだと言う事は、分かっていたのに。


 ──だから、女神様に怒られたんだ。


 その事は、仕方ない事だと思ってる。

 役目を放棄しかけた、“ワタシ”が悪いのだから。

 だから“ワタシ”は、ボクに戻り、また要塞に戻ったのだ。


 そこで、燃やされて。燃やされて。燃やされて。燃やされて。

 殺されて。殺されて。殺されて。殺されて。殺されて。

 絶望して。絶望して。絶望して。絶望して。絶望して。

 世界を恨んで、恨んで、恨んで、恨んで、恨んで。


 また、今日も燃やされに行くんだ。

 もはや、ただの自殺の繰り返しだった。


 ──女神様。女神、ソラリス様。

 ボクに使命があったのはいい。それは女神様が選んだせいでは無かったから。

 “ワタシ”にセーブポイントと言うサポートをしてくれたのはいい。彼女にとってそれは親切だと分かったから。


 でも、でも。


 ──何故“ワタシ”に、温かい家庭など経験させたのです?

 ──何故“ワタシ”に、カイトと言う親切な彼を会わせたのです?

 ──何故“ワタシ”に、幸せな居場所というのを教えてしまったのです?


 それがあったから、“ワタシ”は心が弱くなってしまった。

 それがあったから、“ワタシ”は天国があると知ってしまった。

 それがあったから、“ワタシ”は地獄がより地獄だと感じるようになってしまった。


 ──ああ。


 何故“ワタシ”に幸せなど教え込んだんですか。何故その上で取り上げるような事をするのですか。

 分からない。分からない。


 ──こんな事なら、彼の家など知らないままが良かったのに。


 ☆★☆


 ──こうして、“ワタシ”は今日も、自らの処刑台に上がる。


 永遠と繰り返される、自分の死場所へと。


「──ああ? お前が要塞内をチョコマカ動いていたやつだったか」


 何度聞いたか分からない、同じ言葉を聞き流す。

 どうせ、今回も同じだから。

 剣を構えて、戦う準備をする。──剣が、手から落ちてしまった。

 ああ、立ち向かい直そうと思ったのに。力が入ってない。拾わなきゃ。拾わなきゃ。


「……何だこいつ。何しに来た? ……まあいい、さっさと死ね」


 ああ、今回もダメだったか。

 こうして“ワタシ”は、諦め/安心の中、また燃やされて────





「──そう何度も、燃やされてたまるかよ」




 ──誰かに、庇われた。


「え──?」

「何ぃっ?!」


 ……それは、誰かの背中だった。

 それは、見知った背中だった。


 そんな筈は無い。そんな事はあり得ない。


 “彼”が、ここにいる筈がない。


 “彼”が手をかざした物から、魔法の盾のようなものを展開して、それが炎を防いでくれていた。

 見覚えがある。確か、“彼”が少女から貰っていた物だ。

 そんな“彼”が、こちらを振り返って声を掛けてくる。


「──よう。今回“も”大丈夫だったか、ユウカ?」


 “彼”──カイトが、そう声を掛けてきた。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?