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第42話 助けに来た

「な……ん、で──?」

「あー、もー、“何度目だよこのやり取り”。……何でって、お前が困ってそうな状態だったから、助けに来たに決まってんじゃねーか」


 “ワタシ”の、声にならない問いかけに、カイトは呆れたような表情でそう答えていた。

 まるで、ちょっと友人が大変そうだったから手伝いに来た、みたいな気楽さで。


「貴様!! 何者だ!? 何処からやってきた!?」

「よっす。“久しぶり”、イフリートさん。相変わらず燃えてるなあ」

「……?」


 混乱してる“ワタシ”を他所に、カイトは気楽そうに炎の四天王に声を掛けていた。

 ──いや、気楽そうじゃない。よくみると、彼の額に怒りの筋が浮き出ていた。

 どう言う事だ? アイツに何か恨みでもあったのだろうか? ……異世界の彼が?


 いや、そんな事はどうでもいい。“ワタシ”はハッと正気に戻る。


「か──、かいっ、カイト!! ここは、危険だ!! は、早く元の世界に帰った方がいい!! そこなら、あいつも追ってこない!!」

「知ってる」

「へ──? い、いや!! だったら、尚のこと逃げるべきだ!? 早く! あいつに燃やされたら、とても苦しい中で死ぬ事に──」


「“知ってる”」


「────え?」


 ……“ワタシ”の言葉に、カイトはそう分かり切った事を言われたような態度で、シンプルに返事をし続けていた。

 知って、いる……?


「な、何で? “ワタシ”が死んだ時の事なんて、今回話していなかった筈──」


 四天王の事は、一切カイトにも、ソラ様にも話していない。

 もちろん、メタルマンとマホの二人にもだ。

 にも関わらず、知っているなんて……


「髪が焼け、皮膚が焼け。肺が焼き付き、目の水分が蒸発する感じがするんだろ? めっちゃ痛くて悲鳴にすらならなかったし。あれは悲惨だったよなー」

「え、あ……?」

「そんでもって、あいつ逃げ出した相手すら、わざわざ追いかけて燃やしてくるんだろ? ひっどいよなーあいつ。しつこくて嫌になったわ、あの時は」

「何を……何を、言って……?」


 カイトの言っていることが、よく分からない。

 いや、分かるのは分かる。どれも“ワタシ”自身、経験したものばかりだからだ。

 でも、それがまるで、彼自身もまるで経験したような感覚で話しているのがおかしくて……


 ……経験?


「カイト、まさか──」


「ゴチャゴチャとうるさい!! もういい、死ねえ!!」


「っ!! “マジックシールド・メダル”!!」


 “ワタシ”が問いかけようとした時、痺れを切らしたのか炎の四天王が燃やしてきた。

 それをカイトは、手に持ったメダルで再度魔法の盾を出して防いでいる。


「全く! 相変わらずゆっくり話させてくれねえなあ!!」

「カイト!! 君は──っ」


 盾越しに炎の熱波が伝わる中、“ワタシ”は叫ぶように──


「──“君は、何度も死んだのか!?” この場所で!?」


 その気付いた事実を、問いかけた。


「あったりー! 今回は早かったな、当てるの!!」


 炎の四天王の攻撃を防ぎ続けながら、カイトは“ワタシ”に振り返ってそう笑っていた。

 何度も死んだ! それは、つまり──


「“君も、セーブポイントを使ったのか!?”」

「ああそうだ!! じゃないと、異世界なんて安心して来れないからなあ!!」


 まるで当然の事を言うように、その事実を言い出した。


「ソラにも確認した! “俺にもセーブポイントって使えるのか?” ってな!! そしたら、元々俺が管理人だから当たり前のように使えるだってよ!! おかげで遠慮なく来れたぜ!!」

「そんな──!? だからと言って、死の恐怖が無い訳じゃ無いだろう!? 戦いを知らない君が、こんな場所に来てただで済む筈が無い!!」

「ああ、そうだよ!! “だから何度も死んだ”って言ってるんだろーが!!」

「っ!?」


 先ほどより炎の攻撃の密度が増えた中、カイトが両手でメダルを持って堪え始める。


「イッチバン最初なんかなあ!! ただユウカと逃げようとしただけで簡単に燃やされたわ!! 最初の2,3回は、このメダルを使うって言う発想が無かったから、そのまま燃やされてたしな!! それ以外にも、何度も何十回も死んで──“50回くらい”は戻ってきたわ!!」

「は──? あ、──はあッ?!!」


 50回。“ワタシ”ももしかしたら、それ位いくかもしれない。

 カイトは、“ワタシ”と同じくらい死の経験を繰り返していたのだ。


「そんな!? そんなの、正気を保てる訳──!?」

「そうだよ!! 気が狂いそうだったよ!! 何度吐いたか分っかんねーし!! と言うか実際何度も発狂したわ!! その上で今ここに立ってるんだよチックショーッ!!!」

「な、何でそこまでして──」


 何故。

 何故そこまで地獄を味わっておきながら。

 “ワタシ”と違って、この地獄に来る必要が無いのに、何故──。


 そう思っていると……


「単純に!! 俺が!! 気に入らねえからだぁッ!!」


 ──その言葉と共に、炎の四天王の攻撃を、防ぎ切ったのだ。


 ☆★☆


「っふう──、っふう──……」

「た、耐え切った……!?」


 あの、炎の四天王の攻撃を、耐え切った。

 “ワタシ”一人ではどうあがいても、回避はともかく防ぐ事は出来なかったのに。

 貰い物とは言え、戦いを知らなかったカイトが。


「貴っ様ぁ……本当に何者だ!? 俺の自慢の炎を防ぐなどと……ッ」

「ッハ! あんたに何十回も殺された、ただの通りすがりの一般人だよ!!」


 荒い息を吐きながら、カイトが叫びながらそう返事をする。

 何度も殺された一般人など、普通はあり得ないように聞こえる内容だった。


「はあ? 何を訳の分からない事を……まあいい、少し本気を出してやる」


 そう言って、炎の四天王は両手に炎を構え始めた。

 それを、大きく振り下ろす!!


「“フレイム・ウォールッ!!”」


 っ?!

 アイツ前から、巨大な炎の壁が現れて迫って来ている!!

 逃げ場が一切無い!!


「カイト! さっきの防御魔法を……!!」


 もう一度展開を。そうお願いしようとしたら……


「あー、やっぱりこのタイミングで“メダルの魔力切れ”か……何回やってもこれ以上節約出来なかったんだよなあ……」

「嘘でしょ?」


 そんな水筒の水切れた、みたいな軽いノリで話す?

 今まさに死が迫って来てるのに?


「ブワッはっはっは!! そのまま死ねぃっ!!」

「っ、カイト! せめて、“ワタシ”の後ろに!」


 焼け石に水でも、少しでもカイトだけでも守ろうと、そう声を出した。

 だが、彼はすぐ動かずに……


「……やっぱ、結局の所。“戦いを知らない俺一人が増えても、結果は変わらないんだな”って、思い知ったよ……」


 そんな事を、ぼんやりと言い出した。

 そんな事……そんな事、無いよ。君が助けに来てくれて、本当に、嬉しかった。

 戸惑いも大きかったけど、“ワタシ”の心は、確かに救われていたよ。

 そう伝えたかった。


 そうして、とうとう目の前に炎の壁が──


「だからさ──



 ──今回から、“専門家達に頼む事”にしたんだわ」



「“マジカル・シールドッ!!”」



 ……その言葉と共に、先ほど以上の“巨大な魔力の盾”が現れる。

 それが、迫りくる炎の壁を完璧に防いでいた。


「何いッ?!!」


 炎の四天王が驚愕する中、いつの間にか、“ワタシ”とカイトの前に、また一人新しい人が増えていた。

 それは……


「呼ばれて飛び出て即参戦!! 本家本元の盾の魔法使い! 魔法少女、“シールド・マホ”!! ここに参上!! イェイ♪」


 カイトの家で出会った、また別の世界の少女だった。


「ま、マホ!?」

「マホ、サンキュー!! ガチで助かったぜ!!」

「へっへー! ナイスタイミングだったでしょお兄さん! ギリギリまで見計った甲斐がありました!」


 ブイ、と目元の横でピースサインをするマホ。

 彼女まで、何でここに……!?


「くう!? また増えた!? 貴様ら、一体どこから……ヌウ!?」


 動揺している炎の四天王に対して、見覚えのある“ミサイル”と呼ばれるものが叩き込まれていた。


「──なるほど。単純な物理攻撃では倒し切れんと言う事前情報は本当だったのだな。これは早速用意して来た別の手が出番になって来るか……」

「め、メタルマン!?」


 空中を見ると、“ワタシ”とは様相の違う鎧を纏った彼が、空を飛んでいた。

 腕を炎の四天王の方に向けて、先ほどの攻撃を行ったらしい。


「メタルマン、見ての通りだ!! 牽制を頼む!!」

「ふん、言われずとも。寧ろそのまま、私一人だけで倒してしまうかもな!」

「ヌウうおおおおッ!??」


 そう言って、メタルマンは空中から他の兵器を放ち続けていた。

 な、何で彼まで……!?


「“クイック・ロード!!”」


 そう思っていると、ふと、急に体が軽くなった。

 まるで、疲れが綺麗さっぱり取れたような……


「どう? 怪我治った、ユウカちゃん?」

「ソラ様まで!?」


 後ろを振り返ると、ソラ様までここにいた!?

 な、何故……!?


「これで、受けたダメージは完全回復したわ!! 思いっきり戦えるわね!!」

「ソラ。ユウカ多分、“まだ何も攻撃受けていない”と思うんだけど」

「え!? て言う事は何!? 私、ただ貴重な“クイック・ロード”一回分無駄にしただけって事!?」


 しまったぁー!? と、ソラ様は両膝を付いて頭を抱え出していた。

 それを見たカイトは、白けた目で彼女を見つめていた。


「ッチイ。思ったより、タフな奴だな」

「あ、おかえりー」


 ……いつの間にか、メタルマンも近くまで戻って来ていた。

 どうやら、牽制を防がれて一旦戻って来たらしい。


 ……カイト。ソラ様。メタルマン。ユウカ。

 カイトの家でしか出会わないような人達が、ここに勢揃いしていた。


「な、何で……何でみんな、ここにいるんだ……? わ、“ワタシ”を、助ける為に……?」


 そう言うと、フンっとメタルマンが腕を組んで。

 マホが、ニコッと笑いかけて。


「貴様を助けに来た訳じゃ無い。あくまで“カイトに頼まれたから”やって来たんだ」

「お兄さん、私達に対して“土下座”までしてお願いして来たんですよ〜? ユウカちゃんを助けるのを、手伝ってくれーって」

「お、おま!? わざわざ言う必要ねーじゃねーか!?」


 二人の言葉に、カイトが照れ臭そうに取り乱した。

 か、カイトが……?


 すると、横でソラ様が言いづらそうに。


「わ、私は……本体が、ほら、ユウカちゃんにすっごい酷い対応しちゃってたからさ。その、私だけでも全力で手助けしてあげないと、って思って、ここまで来たんだけど……」

「貴重な擬似的な回復役だ。責任持って最後まで働けよ」

「わ、分かってるわよ!!」


 カイトのその言葉に、ソラ様は強くそう言い返していた。

 カイトは、“ワタシ”に向き合って……


「……と、言う訳でだ。ユウカ。異世界スケットオールスターズ、連れて来たぜ」


 そう言って、グッと親指を立てて来る。

 すると、今度は“ワタシ”の肩をポンポンっと叩き。


「ユウカ、もう大分疲れてただろ。精神的に。少し、そこで休んでろよ。──お前はもう、十分頑張ったよ」


 そう言って、カイトはやや強めの力を“ワタシ”に掛けて、その場にストンと座らせてきた。

 そうしたカイトは、他の3人を連れて振り向くと……


「──アイツは、“俺達スケットメンバーだけで”倒してやるから」

「フンッ」

「イエーイ!」

「まっかせなさい!」


「きっ、貴様らぁ……!!!」


 ──そうして、カイトを含めた4人は。


 炎の四天王に、向き合っていたのだった……




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