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第56話 死ぬかと思った

「あー、死ぬかと思った……」

「かなりキツかったわねー、あれ」


「凄い。割とあっさり何事も無かったかのように治っているのが凄い」

「あの回復魔法、ここまで凄かったんですねー。実際大怪我した時に使ってる場面初めて見たので、予想以上でビックリしました」

「さっきまで致命傷だったのが、あっさり治ってるのが凄いな。ロードしたわけでも無いのに」


 ボクの目の前で、カイトとソラさまが肩をグルグルと回しながらそう愚痴っているのが見えた。

 いや、本当に凄すぎる。あそこまで致命傷でボク達全員慌ててたのに。

 ソラさまの“クイック・ロード”の補充が完了した瞬間、ソラさま、カイトの順番であっさり傷が治っていた。

 やっぱりセーブポイントって凄い、そう思った。


「あ、そうだ」


 そう言って、カイトが振り返り……セーブクリスタルを、指差した。

 その顔は、ニッとした表情をしていて。


「ユウカ。今のうちにセーブしとけよ」

「カイト?」

「折角詰みセーブ状態から前に進んだんだ。新しくセーブしないと、損だろ損」

「……あ」


 そうだ。セーブポイント。自分自身の事を忘れていた。


「そう、だね。分かった」


 そうして、カイトの言う通りにセーブポイントに近づき。


「セーブ、する」


 そして……唱えた。

 その言葉とともに、クリスタルが一瞬光る。

 セーブが完了した証だ。


 ────。


 出来た。

 出来たんだ。

 あの絶望的状況を乗り越えて、セーブを新しくする事が出来たんだ。

 その事実を、ようやくじわじわと実感する事が出来て来て……


「んじゃあ、俺もっと……」

「あ、私もー」

「あれだけの戦いだ。またやり直しにされても困る」


 カイトも、マホも、メタルマンも。セーブクリスタルを使用して行った。

 これで全員が、セーブが完了した。


「ま、何はともあれ……」


 そうして、カイトが振り返り……


「──炎の四天王の討伐、完了だ。みんな、ありがとな。手伝ってくれて」


 そう言って、頭を下げた。


 ────。

 終わった。

 ようやく終わった。

 あの絶望の日々が、終わったんだ。


「────っ」

「わ!? ユウカさん、泣いてる!?」

「静かに泣いてるな!? びっくりしたぞ!?」

「ゆ、ユウカちゃん大丈夫!?」

「へ!? お、おい、どうした!?」


 ……あ、そっか。“ワタシ”、泣いてるのか。

 “ワタシ”は自分の頬に指を添えて、涙がこぼれている事をようやく実感した。

 ようやく、あの絶望の日々から抜け出した事を、実感する事が出来たのだ。


「あり、がとう──」


 “ワタシ”は、泣きながら拙い言葉で、話していく。


「ありが、とう──。本当に、助けてくれて、ありがとう──っ」


 カイトがお礼を言ったけど、本当にお礼を言いたいのは“ワタシ”の方だ。

 みんなが助けてくれたから。カイトが連れて来てくれたから。“ワタシ”は今、ここにいる。

 そんな“ワタシ”を見て、カイト達はそれぞれ呆れたように。


「気にすんな。もう終わった事だ」

「そうよユウカちゃん! お疲れ様!」

「さっきも言ったが、カイトに頼まれたからだ。お前を助ける為じゃ無い」

「無事乗り越えられて、良かったですね!」


 みんな、それぞれ慰めの言葉を投げかけてくれた。

 それを聞いて、さらに涙が溢れて来て……


「うっ、うぅ……」

「わあ、もっと泣いちゃった」

「おい、喜ぶのはいいが、油断は禁物だ。あの炎の化物、本当に倒し切れたのか? 確認する必要があるだろう」

「わー、メタルマンさん。その油断の無さ素敵ですけど、ちょっと空気読んで欲しいですねー」


 “ワタシ”が泣いてる中、メタルマンが無視出来ない内容を呟いていた。

 それを聞いて、ボクは涙を止めて、急いで落ち着く。


 そうだ、最後に一体が現れて襲って来たんだ。まだ数体残っていたとしても、不思議じゃ無い。


「急いで確かめに──あっ」

「おっと……」


 そう言って、リビングを飛び出そうとしたところ足がもつれてしまい。

 倒れそうなところをカイトに抱えられてしまっていた。


「確かめたい気持ちは分かるけどさ……今日はもう休もうぜ。回復したとしても、精神的に疲れてるだろ、全員」

「それは賛成。私も疲れちゃったわ……」

「セーブは出来たんだ。今日はもう休んで、明日ロードしてから、全員でもう一回ユウカの世界に行こうぜ。それで確かめてくる。それでいいだろ」


 カイトの提案に、マホやメタルマンが賛成、と答えていた。

 ボクも、異論は無かった。


「それじゃあ、今日はこの辺で。明日確認が完了してから、改めて祝勝会としようぜ」

「それじゃあ、私はここで失礼させてもらおう。自宅に帰らせてもらう。心配せずとも、明日にはまた来る」

「それじゃあ、私もー。みんな、また明日よろしくお願いしまーす♪」


 そう言って、メタルマンとマホは、それぞれの入り口から元の世界に帰って行った。

 残ったのは、ボクとカイトとソラ様だ。


「それじゃあ、ボクも……」

「ユウカ。今日はもう、ここに泊まって行け。お前は元の世界帰っても、あの要塞だろ?」

「……いいの、かい?」

「いいのいいの! もうあの四天王は倒したんだから、本体にも何か言われる筋合いは無いわ! 何か言って来たとしても、私が文句言ってあげる!」


 そう言うと、ソラ様とカイトは笑ってボクを誘ってくれた。

 それが、とても嬉しくて、嬉しくて──


「じゃあ、その…………また、よろしくお願いします」


 ボクはペコリと、頭を下げる。

 そうして、ボクはあれほど望んでいた、カイトの家にようやく戻ってこれたのだ。



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