「────? ここ、は……?」
気がつくと、ボクは不思議な空間にいた。
確かボクは、カイトの家で眠った筈……?
ここは……そうだ、見覚えがある。ここは……
「──ユウカ・ラ・スティアーラよ」
そんな声を掛けられて、ボクは振り向く。
「……ソラリス、様」
そこには、ソラ様の本体、ソラリス様がいた。
「炎の四天王、討伐お見事でした。あなたは、また一つ役目を果たしました。それを祝福しましょう……」
ソラリス様は、相変わらずの厳かな雰囲気で、そこにいた。
そして炎の四天王の件について話される。
きっとソラ様を通して見ていたのだろう。
女神ソラリス。
ボクにセーブポイントを貸してくれた女神。
そして、目を背けていたボクを、無理矢理押した女神でもある。
「……ソラリス様、一つ質問をよろしいでしょうか」
「何でしょう? 答えられる事なら、答えましょう」
ボクは許可を貰い、ずっと気になっていた事を質問した。
「──あなたは。“こうなる事”を予期していたのですか? カイトが、ボクを助けに来てくれるって」
そう、女神様は、かつて現実逃避していたボクを、無理矢理追い出した。
あの時は、セーブポイントを貸してくれたとは言え、女神を恨んでいなかったかと言えば嘘になる。
けれど。今にして思えば、カイトの目の前であんな事をした理由が分からなかった。
実際、この空間はボクが見ている夢として来ているんだと思う。
……だとしたら、そもそも警告の時も“この空間に呼び出せば”済んだ話だったんじゃ無いかと今気づいた。
だって、あればボクだけの問題だ。
カイトにも、わざわざ伝える必要が無い。
なのに、この女神様は、カイトの目の前でボクに警告をした。わざわざ、彼に敵意を向けられてまで。
「──期待していなかったと言えば、嘘になりますね」
そして、ソラリス様はそう答えた。
確定では無かったとは言え、そのつもりはあった、と。
「彼の性格上、あなたの事情を知れば、何らかの行動を起こす事は予想が付きました。まあ、最初はまさか一人であなたを助けようと無謀なループを50回もしたのは予想外でしたが……」
せいぜい数回程度で、私から何かして貰おうと直接何か言ってくるんじゃ無いかと思ってたんですけどね。
そう女神様は呟いていた。
「私に文句が来たならば、“他の世界の住人を利用する案”を出す予定でした。ですが結局、彼は自力でそこに行き着いたようですね」
「……最初から、“あなたはボク一人に自分の世界を救わせるつもりは無かった”、と言う事ですか?」
「──ええ」
女神様は、その問いかけに、肯定で返した。
「そもそも。“たかが一人に運命を委ねる世界”と言うのが間違ってると思うのです。……ええ、彼の言葉には激しく同意です」
そう言って、女神様はボクに近づいて、ボクの顔にそっと両手を添えた。
「運命を、一人に押し付けるのなら……その一人を沢山集めて、協力させた方が効率がいいでしょう?」
「……だから、セーブポイントを作ったんですか? ボク達に、協力させて事に当たらせる為に」
「……いいえ、ちょっと実態は違いますね」
違う?
そう疑問の声を上げると。
「……協力を狙ったのは当たりです。ですが、その方法がセーブポイントではなく。──“カイトの家に、招いた事”です」
「……!!」
「セーブポイントは、ただの攻略の保険。本当に世界を超えて協力者を作るなら、“カイトの力”が必要不可欠でした。彼こそが、私の本命。──だって彼、お人好しすぎるじゃない?」
私に手を添えた状態で、顔を向き合った状態から。
小動物を愛しむような表情から、まるで年頃の少女が笑いかけるような顔に。
厳かで堅苦しい雰囲気の口調から、気楽な女友達同士が話し合うような軽い口調に。
女神としての顔が変わり、ソラ様と同じ口調、表情に変わっていった。
「あのお人好しの事だもの。近くであなた達が苦しんでる様子を見せたら、絶対助けに動くに決まってるわ。で、一人じゃ大したこと出来ないだろうから、周りに協力を求める事は予想出来たしね。カイトに恩がいくように仕向けて、カイトを通して協力し会えるように狙ってはいたわ」
まあ、彼のお人好しさ加減には予想以上で呆れたけどね。そうクスクスとソラリス様は笑っていた。
「……狙いは、わかりました。けど、あの時あそこまでカイトに敵意を向けられるような言動をする必要があったのですか?」
「だってそこまでしないと、カイトは動かないかもしれないじゃない? まあ、私もやりすぎちゃったかなーとは思ったけど……けど割と、間違ったことは言ってなかったわよね、私?」
「まあ……はい」
まあ、確かに女神様の言い分は今思えば合っていた。人の心は、無さ過ぎたように思えたが。
そもそも、それが狙いだったなら素直にそう言ってくれればよかったのでは?
そう言うと、女神様は……
「えー。だって、“カイト側から助けに来て欲しかったから”」
「はい?」
そう言うと、女神様は私とおでこを合わせて……
「──彼、いい男だったでしょ?」
そう、自慢するような声で言ってきた。
その表情は、まるで自分の宝物を見せびらかしているようで。
「……そもそも! 神がここまで干渉するのが普通大問題なのよ! 私結構、違反ギリギリ、と言うか結構超えてる行為しちゃってるの!! セーブポイント置くまでが本来限度なの、ルール的に! 直接干渉あんまり出来ないから、カイト側から動いてもらう必要があったの!!」
そうして、先ほどの言葉を掻き消すかのように、言い訳を並べていた。
と言うか、直接干渉できないって……
「じゃあ、ソラ様は? あの子もソラリス様の分神ですよね?」
「だからセーフ。分神だから。その為にだいぶ記憶端折らせて貰ったから。神としてではなく、人として干渉出来る限界範囲よ、あの子は」
いやー、調整大変だったー。なんか悪ガキっぽくなっちゃったけど。と、呟いていた。
……つまり、ソラリス様は。本当は自分で色々動きたい所を、ソラ様を利用して間接的に手を貸していると。
その為に、カイトを用意したと。
「──さて、と。裏事情はここまで。それじゃあ、本題に入るわね」
「本題、ですか?」
すると一点、ソラリス様が話題を切り替えるようにそう言ってきた。
ここまでの話が、呼び出した理由じゃ無かったと言うことですか?
そう質問する前に、女神様はボクから離れていき──
「──ユウカ・ラ・スティアーラよ。炎の四天王討伐、お見事です」
そうして、厳かな雰囲気に戻り、先ほどの焼き増しのように言葉を紡ぎ始めた。
「使命を一部果たしたその褒美に、“何か一つ、願い事を叶えましょう”」
「──っ!?」
その言葉に、私は大いに驚いた。
願いを、叶える──?
「流石に、代わりに魔王討伐、などと言った過干渉になる行為は出来ませんが。簡単な願い事なら、私に叶えられる範囲なら叶えましょう」
……なるほど、そっか。
女神様が先程言った、世界に過干渉してはならないルール。
あれがあるから、魔王討伐などの願いは無理と言うことか。
つまり、女神様のルールに干渉しない願い事。
それなら叶えられると。
……そっか。だったら。
「──なら、“ワタシ”の願いは──」
ボクは、女神様に願いを言って。
それを聞いた女神様は……うっすらと、微笑んだ。