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第58話 帰ってきた日常

「カイト、お皿洗い終わったよ」

「おー、サンキュー。後はリビングでテレビでも見ていてくれ」

「ユウカちゃーん、こっちこっちー」


 カイトだ。

 あれから数日が経った。

 炎の四天王を討伐した次の日、全員で念の為またユウカの世界に行ったが、アイツの姿は見つからなかった。

 おそらく、あの時が最後の一体で完全に消えたんだろうと結論を下した。

 唯一可能性があるとすれば、ユウカのあの時の最大火力を受けて、吹っ飛んで生きていた場合だけど……まあ、可能性はごく低いと思われる。

 たとえそれで生き残ったとしても、寿命は大分削られている事だろう。


 つまり、現時点では一応討伐完了したと言える。


 その結果が分かって、ひとまず全員一安心した所だった。


「ユウカちゃん、何見るー?」

「そうだね。教育番組でも見ようかな? 結構面白くて、意外とこっちの世界の参考になりやすくて」

「ふーん。まあ、天気予報よりはマシね。OK! じゃあ、早速見ましょう!」


 視界の先で、ユウカとソラがまた一緒にテレビを見ている。

 それを見て、いつかの光景をデジャブに感じてしまう。


「……なあ、ユウカ」

「なんだい、カイト?」


「──また暫く家にいるけどよ。あのクソ女神に、何か言われてないか?」


 そう。あの日以来、ユウカはまた家で寝泊りするようになった。

 流石に以前みたいに二週間連続、まではいかないけど、3、4日位は連続でいるようになっていた。


「俺は別にいいんだけどよ。あのクソ女神にまた何か言われてるんじゃ無いかと思って……」

「ああ、それなら大丈夫。今回は、ちゃんと許可を貰ったから」

「許可?」


 そう聞くと、ユウカは嬉しそうに首だけ振り返り。


「女神様に頼んだんだ。炎の四天王討伐祝いに、カイトの家に滞在期間を多めに取らせて欲しいって! 女神様は、一種の長期休みね、と言っていたけれど……」

「なるほど、夏休みみたいなものか」


 俺はそう聞いて納得する。

 あれだけの規模の戦闘だ。少しは休まないといろいろ身も心も保てないだろう。


「あと、流石に完全に魔王討伐の旅をストップする事は出来ないけれど、寝泊りの家を完全にカイトの家に来てするくらいなら問題無いって!」


 そう言ったユウカの表情は、過去一番の嬉しそうな顔をしていた。

 ……いや、嬉しそうなのはいいんだけど。


「なるほど、それでユウカちゃん、家に泊まる日が多くなったのね」

「ねえ、それ家主俺なんだけど。何かってに許可出してんのアイツ? ねえ?」


 相変わらず、勝手な事決めやがって……

 そんな俺の態度を察したのか、ユウカが不安そうな顔に変わって。


「……だめ、かい?」

「……俺に直接許可貰えよ。それならまあ、いいよ」


 俺はその表情に負けて、そう言うしかなかった。

 やった、とユウカは嬉しそうに両手を握っていた。

 くそう、可愛いなこいつ。


「良かったねー、ユウカちゃん!」

「うん! あ、そうだカイト」

「なんだ?」


 そう聞くと、ユウカはゴソゴソと懐を弄り。

 そうして、取り出して来たのは──は?


「それ、金塊じゃねーか!?」

「ちょっと!? それもしかしてあの本体が持って来たやつ!?」

「夢経由で、カイトに渡してくれって。枕元に、いつの間にか置いてあったんだよ」


 はあ!? それってクソ女神に返却したやつじゃねーか!?

 いらねえいらねえ! 返してこい! 俺がそう言おうとすると……


「後、ソラリス様から伝言。“今回はごめんなさい。やり過ぎた”って」

「────」


 それを聞いて、俺は一瞬無言になり。

 ……思わず、ユウカに視線を向けて。


「……カイト?」

「……お前は良いのかよ、ユウカ。お前が1番の被害者だろ」

「うん。ボクはもう良いんだ。女神様と、直接話して来たし。……彼女も、結局は彼女なりにボク達を助けようとしてくれてるって分かったし」


 ユウカは、本当になんて事のないようにそう話していた。

 ──そう、か。

 ……はあ。


「──ソラ」

「ど、どうしたの?」


 俺がそう呼びかけると、ソラが分かりやすく動揺したような声で、そう聞き返してくる。

 安心しろ、お前に対してじゃねーよ。


「確か、ソラの見たものって、あの女神本体にも見えるんだよな?」

「そ、そうだけど……」

「よし……」


 俺はそう言って、ソラに対してしゃがんで向き合って……その目をしっかり見た。


「──ソラリス。謝罪なら、お前が直接来て言いに来い。……その時ご飯くらいなら、作ってやるから」


 ……これが、今実際にアイツに見えているか、聞こえているかどうかは分からない。

 けれど、何となくアイツは今まさに聞いてるだろうな、と。そう思った。

 あの人の心が微妙に無い、けれど、それでも自分なりに反省するような女なら、多分、と……


 よし。言いたい事は言った。

 俺はそう納得して、ソラから離れた。


「……カイト。相ッッッ変わらず、甘いわね……」

「謝罪の意思が本当にあるならな。まあ、話くらいは聞いてやるよ」


 ソラが俺の甘さを非難するかのように、そうジト目で言ってきた。

 俺はそれに対して、軽く流す。

 ま、ユウカにある程度事情は聞いてたからなー。

 それにしても、俺を巻き込む気満々だったのは、普通にイラつくけど。

 その点については、今度直接会ったら文句言ってやろう。俺はそう誓っていた。


「──カイト」

「ん? どうした?」


 すると、ユウカが真面目な表情をして、俺を見つめてきた。

 それは真剣な雰囲気で。


「……君はこれからも、同じ事をするのかい?」

「同じ事って?」

「……ボクを助けた時と、同じ事」


 それを言われて、俺はあ〜……と、顔を上げて声を漏らしていた。

 あれなー。めっッッッっちゃ大変だったよなあ〜…………


「正直、もう勘弁っていうのが本音なんだが……」

「本当に? 君は、言っていたよね。落ち込む顔を見せられ続けるのが嫌だって。……また、似たような事があっても、君は動かないって言えるかい?」

「……何が言いたいんだ、ユウカ?」


 おい、マジで何を求めているか分からねえぞ?

 何、まさか他の世界に助けに行って欲しく無いって事?

 そう思うと、むしろ逆で……


「……きっと君は、今回の時と同様に助けに行こうとすると思う。だから……」

「だから?」



「──その時は、“真っ先にボクに声を掛けて貰ってもいいかい?”」


「──へ?」


 その言葉に、俺は呆けた声を出して。


「助けてくれた、マホやメタルマンのように。勇者として、君の仲間として……君の“剣”として、戦いたいんだ」


 そう続けたユウカの表情は、とても真っ直ぐな目をしていた。

 まるで彼女の持っていた聖剣のように、真っ直ぐキラキラな目で。


「……だめ、かい?」


 なのに、急に自信なさげの様な声を出して。

 それにはぁー……と、ため息を吐いて。


「──良いよ。こっちから願いするよ。いざって時には、頼むぜ」

「──うん!」


 そうして、ここ最近の中で1番の笑顔を見せていた。


「──あと、ね……」

「ん?」


 まだあるのか? そう思うと……


「……カイトは、彼女とか、いるかい?」

「……は? 急に何で?」


 いや、いないけどさ。そう伝えると、ユウカはホッとしたような表情で……


「──じゃあ、“ワタシ”、とかはどう?」


 そんな、爆弾発言を出してきた。


 ────────。え。


「え、えっと。急に、何、を……」

「それとも。勇者じゃ、ダメ、かな?」

「いや、ダメっていうか……急にどうした、ユウカ?」


 俺はとりあえず、なんで急にそう言ったのかユウカに問いかける。

 するとユウカは、心の底からおかしそうに。


「どうしたって……“あれだけの事をされて、気にならない女の子がいるのかい?”」

「……へ?」

「世界を超えてまで、助けを集めに来てくれる……そんな経験をして、一切心が動かない女の子がいると思う?」


 そう言って、ソファーの上で体育座りしながら、首を傾げてくるユウカ。

 それで、どうだい? と、何故か色っぽい声色で聞いてくる。


 それを、俺は……


「────ほ、保留でお願いします」


 俺は、逃げた。

 男女の付き合い方なんて、全然分からなかったから。思わず。

 それを聞いても、ユウカはクスリと笑って。


「良いよ。ずっと待ってて上げるから」


 そう、綺麗な笑顔でそう言った。


「……青春ねー」

「おわあ!? ソラ!?」

「何驚いているのよ。ずっといたわよ。私のこと、忘れてたでしょ」


 ヤバイ、忘れてた。あんなユウカの告白と同意の行為をされて、動揺しない方がおかしい。

 ツー事は、俺の返事をこいつも聞いてたわけで……


「──ヘタレ」

「やかましい!!」


 そう言ったソラの表情は、心底呆れたような顔だった。

 思いっきりバカにして来やがった、こいつ。

 ちっくしょう! 言い返したいのに、全面的に俺の責任だから言い返せねえー!!


「あ、あーっと!! お昼ご飯の準備があった! 俺用意してくるな!!」

「逃げたわね」

「ソラ様、その辺で……」


 ソラの責めるような言葉から逃げるように、俺はキッチンへと向かって行った。

 クッソー! とりあえず、ご飯でも作って気分でも変えるか!!


 そう思って、何が食材残ってたかなと、冷蔵庫をパカっと開けると──



「──おや? おやおやおや? これはどう言う事だい? 何故冷蔵庫の中に人がいて──」


 バタン。←冷蔵庫の扉を閉める音。


 ……おっかしーな。現実逃避が行き過ぎて、幻覚見たかな?

 なんか、“白衣を着たメガネの女が見えた”気が。


 もう一度。パカっと。


「──ふうむ? これは、私の冷蔵庫の中身では無いな? うん? どこかの部屋が背後に──」


 バタン。……ヤバイ、まだいる。強い幻だな。

 ……なんか、以前にも似たようなデジャブがあったな。


 よっしゃ。今日は外食にしようーっと。

 そう結論したことをユウカ達に言おうとすると……


 パカっと。


「──これはこれは!! まさかこんな部屋が出来ていたとは!! 一体いつ作られたんだいここは? やあやあ始めまして!! 私は“Dr.ケミカ”! ケミカ・ジュールと言う!! はーっはっは!! 初めまして諸君! 薬はいるかい?」


 そうして、冷蔵庫から幻覚が出て来た。

 それを見て、ユウカとソラも大いに驚いている。


 ……うん。現実逃避は止めよう。


 ──ああ。また濃いのが来たな。


 と、俺はそう思った……


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