「──ふう。上手くいって良かったわ……」
私は、女神の空間で今回の顛末を見届けて、思わずそう呟いた。
全く、大分危なかったわねー……最後の最後に、カイトがお腹穴開けられた時は焦ったってレベルじゃなかったわよ!!
全く、油断するんじゃ無いわよ、もう……
「……けど、本当に、ありがとう」
私はそう、改めて静かに呟く。
本当に、良かった。
ここまで上手く行ったのは、カイトのおかげ。
謝罪なら、直接言いに来いって言われたけど……
「……まあ、もうちょっと落ち着いてからで、うん」
私は、そううんと頷いて結論付けた。先送りとも言う。
「──カイト」
私は、思わずそう呟く。
「あなたは、なぜ自分が管理人に選ばれたか不思議に思っていたわよね?」
以前、彼がそう愚痴っていたのをソラ経由で見た事がある。
けどね……
「──逆に言うけど、“あなただけ特別じゃ無いって思ってるの?” あれだけ凄い異世界人メンバーが選ばれている中で?」
……そう。
勇者であるユウカ。
ヒーローであるメタルマン。
魔法少女であるマホ。
他にも何人か選んでいるけれど、どれも世界にとって莫大な影響を与える人物。
その人物達に、“自分が並ばないとでも思っているの?”
「ちゃーんと、あなたも“特別”よ……そもそも、“私の計画は、あなたがいないと始まらなかったから”」
ユウカちゃんに言った私の計画。彼のお人好しさを利用した計画。それも間違いじゃ、無い。
けれど、そもそも根本的な事。世界を繋げるのは、どうしたと思う?
「言っておくけど──」
「──“私に、セーブポイント関連以外の力は持ってないわ”」
そう、セーブポイント能力しか神は持っていない。
逆に言えば、“世界同士を繋げる力”なんて、持っていなかった。
つまり、“家のあちこちが異世界に繋がるのは私のせいじゃない”
「──いや、制御だけは、今は私がしてるから私のせいか」
私がしてるのは、不完全な力の方向性を定める事。
そしてカイト。“あなた自身も特別な一人という事”
ここまで言えば、分かるわね?
「……知ってるかしら、カイト? 世界から突如人が消える行為、これを【神隠し】って言う事を」
私は、聞こえる筈がないのにそう問いかける。
「神隠し。……ふふ、神隠し! あはは! 女神がいるのに、その名称って皮肉よねえ! 我ながらナイスと言わざるを得ないわね!!」
そう、彼の力は【神隠し】。
名称として、そう名付けた。
世界が繋がるのは、その能力が原因。
その力で、異世界同士を繋げているのだ。
世界を繋げるなんて行為。
とても可能性に満ちていて────
──“とても危険視される理由のある能力だ”。
「……安心して、カイト」
私は、聞こえる筈がないと分かっているのに、そう呟く。
「あなたは、普通の生活をしていれば良いの。あなたは、あなたのままで知り合いを救えば良いの。あなたの、ありのままの姿が、私の求めたものなのだから」
だから──
「──これからも。みんなの世界を、救ってね?」
そうして、私は言いたい事を終えた。
ふと、横目を見ると、小さな消し忘れた立体ディスプレイがまだ残ってた。
「──ああ。まだ削除し忘れていたんだ」
私はそう、その画面を消すために指を伸ばした。
そこには、こう書かれていた。
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──危険度A + + +
“世界同士の境界を破壊する”恐れのある能力者が存在する。
危険すぎるため、この世界は破棄する。
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「“たかが一人に運命を委ねる世界”なんて、馬鹿らしい……逆に言えば、“たかが一人のせいで、世界に影響与える”なんて馬鹿らしい。……そう思わないかしら。ねえ?」
私は、誰に聞かせるでもなく、そう呟く。
画面を消して、他所の神から付けられたラベルを取り消した。
破棄された世界/ゴミ箱から拾って来た、私の大事な宝物。
「……カイト。あなたの価値は、私がよく知ってる。あなたの力は、今回示してくれた。だから……」
「──これからも、よろしくね」
私はそう、女神なのに、願うように。そう呟いた──