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第60話 第0話。そして、今

 俺の名は家入界戸(いえいりカイト)、カイトって呼んでくれ。

 見ての通り、ごくごく普通の一般人だ。

 近所の大学に受かり、念願の一人暮らしを開始し始めた所だったんだ。

 しかも一軒家! 良いだろ~! まあ、と言っても実の両親と元々暮らしていた家で、親が外国で仕事する事になったから、元々実家として使っていた家を一人暮らし用としてそのまま貰ったってのが真相だが。

 けど、一人暮らしは一人暮らし! これから俺の花の大学生生活が始まるぜ!


 ……そう思って、いたのだったが。



「ああ~~~~…………」


 俺はそんな事を長ーく呟きながら、ソファーで寝転んでいたのだった。

 念願の一人暮らし、それを迎えたのはいいのだったが……


「めっちゃ家事、大変だ……」


 さっきまで家事を一人でやっていた。掃除、洗濯、料理、全部一人だ。

 思ったより家出の作業が多くて忙しくて、両親のありがたさを改めて実感する。


 しかし、それ以上に……


「────────寂しい」


 ……思ったより、一人は堪えた。それが俺の本音だった。

 家事ようやく終わってソファーで寝転んでいると、改めて自分以外誰もいない部屋というものを実感する。


 まるで、世界に自分一人だけになったかのように錯覚する。


「一人だけの家が、こんなに寂しいなんて知らなかったな……」


 俺はそう、ポツリとこぼす。

 ちょっとの小旅行の間だけの留守番なんてレベルじゃない。

 両親は、確実に海外に暮らしに向かってしまったのだ。


 少なくとも、この家に両親が戻ってくる事は当分無いだろう。


 なら、高校からの友達を呼ぶか? そう思ったが……


「俺以外、みーんな県外の遠くの大学に行くんだもんなぁー……」


 そう、俺にとっても友達は、みんな遠くへ行ってしまった。

 地元の大学に進学したのは、ほとんど会話したことのないような人達ばかり。

 つまり、わざわざ家に呼ぶような親友が手ごろにいない。


 つまり、少なくともこの家に、自分以外の誰かがくるような可能性は低い。

 つまりは、しばらくは、この寂しさが続くと言うこと。


 もしかしたら、ずっと過ごしていたら慣れるかもしれない。

 けど……


「誰か……──誰か、話し相手になってくれないかなぁ」


 できれば、この寂しさを吹き飛ばすような明るい人が。

 俺と新しく、友達になってくれるような人が。


 そんな人が、家に来てくれたらいいな。そう思って……──


 ☆★☆


「──カイト、カイト! ちょっとカイトってば!」

「……んあ?」

「もう、寝ぼけてるの! みんなで打ち上げパーティやるって言ったじゃない!」


 そんなソラの声とともに、俺は叩き起こされる。

 いつの間にか、ソファーで眠っていたようだ。

 起きてみると、テーブルの向こう側では……


「カイト、料理の準備が出来たよ。ちょっと君ほどの腕はないかもしれないけど……」

「全く、家主だからって寝過ごしていたとはな」

「お兄さーん! お菓子いっぱい用意しましたー♪」


 ユウカ、メタルマン、マホ。そんな3人の声が聞こえて来た。

 それを聞いてソラが振り返る。


「ほら、3人ともカイトが寝てたからって代わりに準備してくれてたのよ! それが分かったら、ありがたく思いなさい! ほら、あんたも功労者でしょ!」


 そう言って、腕を引っ張って俺を起き上がらせようとしてくるソラ。

 それを見ながら、俺はボーッとして……


「……思った以上に、騒がしくなったよなあ」

「何? なんか言った?」

「……いや、何も」


 そう言って、俺はなんとなく、ソラの頭をポンポンっと撫でる。

 それを受けて、ソラが以外そうな顔をして。


「何よ、カイト? 急にどうしたの?」

「……いや? まあなんだ。──寂しさはなくなったな、て思ってな」

「はあ……?」

「いや何。


 ──みんな、ありがとうな」


 俺はそう、ポツリと呟きながら、ソファーから起き上がった。

 寂しさを吹っ飛ばすような、騒がしさを持って来た女神様。


 一人ぼっちの家から、みんなの家へ。

 一人の世界から、みんなの世界へ。

 普通の日常から、とんでもない体験へ。


 憎たらしく思うことが多いけれど……まあ、楽しさも感じています。


「さて……みんな、楽しもうか!」


 一人じゃ出来ない、非日常な日常へ。

 寂しさは、とうに埋まっていた。



 主人公:カイト

 本名:家入界戸(いえいりカイト)

 19歳

 172cm

 黒髪

 中立・善

 男

 実は、意外と寂しがりや。

 一人の生活を壊してくれた、小さな女神様へ、実は少しだけ感謝もしていた。


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