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第61話 女ドクター、現る

「粗茶ですが!!」

「おお、ありがとう! いただくねえ!」


 そう言って、手渡されたお茶の入ったコップをゴクゴク飲み始める白衣のメガネ女。

 ぷはあっ! と、一気に飲み干して、コップをテーブルの上にコトリと置いてくる。


「いやあ、どうもだねえ。お茶なんて飲むの久しぶりだったからねえ。とても美味しく感じたよ」

「そうなの、それなら良かったー、美味しく飲んでもらえたようで何より♪」

「……で、本題に入っていいか?」


 俺はキリの良いところを見計らって声を掛けた。

 テーブル越しに向かい合うように椅子に座り、この白衣の女を見つめ直す。

 ちなみに俺の隣には、ユウカも立ってくれている。

 武装こそしていないが、目の前の白衣の女が変な事をしようとしたら、すぐに動けるような体制になっていた。

 そんな俺たちを白衣の女はふうむ? とまるで見定めるような顔を向けて、そのまま疑問の声を出して来た。


「本題とは?」

「ん、そうだな……まずは軽く自己紹介だな?」

「あれ? さっき言わなかったかい、私?」

「悪いが、冷蔵庫から出て来たインパクトしか覚えてねえよ……改めて、互いに紹介させ直してくれ」

「ふうむ? ま、それなら仕方ないか」


 そう言って、俺は姿勢を直して目の前の女ドクターに向き直った。


「まずは俺たちからだな。俺はカイト、この家の家主だ」

「私はソラよ! 女神の分神! よろしくね!」

「じゃあ一応ボクも。ボクはユウカ、ユウカ・ラ・スティアーラだ。一応勇者をやっているよ」

「ほう! ほう、ほう、ほう!?」


 俺達の自己紹介を聞くと、白衣の女は目を見開いて身を乗り出すようにして、ソラとユウカを見つめ出した。

 その事に二人はちょっとびっくりしたのか身を引いている。


「これは不可思議だ! わざわざ女神や勇者を名乗るような者がいるとは? ただの酔狂か、もしくはそう名乗れるほどの根拠があるのか……いやはや、面白くなって来たねえ!」


 そうなると……と言って、白衣の女は今度は俺に視線を向け出した。

 あ、なんだよ?


「君の紹介は普通すぎるねえ……この中だと逆に一人だけ浮いてしまわないかい? それともそれを狙って目立とうとしているのかい? だとしたら、正直あまり面白くないから逆効果だねえ。君も普通に個性的なユニークを目指した方がいいよ?」

「大きなお世話すぎるんだけど、ねえ」


 俺は額に怒りの筋を浮かび上がらせながら、そう反論した。

 なんで自己紹介だけで俺がディスられなきゃいけないの、ねえ?

 おいソラ、ドンマイと肩をポンと叩いてくるんじゃねえ、なんか自分が惨めに錯覚するだろーが。

 ユウカもどう慰めようかオロオロしないでくれない? 気持ちは嬉しいけど。


 俺は湧き上がる軽い苛立ちを抑えながらも、話を進めるためにグッと堪えて白衣の女に投げかける。


「ったく、次はアンタの自己紹介の番だ。構わねえよな?」

「ん? ああいいとも。と言っても、私は良くも悪くも有名な筈なんだけどねえ」


 良いしょっと、と言いながら、白衣の女は立ち上がって俺達に向き直った。


「私は“Dr.ケミカ”! ケミカ・ジュールと言う!! 見ての通り、お薬専門のドクターさ!」


 そう言って、白衣の女……Dr.ケミカは両手をバッと広げて、自慢するように言い始めた。


「ふーん……ドクター、ねえ」

「おやおや、反応が薄いねえ……これはひょっとして、私の事を本当に知らないのかい?」

「うん、知らねえ」


 だって、世界自体違うし。

 そう内心思っていると、ドクターはふうむ? と、再度疑問に思うような表情に変わっている。


「おかしいねえ……というか私からも疑問に思っていた事なんだけど、なんで私の拠点の冷蔵庫が、この“セーフティハウス”に繋がっていたんだい? 昨日までは普通の冷蔵庫だった筈なのだが……」

「“セーフティハウス?”」

「違うのかい? てっきり、ここは避難所の一つか何かだと思ってたんだけどねえ……」


 Dr.ケミカがちょっと気になる言葉を零す中、ソラが元気よく手を上げて発言する。


「その疑問に答える前に、ケミカちゃん! あなた、最近夢で女神に合わなかった?」

「おやおや、ちゃん付けとはねえ? 私はこれでも23歳なんだけど、年下からそう呼ばれるのは新鮮だねえ。……ところで、女神の夢かい? あー、なーんかそんな夢も見たような気もしなくもないような……はっきりとは覚えていないねえ」


 ふうむ、と悩むような体制に再度なり、Dr.ケミカはそんな事を零していた。

 はっきりとは覚えていなくても、多分これも、あの駄女神関連か……

 その事に思い至ったのか、ユウカとソラは互いに目を合わせてコクリとうなずいていた。


「あのね、ケミカちゃん。カクカクしかじかで……」


 ☆★☆


「アーッハッハッハッハッハッハッ!? まさか異世界とは!? そんなのが普通にあるんだねえ!? という事は何かい? この外には、“ゾンビ”とかいないわけかい!? あーッハッハッハッ! それは最高な世界だねえ!!」


 そう言って、ソラから話を聞いたDr.ケミカはお腹を抱えてそう馬鹿笑いをさっきからずっとしていた。

 ていうか、今更っとゾンビとか言ってなかったか……? こいつの世界、まさかバイオハザードが起こったとかそういう系?


「それに、セーブポイントだって!? それが本当なら、とても便利だねえ!! 良いだろう、早速試そうじゃないか!!」

「あ、試すって何を……」

「ふうむ。分かりやすいのは、この薬かな?」


 そう言って、Dr.ケミカはカバンをゴソゴソと漁って、とある試験管を取り出した。

 それを見て、ユウカが疑問の声をあげる。試験管自体彼女に取っては珍しい物だろう。


「それはなんだい……?」

「“筋肉増強剤”さ。ソラちゃんだっけ? ちょっといいかい? さっき言っていたセーブポイントというのは……?」

「ああ、あれよ。あのクリスタル」

「なるほど、おっきいねえ!! さっきから目立つものだとは思ってたけど、わっかりやすいねえ! 確かこうだっけ? セーブする!」


 そう言って、Dr.ケミカは早速そのセーブクリスタルにタッチして、セーブを実行した。

 話を聞いたばかりとは言え、なんの警戒もなくすぐに使ったなこいつ……


「これで、セーブとやらは実行されたと思っていいかい?」

「うん、そうよ」

「そうかい。それなら、遠慮なく飲めるねえ」


 そう言って、先ほど取り出した試験管の蓋を開けて、ゴクゴク飲み出すDr.ケミカ。

 ぷはあっ、と一気に飲み干した。

 すると、10秒くらい経って……


「来たね、来たねえ……」

「あ、来たって、何が……」

「くるよお!!」

「おい、何が……!?」


 そう何度も声を発していると思っていると……Dr.ケミカの体が、“膨らんでいた”。

 白衣の服が、ピチピチに。

 腕とふくらはぎが、パンパンに。

 身長も、ぐんぐんと伸び上がる!

 力こぶが、膨張している!!


 あっという間に、頭以外の、彼女の人体の全てが、“筋肉モリモリのマッチョマン”に!? はあっ?!


「嘘でしょ!?」

「なんだい、これは!?」


 ソラとユウカもびっくりして、ユウカに至っては手近な椅子を持っていつでも殴れるよう警戒心マックスになっていた。

 それほど、普通の体型だった筈の女が筋肉モリモリのマッチョになっていたのが驚愕すぎた。


「アッハッハ! 驚く事は無いねえ! これはただの私の薬の効果さ!」

「く、薬?」

「ふうむ。数十分もすれば効果も切れるが、確かめるならその前に……ロード!!」


 そう言って、彼女がロードと唱えると……一瞬にして、マッチョ体型が消え去り、元の標準体型の女性へと戻っていた。

 び、びっくりした……そう思っていると、再度Dr.ケミカは高笑いを上げ始める。


「あーッハッハッハッハッ!? 本当にすぐに戻ったねえ!? 凄いねえ!? これなら自分の体で人体実験し放題だ!! ありがとう、ありがとう!! こんな凄いものを教えてくれて! アーッはっはっは!!」


 そう言って、Dr.ケミカはしばらくずっと喜びの大声を上げていた。

 躊躇なく自分を人体実験する変人女ドクター。

 またすごいのが来たな、と、俺は頭を抱える事になった……



 女ドクター:Dr.ケミカ

 本名:ケミカ・ジュール


 23歳

 164cm

 茶髪

 混沌・悪

 女


 バイオなハザードな世界からやって来た。

 マッドドクター。人体実験が大好き。

 セーブ&ロードを利用して、何度も人体実験をして記録を取ろうとする。

 セーブ&ロードが出来るようになったと知ったから、自分の体の使った実験に躊躇が無くなった。






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