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第63話 マッドサイエンティスト②

「ねえ、ケミカちゃん。他にはどんな薬があるの?」

「おやおや、ソラちゃんは興味津々かな? そうだなあ、五感強化は勿論、透明薬、声が変わる変声薬、肉体ゴム化、脚力強化、体重軽量化、肉体発光とか色々作用するものがあるよ?」


 それ、もはや魔法じゃね? と、さっき言ってた言葉を実証するようなあり得ない効果を持つ薬をツラツラと上げられた。

 それを聞いたソラは楽しそうにワクワク顔に変わっていく。


「へー、面白そうね! ねえ? 人を強化する分しかないの?」

「いや、そうだなあ……敵に対して、投げつける薬とかもあるよ? 例えば、定番の毒とか、麻痺とか……視力を奪ったり、溶かしたりとか……」

「溶かす!?」

「その薬が、ちなみにこちらなのだけど……」

「いらんいらん、出すんじゃねえ!?」


 えー? っと、取り出そうとした薬を渋々しまいなおしたDr.ケミカ。

 おいおいおい、やっべえ薬と持ち歩いてるんじゃねえか!?

 警察とかにバレたら一発で補導レベルだぞ!?

 いやこいつの存在、警察に説明出来るかどうかはわからねえけど!!


「まあ、それは置いておいて。実際、私の薬がこの世界に通用するかどうか確認したいから、誰か試しに飲んでくれないかい? そのために、肉体改造の薬が視覚的に分かりやすいから勧めたんだけど。どうだい、君たちも」

「嫌に決まってんだろ、普通に」

「私もー」

「ボクも、顔を改造するっていうのはちょっと怖いな……」


 全員断ったのをみて、えー? と声を出すDr.ケミカ。

 あったりまえだろうがおい。誰か好き好んで得体のしれない液体飲むんだっつーの。


「頼むようー。さっきの私みたいに、セーブポイントがあるなら何かあっても問題ないだろ〜? 臨床実験として最適なんだ君たちは。この機会は是非試したいんだよー」

「それでも普通に嫌なんだけど。見返りもないのにそんな実験付き合いたくないっていうのが本音だな」

「ふむ? 見返りかい? それは確かに、その通りだねえ……」


 ふうむ? と悩む素振りをしたDr.ケミカ。

 その間にお茶を飲もうとコップに手をつける俺。

 そして……


「じゃあ、私の肉体なんてどうだい?」

「ブフウッ!?」


 そんな爆弾発言を聞いて、俺はついお茶を吹き出してしまっていた。

 あっれ、聞き間違いかなあ……? いや、隣でユウカが、固まった表情になっている。

 という事は、聞き間違いじゃなさそうだ……いや、もしかしたら意味を勘違いしているのかもしれない。

 そんな彼女が、おずおずと問いかけてくれた。


「そ、それは……肉体労働の意味で、という事だろうか? 何か手伝いを……」

「いや? “性的な意味で”」


 勘違いじゃなかったぁぁああ〜。

 マジかこの女。いやマジか。


「こう言ってはなんだが、私の体の発育は割と良い方だろう? 健康そうな男の君には、興味あるんじゃないかと思ってね。どうだい、結構価値はあると思わないかい?」

「いや、んな事言われても……」


 そう言って、Dr.ケミカの体を改めて見直してみる。

 正直さっきの筋肉モリモリマッチョマンのイメージが離れなくてそういう目で見れなかったのだが……

 よくみると、結構ふくよかな胸。所々ボサボサだが、綺麗な長髪。白衣の隙間から見えるすらりと伸びた足


 …………ゴクリ。


「……カイト」

「……はっ!?」


 するとユウカが、呆れたような目線でこっちを見ていた事に気づいた。

 その視線に、カイトも男の子なんだね……と、呆れのような感情が乗っていた。


「カイト、これはいわゆるハニトラってやつだよ。ボクも勇者として、悪徳領主に仕向けられたことがある。乗らないほうがいい」

「お、おう。そうか。よし、とりあえずあんたの体はいらねえ。少なくとも俺達は人体実験されるつもりはねえよ」

「ええ〜?」


 そういうと、Dr.ケミカは残念そうな声を上げていた。


「というか、そう簡単に自分の体を売るような行為をするんじゃねえよ?」

「いやあ、ご無沙汰だったからついねえ。そもそも“生身の人間と出会うのも久しぶり”だったし」

「……そうか」


 その言葉を聞いて、俺達3人ともDr.ケミカを見る目が変わる。

 なんやかんやで、苦労して来たんだろうなということが忍ばれる。

 コイツも、ユウカ達と一緒か……この家に来た以上、困ってる存在……


「……ま。話は逸れたけど、いいぜ。外に行くんだろ? 一緒に出かけるぞ」

「本当かい? 楽しみだねえ!」

「ソラ、ユウカ。お前達も来てくれ。念のため監視な、コイツ」

「はーい」

「分かったよ」

「信用が無いねえ。まあ、いいけど」


 そう言って、俺達は席を立って玄関に向かって行った。

 Dr.ケミカもその後を付いてくる。

 すると、思い出したかのようにこう言って来た。


「あ、そうだ。すまない、私の外靴が持って来ていないんだ。誰か貸してくれないかい? 無理なら取りに戻るけど」

「あ、そうだったな。悪いけど、俺の古いスニーカーでいいか? ちょっとデカいかもしれないけど、紐できつく縛ってくれ」

「ありがとうだねえ。助かるよ」

「えーっと……これだ。はいこれ。持ってって」


 そう言って、俺は靴箱から古いスニーカーを取り出した。

 それをDr.ケミカにハイッと渡す。

 それを受けた彼女はいそいそと履き出そうとするが……


「ちょっと待ってくれ。そこで履かないでくれるか?」


 俺はそう注意する。

 すると、Dr.ケミカはん? っととても不思議そうに。


「え? だってここ、玄関じゃ無いかい? ここで履くのが普通じゃないかい?」

「いや、そうじゃなくて。靴持ってこっち来てくれ」

「ん? はい?」


 そう言って、Dr.ケミカに靴を持って移動するようにお願いして、俺達はリビングに戻っていく。

 そして……


「よーし、出るぞー」

「はーい」

「分かったよ」

「なんで窓から出るんだい!?」


 そうして、リビングの窓から出ようとする俺たちにDr.ケミカからツッコミが入った。

 何故って……


「玄関のドアが使えないから」

「はい? 壊れてるのかい?」

「いや、“ユウカの世界に今繋がっているから、外出たくとも使えなくて”……」

「私の冷蔵庫の時のようにかい!? 不便だねえ!?」


 そう言って、大きな声で驚きの声を上げられた。

 そうだ……俺ももう慣れちゃったけど、ユウカがこっちの世界にいる時って、世界つながりっぱなしだから玄関普通に使えないんだよなあ。

 だからメタルマンがいない時に窓からか、ガレージからわざわざ出るように最近はしてたんだよな。

 その事を聞いてユウカが申し訳なさそうな顔をしている。


「ごめんねカイト、ボクのせいで……」

「いいっていいって。強いて言うなら、そんなとこに繋いだソラが悪い」

「ええ!? 私のせいじゃないわよ! つながるの場所は自動判定だし!」

「私が言うのもなんだけど、君たちもやっぱり普通の生活じゃないんだねえ……」


 そんな事を言われながら、俺達は窓から外へと出かけていく準備を始めるのだった……

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