「アーッハッハッハッ! まるで宝の山だねえここは!!」
「あんまり騒ぐんじゃねーぞー」
俺達は今、近場のドラックストアに来ていた。
適当に街中をぶらついている最中、Dr.ケミカがこの店を見つけて興味を持ってしまい、入ろうと言って来たしだいだった。
興奮してDr.ケミカが店内を走っていく中、俺の横で優香も興味深そうにキョロキョロと店内を見渡している。
「ここがドラックストア……以前見たコンビニやショッピングセンターに近いけど、何が違うんだい? お店の大きさが違う事くらいはわかるんだけど……」
「ああ。ここは文字通りドラック、つまり薬をメインに扱っているお店だ。風邪薬とか市販品をここで買えるんだ。定番のやつなら他のお店でも売ってるんだけどな……ここだと種類が豊富なんだ」
「へぇー……あ、普通に食品も売ってるんだね」
「最近のドラックストアは、薬以外にも売ってて結構品揃えがいいからなー」
そうして、ユウカは感心したように声を漏らす。
さっきも言ってたように、ユウカはコンビニ、ショッピングセンター経験済みだ。
一時期元の世界に帰らなかった時も、買い出しには何度かついて来てくれている。
ここまでくると流石に慣れて来たのか、大きな驚きは無くなっていた。
となると、気になるのは……同じ事を思ったのか、ソラがDr.ケミカに近づいて質問していた。
「ねえ、ケミカちゃん。興奮している所悪いんだけどさ、あなたそんなにドラックストアが珍しい? 確かあなたの世界も発展具合は同じぐらいじゃなかったかしら? そっちもドラックストアくらいあるんじゃない?」
「ん? ああ、確かに存在するよ? けどまあ、そう言う店は大抵既に誰かの拠点にされているか、根こそぎ物品を使い果たされて放棄されているかのどちらかさ。無傷で、かつお店としての体裁を保っているなど、珍しいなんてレベルじゃないさ」
「ふーん……大変そうね」
なるほどな。俺はその話を聞いて納得していた。
バイオでハザードな世界観なら、ドラックストアやコンビニなんて真っ先に狙われる場所だ。
話を聞いただけでも一般人同士で壮絶な奪い合いがあっただろうと言う事は予想出来る。
少しDr.ケミカの境遇に同情し始めていた。
「だからこそ! このような機会は貴重すぎるのだよ! ありたっけの商品を書き込もうではないか!」
「わーい! じゃあカゴ沢山持ってくるね!」
「ちょっと待てえぇッ!?」
と思っていたらすぐこれだ!?
俺はカゴの中に大量の商品を詰め込もうとそいている二人に対して、ストップを掛けた。
おいソラ、お前もいい加減にしろ! 全然成長してねえじゃねえか!
すると、ユウカが呆れながら二人に注意してくれる。
「二人とも、駄目だよ? 結局は彼のお金での買い物なんだから。無意味に大量に物を買ってはダメさ」
「分かってるわよー。冗談よ冗談」
「えー? 冗談なのかい? そんな〜……」
とまあ、すぐに態度を改めたソラに対し、Dr.ケミカは本気で残念そうな声を出していた。おい。
「ケミカ、お前……一応価値観で言えば俺とお前は同じぐらいだと? 何無駄に大量に買おうとしてるんだよ」
「いやあ、つい。それに無駄なんかじゃないさ。せっかくの大量の物品が残っているなら、根こそぎ持っていかないと損だと思っただけさ」
その言葉に、ちょっとだけ違和感……
「……? ……!? おい、お前まさか金払わずに持って行くつもりだったんじゃないだろーな!?」
「……はっはっは! アーッハッハッハ」
「笑いながら誤魔化すんじゃねえ!?」
え、いや、ちょっと待て?
俺はふと気づいた事があり、一応Dr.ケミカに確認を取る事にした。
もしそれが本当なら、俺の配慮不足になるからだ。
「え、何? もしかしてお前、そんなに末期な世界で生まれたから、実は平和な時代とか知らないタイプ? お店で奪うのが当たり前な価値観? だとしたら、仕方ない部分もあるけど……」
「ふうむ? そう言う意味だったら、ゾンビがいなかった時代を知ってるタイプだが? お金も普通に支払ってた時期もあるよ?」
「じゃあ確信犯じゃねーか!?」
やっぱこいつ、ワザとやってんじゃねーか!!
分かった上で持ってこうとしてたな!? こっちの世界普通に警察が機能してるんだから、普通に捕まるぞ!?
「……なんてね、私も冗談さ冗談」
「本当か? 割と本気に聞こえていたんだけど」
「いやあ、君をから買うのが楽しくてねえ! ああ、人と会話するのは楽しいねえ!!」
コイツゥ……!! 俺が怒りを表そうとすると……あ、もっと怒りそうな奴が身近にいたわ。
俺より先に、Dr.ケミカに近づいて……
「……いい加減にしてくれないかな? ──本気で怒るよ?」
「はい、すみませんでした」
そう言って、ユウカに90度お辞儀をするDr.ケミカ。
ユウカすげえ、流石勇者。俺より怒り方に貫禄があったぞ。
すると、Dr.ケミカがおずおずとユウカに切り出していた。
「け、けど、こっちの世界に私の世界には無い珍しい薬があるかもしれないんだ。効果も違うかもしれないし、資料としていくつかサンプルが欲しいんだ。どうしてもそれだけは欲しい……!!」
「全く、最初からそういえばいいのに……分かった、ならボクからお金を出そう。カイトから、いくらか預けられているからね」
「おお、太っ腹だねえ!?」
「ソラ様も。今日は私から予算を出しますよ」
「本当? ありがとうー!!」
そうして、ユウカは財布を取り出した。
あの財布は、一時期この世界に留まって帰らなかった時に、俺がユウカ用に買い与えた物だった。
「いいのかユウカ? 普通に俺が出すが……」
「これも元はと言えばカイトのお金でしょ? 僕が自由に使える分で任されているんだから、ここはボクが使わせてよ」
「ん……そっか、それじゃあ頼むわ」
そう言うと、任せて、とユウカは笑っていた。
そうしてユウカは、ソラとDr.ケミカに近づき……
「はい。それぞれの予算。お金は分かるよね?」
「おお、ありがとう!! いち、にの……3枚? つまり……」
「3万円だね」
……まあ、大金だが、納得できる範囲ではあるか。
俺はユウカが思った以上に渡した事に、そう自分なりに納得していた。
しかし、これに異議を唱えたのはDr.ケミカだった。
「ま、待ってくれるかい……? これだと、その辺の棚の薬は3000円前後するらしいんだ。これだとよくて、最大10個。高い物だと、さらに数が少なく……せっかくこんなに棚一杯に種類があるのだよ!? これだと全然制覇出来ないじゃ無いか!? 研究用だって言えば、研究資金としてもっと普通に出るよ!?」
めっちゃわがままだったー。と思ったけど、研究者と考えれば、研究資金を貰っていたと考えると、もっと莫大な資金を動かしていた事もあるか。俺はそう納得していた。
だが、ユウカにはそれは通じなかったようで。
「これくらいが限度だよ。ボクが初めてこの世界に来た時、カイトに買ってもらったお菓子の合計金額がこれくらいだった。初見の君に対しても同じぐらいだから、十分でしょ?」
「薬とお菓子じゃかかる値段が違うと思うんだがねえ!?」
「だから合計金額にしてるんじゃないか? これでも文句あるかい?」
「ユウカちゃん!? それより私は5000円だけ?!」
「ソラ様はカイトから普段から買って貰ってるから少なめです。諦めてください」
「そんな〜!?」
やべえ、ユウカが思ったよりちゃんと考えてくれていてびっくり。とても頼りがいのある存在へとなってくれていた。
値段がまだバカ高いのは気になるが、どうせ俺でも同じぐらい出しちゃうだろうな、と言うのは予想出来ていたから黙っていた。
こうして、なんやかんやでユウカに購入金額を制限されたDr.ケミカ達は、渋々買いたい物を厳選してレジに持って行ったのだった……
☆★☆
「うう、まだまだ沢山欲しかったのにねえ……まあ、珍しい薬が予想外に手に入ったと考えればまだいいか……」
「まあ、私はお菓子沢山買えたからホクホクね。結局5000円も普通に大金だし」
そんなことを言いながら、Dr.ケミカとソラは帰り道を歩いていた。
俺とユウカも二人の前を先導するように歩いている。
ちなみに荷物は二人にしっかり持たせている。買ったものは責任持って運ぶようにとユウカに言われた為だ。
「ユウカ、いろいろありがとうな。おかげで楽が出来た」
「良いよ、良いよ。ボクもカイトにとても助けられていたからね。少しでも恩返しが出来たら良いなと思っていたところさ」
そう言って、ユウカは軽く微笑んでいた。
炎の四天王の一件が終わってから、ユウカは大分精神的に余裕を持つようになっていた。
おかげで俺の生活の細かいところをよく助けて貰っている。
「にしても、Dr.ケミカ、か……まためんどうくさそうな奴が来たなー」
「おっと? それは私に対して聞こえるように言ってるのかい?」
「めんどうくさいと言う自覚があるならもう少し気を付けてくれる?」
全く、これで異世界人はソラを覗いて4人目か。
こいつもこいつで、大変そうな運命背負ってるんだろうな……ああ、くそ。めんどうくさいなあもう。
「まあ、深く考えるのは止めだ止め。帰っていろいろ準備があるし」
「そうだね。帰ったら夕ご飯の準備をしないと。ボクも手伝うよ」
「あー……。夕ご飯なー……それなー……」
「ん? どうかしたかい?」
いや、どうかしたかって言うか、Dr.ケミカがこっちいる以上……
っと、そうこうしている内に家に到着したみたいだ。
「よーし、それじゃあ玄関から入るぞー」
「はーい」
「ん? あれ、玄関は使えないんじゃなかったのかい?」
「裏側から入る分には問題ないらしいんだよ。よく分からないけど」
「ふーん、とても不思議だねえ……」
まあ、だから片道とは言えまだ玄関から入れるのは普通にありがたい。
ただいまー、と言いながら俺達は家の中に入っていく。
……すると、リビングから誰かの声が聞こえて来た。
「あれ? メタルマンか? それともマホが来てるのか?」
「おや? お昼に話していた、私以外の異世界の住人かい? それは会うのが楽しみだねえ」
何はともあれ、あの二人も家に来てるなら夕ご飯追加しないと。
そう思って、扉を開けると……
「うわあ、何これ何これ!? 宝の山じゃない!! ダンジョンの中にこんなレアアイテムだらけの拠点があるなんて!! 食料らしきものもたんまり! これは根こそぎ持っていくしかないわね! 他の探索者に見つかる前に持っていかないと! えーと、リュックリュック……って、あっ」
そこには、見知らぬエルフ耳の女性が家の中を漁っていた。
……誰?
こうして、Dr.ケミカという新人の対応をやり切る前に、また新たな参入者が来ていたのだった。
俺の家を漁るのもセットで……