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第65話 女エルフ、不法侵入して来た

「粗茶ですが!!」

「何が!? 縛られた状態で飲めるわけないでしょ!?」


 ……家に帰って、この女エルフが漁ってる現場を見つけた後。

 一瞬にしてユウカがこの女エルフを無力化し、縛り上げてくれたのだった。

 ユウカさんパネエ。めっちゃ俊敏な動きだった。

 そしてテーブルの前に座らせ、飲めるはずの無いお茶を恒例の如くソラが出していたのだった。

 そんな女エルフに、ユウカが近づくと……


「──で、何か言い訳はあるかい?」

「怖い怖い怖いっ!? 何この女!? 綺麗な長剣持って私の首筋に当ててるんだけど!? すっごい冷めた目で見下ろして来てるんだけど!?」

「カイトの家を漁っておいて、ただで済むと思うとでも?」

「え! 家!? なんで!? ダンジョンの中に住んでるの!? ここ結構深い領域にあるわよ!? そんなところに人が住む!? エルフでもないのに、短命種がわざわざ!?」


 わざわざ部屋から持って来た聖剣で尋問をしてくれているところだった。

 その目は敵意がマックスで、以前のメタルマン達との初遭遇の時レベルの警戒心だ。

 って、そう眺めている場合じゃなかった。


「ユウカ、一応ちょっとその辺で……」

「カイトは許せるのかい? 勝手に自分の家を荒らされて。君の家だよ?」

「いや、まあ。多分家に誰もいなかったから、状況把握出来なかったのもあるだろうし……」


 さっきのこの女エルフの言い分を聞くに、おそらく何気ない時にこの家に繋がって来てしまったのだろう。

 ダンジョンの中がどうたら言ってたという事から、おそらく探検中にこの家につながって入ってしまった。

 ダンジョンの中だから、誰かの家だとは思わなかった。その辺りだろう。


「しまった……この間の件があって、ソラを留守番させるのを控えさせていたから、こんな事になっちまったんだな……やっぱり家を完全に開けるべきじゃなかった」

「残念ねカイト。……おそらく、私が留守番してたとしてもどうせお昼寝して眠りこけてたわ!」

「威張っていうな」


 どの道役に立たねえー。ユウカに留守番頼むべきだったか……

 まあ、後の祭り。とりあえず、事情を聞くか。


「というわけでユウカ、剣をおろしてくれない?」

「……まあ、しょうがないか」

「た、助かったわ……今日日、そんな凝ってこてな装飾の付いた剣なんてダンジョン探索につかわないわよ、もう。……それ売ればいくらになるかしら」

「もう一回、首筋に当てられたいかい?」

「ひっ!? や、やめなさい!」


 というわけで、この女エルフからユウカが剣を離して、ようやく落ち着いたのだった。

 一応、女エルフは縛ったままだ。まあ、実際に家を漁っていたし、事情を話すまではまあ。


「にしても、エルフか……」


 改めて、この女エルフの姿をよく見渡してみる。

 漫画やアニメで見る、コッテコテなテンプレエルフそのまんまな姿だ。

 今までの異世界人は、勇者、パワードスーツ、魔法少女、そしてドクターと来ていた。

 そしてここに来て、完全な人間じゃない種族が新たに現れたわけだ。

 異世界だからこんな事もあるだろうとは思ってはいたけれど、実際に目の当たりにすると珍しい。……炎の四天王は、一旦は除外で。あれどちらかと言うとモンスターの部類だろうし


 それより、この女エルフだ。

 リュックと弓矢を持っており、探索に適した格好をしている、まさに冒険者といった風格だ。


「? 何よ? そんなに私が珍しい? 確かに冒険するエルフなんて少ないかもしれないけど……けどゼロじゃないわよ。……あ、ひょっとして私の美しさに見惚れちゃった? ふふーん、それはちょっと照れるわね──」


「うわあ、本当にエルフだ! 私本体の知識で知ってはいたけど、実物見るのは初めてなのよねー」

「ほう! ほうほうほうッ!? これはこれは!! まさかの人間以外の種族とは!! いやはや、流石異世界!! 珍しいサンプルが転がっているものだねえ! 君、お薬飲まないかい?」


 そう思っていると、ソラとDr.ケミカがいつの間にか女エルフの背後にいて、彼女の耳を中心に体中を弄っていた。

 おい、ちょっと!?


「何!? なんなのこいつら!? ちょっと私の体ベタベタ触るな!? え、嘘でしょ!? 私の体目当て!? いやあぁ──ッ!? 私の体の処女狙われるー!? 172年守って来た私の貞操がぁ──ッ!?」

「いやどう見ても私たち女でしょ? 失礼じゃない?」

「まあ、私としては? エルフの女性の性器がどうなっているか、大変興味深くはあるがねえ!!」

「いぃ──やぁ──っ?!! これってあれでしょ、同性愛ってやつでしょ!? 人間の街の本屋で見たもの! 女同士が絡んでいる奴! ヤ──メ──テ──ッ!!!」

「意外とサブカルチャーに精通してるのね、この子……」


 やっべえ、全っ然話が進まねえ。

 ソラとDr.ケミカのせいで、女エルフがめっちゃ騒ぎまくってやがる。

 どう収集つけるんだこれ……そう思っていると。


「……カイト。一旦全員黙らせて来て良いかい?」

「良いけど、剣は置いてくれない? ハリセン上げるから」


 そうして、程なくして怒ったユウカによって、状況は無理やり落ち着く事になったのだった……


 ☆★☆


「あー……酷い目にあったわ」

「うう、ハリセンでも痛いよう……」

「良い音したねえ……」


 と言うわけで、目の前で正座で並べられている3人。

 目の前には、ハリセンを肩に乗せているユウカ。


「さて、とりあえず落ち着いたね。それじゃあ改めて話をしようか。カイト、進行お願いして良いかい? 君が中心の方がいいと思うからさ」

「ああ、うん……」


 そうして、ユウカからパスされた俺は改めて前に出た。


「止めて!! 私に性的に乱暴する気でしょ!! エッチな本みたいに! エッチな本みたいに!!」

「もう一回はたかれたいかい?」

「はい、すみません。……で、何よ」


 そう言うと、さっきまでの慌てようから一点、太々しい態度でこっちを睨んでいた。

 それを軽く流して、俺は改めて声を掛ける。


「とりあえずまあ、アンタも混乱してるだろうけど、一応自己紹介だ。俺はカイト、この家の家主だ」

「私はソラよ! 女神の分神! よろしくね!」

「じゃあ一応ボクも。ボクはユウカ、ユウカ・ラ・スティアーラだ。一応勇者をやっているよ」

「私は“Dr.ケミカ”! ケミカ・ジュールと言う!! 見ての通り、お薬専門のドクターさ!」


 それを聞くと、女エルフは目を丸くしたように顔を変化して……


「え? 今時女神とか、勇者とか名乗ってる痛い奴がいるの? 冒険者デビューって奴? 痛いからそれ止めた方が……」

「カイト、こいつお仕置きしていい?」

「ちょ、ちょっと何よちびっ子、その手? わちゃわちゃ動かして何を……って、アッハハッハハハハハ?!!」


 そうして、イラッとしたらしいソラによって女エルフはくすぐり地獄に落とされていた。

 おい、話が進まねえよ。

 ちなみにユウカは無反応だった。さっきまで怒ってたのに、と理由を聞くと、あくまで俺に対して気概を加えられたわけじゃなかったからだと言う。

 自分への悪口だけならスルーするとの事だった。


「あ、ははっ、あははは……はあー、肺が潰れるかと思った……」

「で、一応あんたの名前も教えてくれるか?」

「ふーんだ、私にこんな目に合わせる奴らに、名乗る名なんてありませーん」


 そう言って、プイっと首を背ける女エルフ。

 むう、面倒臭い……まあ、出会いが出会いだったからなあ。今までで1番の最悪な出会い方かも。


「ふむ。それならこの“自白剤”を飲ませてみるかい? エルフにも効き目があるか確かめて見たかったんだよねえ?」

「止めろマジで。ほら、めっちゃ警戒しだしたから」


 そうして試験管を取り出したDr.ケミカを押さえつけるが、女エルフの警戒心はマックスに。

 どうしたもんか、そう思っていると……


 突如、グぅー……っと響き渡る音。


「……? 何の音?」

「おそらく、お腹が空いた音だねえ」

「ボクじゃないよ?」

「俺でもない。と言う事は……」


 全員の視線が、一人に向けられる。

 その先には、女エルフが真っ赤な顔になって俯いていた。


「し、仕方ないでしょう!? ここ最近ずっと探検続きで、軽食しか食べられなかったんだもの! お腹すいても当然でしょう!!」

「いや何、恥ずかしがることではないねえ。生物としてその音は正常な証だからねえ」

「あ、お菓子買って来てあるけど、食べるー?」


 そうして、ソラがさっき買って来た買い物袋をゴソゴソと漁っていく。

 その中から、クッキーの箱を取り出して、小包装を一つ破いて行った。


「何よそれ、クッキー? ふふん、そんなもので懐柔させられると思わない事ね」

「はい、あーん」

「あーん。しまった、食べちゃっ……────ッッ?!! 何よこれ!? 何この甘さ!? え、嘘、信じられない!?」

「もっと食べるー?」

「頂きますッ!!」


 そうして、まんまとソラに餌付けさせられた女エルフは、一箱分のクッキーを食べ続け……


「ふう……ごちそうさまでしたっ」

「お粗末様でした」


 そうして、満足そうな顔に変わっていた。


「あー……とりあえず、自己紹介いいか?」

「えー? まあいいわ。美味しいもの食べさせて貰ったしね」

「チョロいねえ」

「なんか言ったかしら? さて……」


 そう言って、女エルフはすっくと立ち上がり……


「私はシルフィ!! ダンジョンのトレジャーハンターよ! 記憶したかしら?」

 そう言って、自分の頭をトンっトンっと指差していたのだった……



 エルフ:シルフィ

 本名:シルフィード・フォン・アタナシア

 172歳

 168cm

 金髪

 中立・善

 女

「私はシルフィ!! ダンジョンのトレジャーハンターよ! 記憶したかしら?」

 ダンジョンの存在する世界からやってきた、エルフの冒険家。

 主にソロで活動しており、トレジャーハントで生計を立てている。

 お宝好きで、金目のものに目が無い。

 170歳を超えているが、人間換算で1/10にしたらちょうど良いので、17歳程の精神メンタル。

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