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第66話 トレジャーハンター、女エルフ

「──異世界ぃ〜〜ッ?!!」

「そう、そう言う事よ!」


 そうして、改めて名乗ってくれた女エルフ。シルフィに対して、ソラが恒例の事情説明を行ったのだった。

 ちなみに、もうすでにシルフィに対する縛りは解かれている。


「そ、そんな……けど、そうね……すぐには信じられないかもしれないけど、だとしたらダンジョン内にこんな部屋があった理由が説明付くわね……ダンジョンの中にあったんじゃなくて、異世界のこの家と繋がってたのね」

「おお、理解が早くて助かるな」

「まあ、ワープの魔法陣は私の世界でポピュラーだからね。それの応用だと思えば、そこまで不思議じゃないわ。……女神の話に関しては、正直眉唾だけど」


 何よーっ、とプンプンするソラを無視して、俺はシルフィと話を進める。


「と言うわけで、だ。そこにそのセーブポイントがあるわけだが」

「はいはい、あれね。まあ一応、確かこうだっけ? セーブする」


 そう言って、シルフィがセーブクリスタルに触れた後、ピカァーッといつものように輝き出した。

 これでセーブが完了だ。


「さて、これで言い訳?」

「うん。問題ないよー」

「そう。それじゃあもう私に用は無いわね。帰らせてもらうわ」

「そういえばお前、どこから入って来た?」

「ここの2階の扉の一つと繋がっていたわよ? ダンジョン内の扉の一つと繋がってたわ」


 そう言って、リュックサックをよいしょっと背負い始めるシルフィ。


「それじゃあ、バイバ〜イ」


 そうして、シルフィがリビングを出て行こうとして……


「待った」


 その目の前で、ユウカが剣をシルフィの首に添えていた。


「ユウカ!?」

「ちょ、ちょっと何ッ!? なんなの、もう勘違いは済んだでしょ!? もう脅される理由は無いじゃ──」


「そのリュックに入っているもの、全部出してくれるかな?」


 そうユウカが言うと、シルフィはサーっと分かりやすく血の気を引いていた。

 リュック?

 そう思っていると、Dr.ケミカがシルフィのリュックをゴソゴソと漁りだす。


「ふむふむ、どれどれ……」

「あ、ちょっと!? 勝手に触るんじゃ……」

「おやおや、これは“金塊”だねえ? 君の世界のダンジョンで見つけたものかい?」


 そう言って、Dr.ケミカが取り出したのは、見事な金の延棒だった。

 あれ? 最近俺も見たな。確か結局、ソラリスがユウカ経由で置いていったものが……


「違うよね? それ、“この家にあった金塊”だよね?」

「……は?」


 そう言って、ユウカがさらにシルフィの首筋に剣の刃を近づかせる。

 ヒッ、とシルフィがさらに青ざめていた。

 つまり、俺にとって見覚えがあるんじゃなくて……ガチでこの間の金塊って事か!?


「そ、そんな証拠が何処に……!?」

「この間、それカイトが女神様に投げつけたんだよね。その時床に落ちたんだけど、そのせいで“端っこが少し凹んじゃってる”。つまりその時の凹みとその金塊が全く同じ形なんだよ」


 そう言って、冷めた目でシルフィを見つめ直すユウカ。

 俺は急いで金庫の置いてある場所に行って確認すると……


「あっ?!! ガチでねーじゃねーか!?」


 金塊の入っていた金庫の中は、本当に空っぽになっていた。ユウカの言ってた通りだった。

 なるほど、純金って意外にも思えるが、実は簡単に凹んだり、傷が付いたりしやすい金属だ。

 そのおかげで、あの時簡単に凹みが出来てしまっていたのだろう。それが証拠だと。


「嘘でしょ!? カイト、鍵かけて無かったの!?」

「ダイヤル式だけど、ちゃんと設定しておいた筈だ!!」

「おやおや、と言う事は彼女が解除したと言う事かい? まるで盗賊だねえ」


 そうして、全員の視線がジトっとシルフィに向けられる。

 そしてその視線に耐えきれなくなったのか、シルフィがドサっと座り込んで……


「ううっ……だって、だって仕方が無かったのよ!!」

「何がだい?」

「だって、“私借金あるし!!” 少しでも返済するために、金目のものを集めるしかなかったの!!」


 そう言って、泣き出したシルフィ。

 借金?


「私、故郷を飛び出して冒険者になったのはいいんだけど、駆け出しの頃知り合った別の冒険者に騙されて、多額の借金を背負わされたの!! なんか連帯保証人? ってやつにサインしちゃって!! アイツ逃げちゃったし、なんか私が払わなくちゃいけなくなっちゃったのよ!!」

「それは、まあ……」


 うわあ、思ったより悲惨だ……なんか生々しい。

 現代で言う詐欺に、引っかかったって事かコイツ……


「だとしても、カイトの家の物を勝手に持っていっていい事にはならないよね?」


 そう言って、話を聞いても剣を下げる気の無いユウカ。

 一切同情の視線を向けていない。


「な、何よ!! この金塊は異世界がどーたらの事情を聞く前にリュックに詰めたものよ! ダンジョン内にあるものは、基本的に先に見つけたものの保有物となる!! それがこっちの常識なのよ! ここダンジョンじゃ無いって事情知らなかったんだからセーフでしょ!?」

「でも今、事情知った上で持って行こうとしたよね? 話を聞いたなら、返せた筈だよ」

「それは、その……ドサクサに紛れて、持っていけるかなーって思って……」

「カイト、判決」

「ギルティ」

「そんなぁ!?」


 そんな俺の言葉に、ショックを受けるシルフィ。

 あったりまえだろうが!? 人様の家のものを勝手に持っていくな!?

 正直その金塊自体はあってもなくてもどっちでもいい物だけど、勝手に持ってかれると気分悪いわ!!


「う、うう!! だいたい特にそこの、勇者だっけ!? 何あなたが率先して止めようとしてるのよ!! 勇者って人様の家を勝手に持っていく筆頭者じゃ無いの!?」

「そんな筆頭知らないし、失礼にも程があるよ!?」


 何、ゲームのネタ?

 こっちの世界で言う、勇者が人様のタンスを漁って~、って奴?

 異世界でもそんなネタあるの?

 ソラの言ってたように、思った以上にサブカルチャーに満ちているなそっちの世界。


「ほら、今置いていったなら許してやるから。大人しく返せ」

「じゃないと君、その君を陥れた人と同罪だよ」

「っ!! 〜〜〜〜ッ! ────うう、分かった、わ……」


 そうして、渋々。本当に渋々。金塊をその場に置くシルフィ。

 一応だが、未遂に終わる事となった。

 そしてユウカが、シルフィの服の首元を掴んで引きずり始めた。


「それじゃあ、さっさと帰りなよ」

「ま、待ってよ! 私本当にもう何も持ってないの! ダンジョンで沢山持ち込みアイテム消費しちゃって、もう食料も何も無いの! お願い、少し分けて──」

「未遂とは言え盗人に上げるものはないよ。それじゃあ、バイバイ」

「アッ──────ッ!!!」


 ☆★☆


 ……そうして、シルフィは強制送還されたのだった。


「なんだったんだ。アイツ……」

「さあ。けどカイトに凄く失礼だったし、気にしない方がいいんじゃ無いかな?」


 そう言って、ユウカがお茶をズズッと飲み始めた。


「まあ、異世界とは言え、あんまり失礼な態度を取るのは良く無いよねえ」

「ケミカ、それあんたが言うか?」


 そう言って、Dr.ケミカも同様にお茶を飲んでいる。

 と言うか、お前もいつまでいるんだよ。何当たり前のようにくつろいでいるんだよ。


「うーん、でも……」

「ソラ様、どうかしたのかい?」

「あの子もセーブポイント使用者だから、多分……」


 そう言っていると、フラグとばかりにセーブクリスタルがピカーっと光り。

 その前には、先ほど送り返した筈のシルフィが……


『……………………』


 全員、無言。

 俺が仕方なしに、切り出そうとすると……


「あー、シルフィ……」

「……む」

「へ……?」


「────もうここに住むうううううッ!!!!」


「えええええぇぇぇぇぇ────ッ?!!」


 そんな事を叫び始めたのだった。


「ちょっと待て、住むって!?」

「もう嫌あっ!! ダンジョンに潜って、いっつも死にそうな目にあって! と言うか今実際死んだし!! 死んだんでしょ私!! 頑張って探索して探検して、それでお宝見つけても、すぐに全部借金の返済に当てられて!! 自分で見つけたお宝を自分のために使えないの!! 命がけなのに無意味なの!! もう嫌なの!! こんなの私の求めた冒険じゃ無いぃー!!」


 そうして、駄々っ子のように床に転がって手足をジタバタし始めたのだった。

 子供か。


「それにほら、ここ異世界なんでしょ!? だったらよく考えたら、ここに借金取り来ないじゃ無い!? だったら、ここに暮せば幸せじゃない! うわ、私って天才!! この家なんか色々充実してそうだし、うんナイスアイデアだわ! 今後ともよろしくお願いします!!」

「勝手によろしくするんじゃねえ!?」


 うっわ、普通に迷惑だわ!!

 こんな盗人未遂のやつ、普通に家に置きたくねえ!?


「何よ、体!? 体が欲しいの!! 良いわよもう、犯しなさいよ!! どうせ私一回死んじゃったし!! もう貞操も何も無いし!! もう痛いのやだし!! 良いわよもう! 体一つで安定した生活貰えるなら安い物よ!! はいどうぞ!!」

「どうぞじゃねえ!?」


 そう言って、俺にグイグイ近づいてくるシルフィ。やべえ、完全にヤケになってやがる。

 何、最近自分の体を推してこようとしているやつばかりなんだけど。流行ってる!?


「──いい加減にしてくれないかな?」


 そんなシルフィと俺の間に、ユウカがいつの間にかインターセプト。

 あ、めっちゃ怒っていらっしゃる……


「何よ!! いいでしょ私もここに暮らしても!! あなただって、さっきの話だとこの家に暮らしてるらしいじゃない!? 一人くらい追加してもいいでしょ、ねえ!?」

「ふざけないでよ……“ワタシ”がどれだけこの家にいるために苦労したか知らないくせに……!!」

「ちょ、ちょっとユウカちゃん落ち着いて……」

「一色触発だねえ……」


 そうして、シルフィとユウカがバチバチとやり始めた。

 やべえ、止めらんねえ。

 そうしている間に、Dr.ケミカがこっちに来て俺に話しかける。


「ふむ。カイト、今のうちに夜ご飯の準備をし始めた方がいいんじゃ無いかい? 私もお腹すいたねえ」

「マイペースかよ、おい」

「どの道、あの争いは放っておいた方がいいさ。落ち着いた頃に、ご飯でも食べて冷静にさせた方がいい」


 そうしたアドバイスを受けて、チラリとユウカ達のほうに視線を向ける。

 ……うん、確かに! 俺じゃ止めらんねえな! なんか女の戦いっぽいの始まりそうだし!


 さーてと、冷蔵庫は……Dr.ケミカが来てるから、中身全っ然使えねえ。

 異世界に繋がったままだから、冷蔵庫の中身取り出せねえー……


「おやおや、すまないねえ。けど私のせいじゃ無いねえ」

「お前が帰ってくれれば、解決するんだけどな……」

「無理だねえ。お腹空いたねえ」


 と言うか、よく考えるとコイツ食べる気満々かよ。

 まあいいけどさあ……


 しょーがねえ、とりあえず戸棚に置いてある冷蔵品以外の食材でなんとかするか……

 そう思って、俺はキッチンの下の食材入れの扉を開けようとすると……



「──ん? どわあ!? 兄ちゃん誰だ!? 扉の向こうに誰かいる!?」


 バタン。←戸棚の扉を閉める音。


「──やっぱり今日の夜ご飯無しでいい?」

「今、誰かいたねえ」

「気のせいだって、気のせい」


 そう思おうとすると。

 パカっと。


「──何処だこの家!? ここ、兄ちゃんの家なのか!? なんで俺の家に繋がってるんだ!? あ、俺は“札束ショー”!! よろしくだぜ!!」


 10歳くらいの少年が転がり込んで来たー。

 俺は天井を仰ぎみるしかなかった……

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