「粗茶ですが!!」
「おお、ありがとうだぜ!!」
そう言って、目の前でお茶の飲み始める少年。“札束ショー”君。
「ぷはあっ! 美味しかったぜ、ありがとうなんだぜ!」
「そう? それなら良かったー」
「にしても、異世界なんて凄いぜ!! 見た目は普通の家なのに、確かにエルフのねーちゃんもいるもんな!! 金髪のねーちゃんもいるぜ!」
「女神もいるよー」
もう6度目になると慣れたのか、ソラはさっさとショー君に事情を説明し終えていた。
ショー君は素直で、すぐにセーブポイントにセーブも済ませている。
そして、俺はと言うと……
「もう無理……」
そう言って、ソファーでグデーっとだらけ切っていた。
そんな俺を、ユウカが慰めてくれていた。
「カイト、どうどう……」
「もうマジ無理。何このハイペース。なんで今日が終わってないのに、一気に異世界人3人もくるの? ユウカ達の時でさえ、日にちがずれてたじゃん。もう対応し切れないって、無理無理、ム〜リ〜……」
「壊れちゃったねえ」
「いや、仕方ないよ。ボクだって、流石にこの怒涛の状況は……」
もう現実が直視したくなくて、ソファーで天井を仰ぎ見ていた。
もー知らねー。今日はもう無理。閉店、閉店でーす。
少年だろうともう知らん、ソラがなんとか対応するだろう。
もう今日はユウカ以外全員お帰りいただいて、ゆっくり家で過ごすんだ……
あれ、家ってもっと憩いの場だったような気がするんだけどな……
「そう? んじゃあ私は、二階の部屋の一部を借りるわね」
「何どさくさに紛れて泊まろうとしてるんだ盗人エルフ。真っ先に帰れ」
「ひっどい!? 嘘でしょ、私が死んだ場所にすぐ返すって言うの!?」
もう無理、知らねー。
俺の許容量は満杯になりました。あとはソラに対応お願い致します。
「じゃあユウカ、悪いけど今日は後はソラとお前に対応頼んだ。ソラにもよろしく言って置いて。俺もう寝るね……」
「あ、うん……お、お疲れ様……」
そうして、俺はユウカに後を託して、自分の部屋へと戻って行った。
もう知らん、今日はガチで寝る。
真面目にそう、全てを放り出して眠る事にしたのだった。
あー、お布団最高ー。
──この役割放棄の代償は、すぐに払う事になるとも知らずに。
☆★☆
……数十分後。
『ギャオオオオオオオオオオ──────ッッッ!!!』
なんらかの、怪獣のような声。
「な、なんだあッ?!」
流石に微睡の中に落ちそうだった俺でも飛び起きざるを得ず、自分の部屋を飛び出した。
声の出所は、キッチンだった。
そこには……
『ギャオオオ、ギャオオオオオオオオ──────ッッッ!!!』
何処からどう見ても赤い龍、ドラゴンがいた。
──ドラゴン?!! なんで!?
「うわわわわ!?」
「まさか、ドラゴン!? 魔王軍でも殆どいない存在なのに!?」
「嘘でしょ!? こんな空想な動物までいるわけ!?」
見ると、ソラ、ユウカ、シルフィまで3人とも同様にドラゴンの存在に驚いている。
「に、兄ちゃん!?」
すると、ドラゴンの向こう側でショー君が驚いたような表情でこちらを見ていた。
その隣で、Dr.ケミカが笑い声を上げている。
「おいこれ、どう言う事だオイ!?」
「アッハッハ!! 見た前カイト君! これはそこにいるショー君が、“カードから召喚”したらしい!! いやはや、試しに何が出来るのかい? と質問したら、こんな特技があるとは! 異世界とは広いねえ!!」
か、カードから召喚……?
よくみると、ショー君の手には真っ白なカードのようなものが握られていた。
つまり、これって……
「──カードゲームの世界からやって来たパターンかよぉぉぉッ!!?」
俺はそう、嘆きの声を出した。
しかも、もしかしてこれカードが実体化するタイプ?
恐る恐るドラゴンに触れてみると……あ、ガチで触れる。
そう思っていると……
「あっ!? 兄ちゃん!? イフリートドラゴンに、見知らぬ人が触ると……」
え? イフリート?
炎の四天王? ……とは違うか、同名の別の存在か。
そんな事をぼーっと思っていると。
『ゴギャアアア、ギャオオオオオオオオ──────ッッッ!??』
あ、完全に怒ってます。ありがとうございます。
やべえ、疲れと寝ぼけで判断ミスった。
俺の目の前で、ドラゴンがまるでブレスを吐くような体制を取ると……
「カイト、危ない!!」
そう言って、ユウカに抱き抱えられてその場から一緒に離された。
ソラもシルフィも、ユウカ一人に引っ張られる。
そうして、ドラゴンのブレスが吐き出され──
ゴオオオオオオォォォォォォ──────ッッッ!!!
と、リビングの一部が炎に包まれたのだった……
「うわあっ?! しょ、消火消火!! こ、こい! “ウォータードラゴン”──!!」
そうして、訳も分からぬまま水を纏ったドラゴンが現れ、炎を消していき──
☆★☆
──数分後。
そこには黒こげになったリビングの一角が。
「そ、その……兄ちゃん、ごめんだぜ」
おずおずと、ショー君が謝罪の声を出していた。
そして、俺は……
「────フっ」
そう、ニヒルに笑って……
「────無理」
バタン、と倒れた。
「カイト、カイトおおお!?」
「カイト、大丈夫かいっ!?」
そうして、気絶する直前にソラとユウカの叫ぶような声が聞こえていた。
異世界人共から目を離したらこんな事になる。それをよーっく実感した日になってしまったのだった……
カードゲーマー:札束ショー
本名:札束召(ふだたばしょう)
12歳
152cm
赤髪
中立・善
男
カードゲームの世界から来た熱血少年。
カードゲームでバトル中、一時的にカードからモンスターを実体化出来る。
エースカードはドラゴン。その他ドラゴンシリーズで固めたデッキを使っている。
まだ小学生でちょっと悪ガキ少年でもあり、悪戯好き。
だが、家を燃やすまではやるつもりは無かった。