目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第67話 カードゲーマー少年、現る

「粗茶ですが!!」

「おお、ありがとうだぜ!!」


 そう言って、目の前でお茶の飲み始める少年。“札束ショー”君。


「ぷはあっ! 美味しかったぜ、ありがとうなんだぜ!」

「そう? それなら良かったー」

「にしても、異世界なんて凄いぜ!! 見た目は普通の家なのに、確かにエルフのねーちゃんもいるもんな!! 金髪のねーちゃんもいるぜ!」

「女神もいるよー」


 もう6度目になると慣れたのか、ソラはさっさとショー君に事情を説明し終えていた。

 ショー君は素直で、すぐにセーブポイントにセーブも済ませている。


 そして、俺はと言うと……


「もう無理……」


 そう言って、ソファーでグデーっとだらけ切っていた。

 そんな俺を、ユウカが慰めてくれていた。


「カイト、どうどう……」

「もうマジ無理。何このハイペース。なんで今日が終わってないのに、一気に異世界人3人もくるの? ユウカ達の時でさえ、日にちがずれてたじゃん。もう対応し切れないって、無理無理、ム〜リ〜……」

「壊れちゃったねえ」

「いや、仕方ないよ。ボクだって、流石にこの怒涛の状況は……」


 もう現実が直視したくなくて、ソファーで天井を仰ぎ見ていた。

 もー知らねー。今日はもう無理。閉店、閉店でーす。

 少年だろうともう知らん、ソラがなんとか対応するだろう。

 もう今日はユウカ以外全員お帰りいただいて、ゆっくり家で過ごすんだ……


 あれ、家ってもっと憩いの場だったような気がするんだけどな……


「そう? んじゃあ私は、二階の部屋の一部を借りるわね」

「何どさくさに紛れて泊まろうとしてるんだ盗人エルフ。真っ先に帰れ」

「ひっどい!? 嘘でしょ、私が死んだ場所にすぐ返すって言うの!?」


 もう無理、知らねー。

 俺の許容量は満杯になりました。あとはソラに対応お願い致します。


「じゃあユウカ、悪いけど今日は後はソラとお前に対応頼んだ。ソラにもよろしく言って置いて。俺もう寝るね……」

「あ、うん……お、お疲れ様……」


 そうして、俺はユウカに後を託して、自分の部屋へと戻って行った。

 もう知らん、今日はガチで寝る。

 真面目にそう、全てを放り出して眠る事にしたのだった。

 あー、お布団最高ー。


 ──この役割放棄の代償は、すぐに払う事になるとも知らずに。


 ☆★☆


 ……数十分後。


『ギャオオオオオオオオオオ──────ッッッ!!!』


 なんらかの、怪獣のような声。


「な、なんだあッ?!」


 流石に微睡の中に落ちそうだった俺でも飛び起きざるを得ず、自分の部屋を飛び出した。

 声の出所は、キッチンだった。

 そこには……


『ギャオオオ、ギャオオオオオオオオ──────ッッッ!!!』


 何処からどう見ても赤い龍、ドラゴンがいた。

 ──ドラゴン?!! なんで!?


「うわわわわ!?」

「まさか、ドラゴン!? 魔王軍でも殆どいない存在なのに!?」

「嘘でしょ!? こんな空想な動物までいるわけ!?」


 見ると、ソラ、ユウカ、シルフィまで3人とも同様にドラゴンの存在に驚いている。


「に、兄ちゃん!?」


 すると、ドラゴンの向こう側でショー君が驚いたような表情でこちらを見ていた。

 その隣で、Dr.ケミカが笑い声を上げている。


「おいこれ、どう言う事だオイ!?」

「アッハッハ!! 見た前カイト君! これはそこにいるショー君が、“カードから召喚”したらしい!! いやはや、試しに何が出来るのかい? と質問したら、こんな特技があるとは! 異世界とは広いねえ!!」


 か、カードから召喚……?

 よくみると、ショー君の手には真っ白なカードのようなものが握られていた。

 つまり、これって……


「──カードゲームの世界からやって来たパターンかよぉぉぉッ!!?」


 俺はそう、嘆きの声を出した。

 しかも、もしかしてこれカードが実体化するタイプ?

 恐る恐るドラゴンに触れてみると……あ、ガチで触れる。


 そう思っていると……


「あっ!? 兄ちゃん!? イフリートドラゴンに、見知らぬ人が触ると……」


 え? イフリート?

 炎の四天王? ……とは違うか、同名の別の存在か。

 そんな事をぼーっと思っていると。


『ゴギャアアア、ギャオオオオオオオオ──────ッッッ!??』


 あ、完全に怒ってます。ありがとうございます。

 やべえ、疲れと寝ぼけで判断ミスった。

 俺の目の前で、ドラゴンがまるでブレスを吐くような体制を取ると……


「カイト、危ない!!」


 そう言って、ユウカに抱き抱えられてその場から一緒に離された。

 ソラもシルフィも、ユウカ一人に引っ張られる。


 そうして、ドラゴンのブレスが吐き出され──



 ゴオオオオオオォォォォォォ──────ッッッ!!!


 と、リビングの一部が炎に包まれたのだった……


「うわあっ?! しょ、消火消火!! こ、こい! “ウォータードラゴン”──!!」


 そうして、訳も分からぬまま水を纏ったドラゴンが現れ、炎を消していき──


 ☆★☆


 ──数分後。

 そこには黒こげになったリビングの一角が。


「そ、その……兄ちゃん、ごめんだぜ」


 おずおずと、ショー君が謝罪の声を出していた。

 そして、俺は……


「────フっ」


 そう、ニヒルに笑って……


「────無理」


 バタン、と倒れた。


「カイト、カイトおおお!?」

「カイト、大丈夫かいっ!?」


 そうして、気絶する直前にソラとユウカの叫ぶような声が聞こえていた。

 異世界人共から目を離したらこんな事になる。それをよーっく実感した日になってしまったのだった……



 カードゲーマー:札束ショー

 本名:札束召(ふだたばしょう)

 12歳

 152cm

 赤髪

 中立・善

 男

 カードゲームの世界から来た熱血少年。

 カードゲームでバトル中、一時的にカードからモンスターを実体化出来る。

 エースカードはドラゴン。その他ドラゴンシリーズで固めたデッキを使っている。

 まだ小学生でちょっと悪ガキ少年でもあり、悪戯好き。

 だが、家を燃やすまではやるつもりは無かった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?