「ほー、これがダンジョンの中かい? 見事なまでに古めかしい遺跡だねえ」
「地下空間だから、太陽の日が恋しいぜ!」
「なんで私がこんな事に……」
「3人とも、逸れないようにねー」
「ユウカ、ありがとう……」
俺とユウカ、そしてDr.ケミカ、シルフィ、ショーの計5人は、シルフィの世界にやって来ていた。
シルフィの言っていたように、ここはダンジョンの中らしく、ファンタジーでよく見る古代の遺跡のようだった。
あたりに所々緑の苔が生えていて、無人なのに松明が飾られている。
所々トラップも仕掛けられており、猛獣も住み着いている。危険極まりない場所だ。
なのに、この場所に俺たちはいる。
と言うのも……
☆★☆
〜数時間前〜
「えぇ〜〜っ、弁償かい?」
「その通りだよ」
「そうね」
一角が燃えたリビングの中で、俺達はテーブルを挟んでDr.ケミカ達と今後の事を話していた。
その中で、リビングの修繕費についての請求の話になっていた。
ちなみに俺はと言うと、正直まだリビングが燃えた事にショックから立ち直れない。
話の進行はユウカとソラが中心となっていた。
「ちょっと待っておくれよー、子供がやった事だろ? 10歳位の少年が、ドラゴンを呼んじゃって起こった不幸な事故じゃないか。ここは君たちが寛大な大人なんだから、広い心で許してあげるのが筋ってもんじゃないかい?」
「そうだね、一理あると思うよ。──君がショー君に実際に召喚を進めたと言う前提がなければね」
「おやおや?」
そう、後から聞いた話だが、ショー君がドラゴンを呼んだのは、何か特技が無いかと質問された時、カードから仲間を呼び出すことが出来ると紹介したのがきっかけだった。
それを聞くだけならまだしも、是非見てみたいなー、的な事をDr.ケミカが言い放ち、つい実際見せて見たのが流れだったらしい。
ショー君自身も、危ないけどいいのか? と一応確認は取ってくれていたらしいが、その上でゴーサインをDr.ケミカが出したらしい。
「いやあ、だってドラゴンだよ? しかもカードから召喚だって? ファンタジーにも程があるじゃないか。そんなの是非見て経験したいと思わないかい?」
「は、白衣のねーちゃんは悪く無いぜ! 俺がちゃんと、イフリート・ドラゴンは危ないと言う事をちゃんと注意すればこんな事にはならなかったんだぜ!?」
「……まあ、ボク達も夜ご飯の準備で少し目を離していたと言う事で責任はあるよ」
「カイト寝ちゃったから、私とユウカちゃんで準備し始める事になっちゃったからねー」
せめて、どちらか片方は監視のためにみんなを見るべきだった。そうユウカとソラは反省していた。
「ユウカ、済まねえ……」
「か、カイトが謝る事じゃないよ!?」
「いや、今思えば……実際家主として、現場監督放棄したのは俺の責任だった……」
俺は両手で顔を覆いながら、ユウカに本気で謝罪をしていた。
「正直今日、ドラックストアの件があってから、ユウカ頼りになったなーと思って、それで新しい異世界人共の対応をユウカに丸投げしていた所があった。……この家の家主は俺なのにな。つい、正直対応をサボっちまった。それでショー君が来た時点で、ぜーんぶ丸投げしたのが、今回の原因だ……」
せめて、俺がちゃんといて、そんな危ないことはするんじゃねーよ、とちゃんとツッコンでいたなら。こんな事にはならなかっただろう。
ユウカ一人に押し付けるのは筋違いだった。
ユウカだって、まだこの世界に慣れて来たばかりだったと言うのにな……
「そ、そんな事ないよ!? カイトだって、ボクを信頼してたからこそだったんでしょ! 寧ろ謝るべきなのはボクさ!」
「しかも、多分ドラゴン怒らせたのだって俺が触っちゃったからだと思うし……完全に余計な事しかしてねえ、今回俺……」
「ねえ、カイト。私は? 私への謝罪は無いの?」
お前は元から異世界人共への説明責任があるだろうが。
まあ、ちょっとはごめんなさいだが。
「ところで、なんだが……君たちは、ロードと言うものが使えるのだろう? “この家が燃える前にロード”すればいいんじゃ無いかい? そうすれば元に戻るだろう?」
「確かにそうね。ただ……」
「今回は、俺が最後にセーブした地点が問題なんだよ……」
「ふむ? 問題とは」
「具体的に言うとね。カイトが今ロードすると、“結構な時間戻される”」
そう、それがすぐにロードを選択しづらい理由。
俺が最後にセーブしたのは、炎の四天王撃破直後だった。
それから結構の日にちが経ち、ユウカも含めしばらく日常を過ごしていた。
「カイトの家を戻す場合、カイトのロードが必須なんだけど、“そうすると私達全員の記憶が戻っちゃうわ”」
「おや? 私のロードの時だと、君たちの時間は戻らなかったような記憶があるが?」
「カイトは仮にもセーブポイントの管理人なの。カイトのロードだと、本当に全てが戻っちゃう」
つまり、ユウカが炎の四天王撃破から味わっていた平穏な日常の記憶、積み重ね。
並びに、こうしてDr.ケミカ達ともあった事すら無かった事にされてしまう、本当のリセット。
こう言っちゃなんだが、“たかがリビングを燃やされた程度”で無かった事にするには勿体なさすぎると思っている。
「ふむ、この出会いが無かった事になるのは痛いねえ。まあ、確かにそれならしょうがないか……けど、正直言って私たちに返済能力があるとは思わないほうがいいよ? 世界が違えば通貨も違うだろうし、私は隠れ家でその日ぐらし、少年はカード以外持って無さそうだし。それともカードそのものを売るかい?」
「そ、それは本気で勘弁してくれなんだぜ!! て、手伝い程度ならいくらでもするぜ!!」
そう、そこが問題。
弁償と言っても、Dr.ケミカ達に普通にそれを求めても、簡単に用意出来るとは思っていない。
だから……
「だからここで、シルフィちゃんの世界なのよ」
「ずっと気配消してたのに、ここで振られるの!?」
そうして、急に話題に上げられてさっきから黙っていたシルフィが驚きの声を上げていた。
「確かシルフィちゃん? ダンジョン探索で、お宝を探していると言ってたわよね?」
「そ、それがどうかしたのよ? 言っておくけど、この部屋が燃えたのは私の責任は一切ないわよね!?」
「でも君、カイトの家の金塊を勝手に持っていこうとした前科があるよね?」
「そ、それを言われると弱いけど……けど、関係無いじゃない!?」
「でもまだ、その償いはしてないよね、君?」
「うっ……」
ソラとユウカの言葉に、シルフィはタジタジとなっていた。
と言うわけで、とソラが言い放ち……
「題して、シルフィちゃんの世界でお宝探して弁償しよう作戦〜!!」
「はああァァアアアアアアアッ?!!」
その言葉に、異議を唱えたのはシルフィだった。
テーブルをバンっと叩いて立ち上がる。
「ちょっと!? なんでそんな事しなければならないのよ!? 私のお宝よ!? あんた達に上げる理由なんてないじゃない!!」
「だから、これで金塊を勝手に持って行こうとした部分を償わせるわけだね」
「こっちにメリットがなさすぎるじゃない!? いくら償いとは言え、こっちにも借金があるのにお宝全部持ってかれるいわれはないわ!?」
「全部とは言ってないわよ。ちゃーんと見つけた物の価値を確認して、必要な分だけ徴収するわ。余った分はちゃんとあなたのものだし」
「だから、何で私だけそんな事をしなきゃいけないわけ……」
「一人じゃないよ?」
へ? とシルフィは呆けたような声を出した。
ソラはDr.ケミカに指を刺して。
「そこにいるケミカちゃんと……」
「ボクも行くよ。君の世界に」
「おやおや、私も行くのかい?」
「はあ?」
ソラ達の言葉に、シルフィが疑問の声を上げている。
ソラは続けて、シルフィに促すように会話を続ける。
「つまり、“あなたのお宝探索を手伝うの”。一緒にお宝を探して、見つけた分は山分け。これならどう? あなた、確かさっき一回死亡してたでしょ? その手助けも兼ねて、一緒に探索しようって話の訳」
「そ、そんな勝手に……」
「別に別の方法で借金返済で、あなたはそのまま帰ってもらってもいいけど。でもそしたら、あなたの死亡した地点の攻略大丈夫? 詰みセーブの危険性は話したわよね? あなた、ちゃんと一人で抜け出せる? これはあなたを助けるためのついででもあるの」
「ぐ、ぐうううぅうぅぅぅッ……」
ソラの言葉に、シルフィは反論出来ないように唸り……
「ちょっと待ってくれ! なんで俺の名前が入っていないんだぜ!?」
そう言って、会話に割り込んできたのはショー君だった。
驚いたような顔で、自分を指差している。
それに対して、ソラは冷静に。
「あなた、まだ子供じゃない」
「そっちも同じくらいなのに、言われたくないぜ!?」
「君は気にしなくていいよ。これはボク達大人の監督の問題だったんだ。そもそも10歳の君に弁償してもらおうなんて思ってないよ」
「いや! 結局のところ、俺が燃やしたせいなんだから、俺も手伝うのが筋ってもんなんだぜ!? 大丈夫だ! 俺こう見えても、一度世界を救ってるんだぜ!!」
「そうなのかい?」
ショー君の言葉に、ユウカが驚きの表情に変わる。
世界を救った、それだけ聞くと胡散臭いが、ここは異世界が沢山つながっている場所。
カードゲームの世界観だったら、それもあり得ない話ではないかもしれない。
「だから、自分のやった事は自分でケツを持つぜ! 俺も連れて行ってくれ!!」
「そう言う事なら、まあ……」
「ところで、私の名前が入っていた理由は聞いていいかい?」
「召喚を唆した責任でしょ、あなたは」
「そうだねえ。確かにねえ」
そう言って、Dr.ケミカは対して否定する事なく、そのまま受け入れていた。
これで話が纏まり……
「ちょっと待って、やっぱり納得出来ない! 私が一回死亡したけど、次もそうなるとは限らないじゃない! もう一回一人で行って、それで問題無ければ、別の方法で弁償して頂戴!」
「あ、ちょっと!?」
そう言って、シルフィが席から立ち上がってリビングを飛び出していった。
〜数十分後〜
セーブクリスタルが光り、シルフィが再度現れた。
『…………』
全員無言、そして……
「……探索協力、お願い致します」
そう言って、シルフィは土下座をしていた。
「……まあ、さて。これで話は纏ったわね。それじゃあシルフィちゃんの世界に行くのは、私とユウカちゃん、そしてケミカちゃん、ショー君、シルフィちゃんの5人で……」
「いや……」
それに否を唱えたのは、俺……
「……俺も行く」
「カイト?」
俺はそう、はっきりと強くそう言った。
「俺自身、責任が無いとは言い切れないんだ。ちゃんと俺も行くよ」
「そう? それだと、留守番員がいないんだけど……」
「ソラ、それはお前に任せた」
その言葉に、ソラはえ!? と予想外といった表情に変わっていた。
「い、いいの? 以前私は大失敗しちゃったけど……」
「それで今回も留守番させなかったから、こうなった部分もあるんだ。やっぱり、事情を全部知ってるお前が残ったほうがいい」
「そう? それならまあ、いいけど……」
まあ、何はともあれ……
「それじゃあ! ダンジョン探検、行ってらっしゃーい!!」
そうして、俺達はシルフィ達の世界に行く事になったのだった……