「みんなー、昼飯だぞー」
『はーい!』
俺はそう言って、背負っていた大きなリュックの中からお弁当箱を取り出して、全員に配っていく。
この世界に来る前にあらかじめ作っておいたものだ。幸いキッチン側は無事だったから、料理を作るのに問題無くて助かった。
このリュックには、他にも手助けになりそうな道具をいくつか持ってきている。そのせいでだいぶ重くなっちゃったけどな。
「ほう! 唐揚げ弁当かい!? 私にとっては久しぶりだねえ!」
「やったー! 俺大好きなんだぜ!!」
Dr.ケミカとショー君は唐揚げ自体を知ってるからか素直に喜んでおり。
シルフィはと言うと。
「何よこれ? 肉? 肉なの? よく分からないけど、まあいいわ。言っておくけど、私結構グルメだから。生半可な料理じゃ満足なんてしな……うっっっまッ?! 何これ?!!」
とまあ、見事の前振りの後、見事に撃沈しており、今まさに夢中となってバクバクと料理を掻っ込んでいた。
「相変わらずおいしいね、カイトの料理は」
「ま、男の一人飯用に磨いた程度のスキルだけどな。喜んで貰えたようで何よりだよ」
俺は多少謙遜しながらそう言った。
まあ、最近はソラと言う居候が増えてから、料理を振る舞う機会がかなり多くなっている。
そのせいで俺自身料理スキルが爆上がりしていると言ってもいい。
そうしてしばらく時間が経った後、だいたいみんなお弁当を食べ終え始めていた。
「ご馳走様だねえ。いやあ、缶詰や保存食以外を食べるのは久々だったから、とっても満足だよ」
「俺も! 誰かの手料理なんて食べたの久しぶりなんだぜ!!」
「これが異世界の料理……正直侮っていたわ。……これこっちの世界で売ったら、普通に金儲け出来るんじゃ……?」
若干二名が闇深そうな発言をしているのと、一名何か画策しているのは置いておいて……
「さて……それじゃあ、今後の方針を考えようぜ」
「何あなたが仕切り出してるのよ。まあ、いいけど」
そう言って、俺が話を切り出して、全員が耳を傾ける姿勢となった。
「シルフィ、後どれくらいで最深部に着きそうなんだ?」
「そうね……はっきりとした事は言えないけど、経験上後1/4ってとこかしら? まあ、半分くらいは私が単独で進んでいたんだけど」
と言う事は、俺達が参戦してから進んだ距離と同じぐらい残っているってところか……
距離は分かった。問題はペースだ。
「全員、後どれくらい体力や戦力、アイテムが残ってる?」
「私はボチボチだねえ。アレから何度も薬を使っちゃったから、残り半分もないねえ」
「俺のカードも、40枚中残り15枚くらいなんだぜ」
「私はまだ余裕。本職だもの」
「ボクも。この中だと一番体力が残っていると思うよ」
と言う事は、Dr.ケミカとショー君が、そこまで頼り切りに慣れないと言う事か……
逆に俺を含め、ユウカ、シルフィがだいぶ余裕と。うーん……
「シルフィ、どうする? まだ進むか?」
「そうね……正直そこまで勧めはしないわ。帰る道筋を考えると、無理は禁物ね」
専門家の意見としては、そうらしい。
どうしよう、そろそろ“アレ”作るか? いや、まだ余裕はあるし、もう少し取っておくか……
となると。
「シルフィ。さっきオートマッピングの地図見せてくれたよな? 確認なんだけど、アレって地図さえ持っていけば自動記録になる?」
「ん? どう言う事?」
「つまり、“シルフィが持っていなくても自動記録される?” って聞きたいんだよ。例えば、トロッコか何かに乗せるとか」
そう聞くと、シルフィーがあー、そう言う事。と、言葉を漏らす。
ちょっと考えた姿勢をとった後……
「それならまあ、試した事はないけど、行けると思うわ。買った時、商人の歩いてきた道のりが既に記録がされてあったし、多分馬車とかに乗せたままでも記録出来ると思うわよ?」
そうシルフィが顎に指を当てながら、思い返すようにそう答える。
ある程度根拠のある答えを聞けて、大丈夫そうだと俺は確信した。
「じゃあ、次にショー。ドラゴンまだ出せるか? 出来れば素早くて、逃げ足の早いやつがいい」
「いるけど、人は乗せられないタイプだぜ? しかもあと2枚くらいしかデッキに入れてないし……」
「人は載せられなくても、“紙”くらいなら乗せられるか? 手足の部分に紐とかで縛って」
「へ? それならまあ……多分、行けると思うぜ。でも、何をする気なんだぜ?」
俺の質問に、疑問に思いながらデッキからカードを探し始めるショー君。
すると彼の横で、Dr.ケミカが何かに気づいたような表情に変わる。
「ああ、なるほどねえ。面白い事を考えるじゃないか?」
「その様子だと、気づいたみたいだな。じゃあケミカ、さっき使ってた“動物除けの薬”ってまだ残ってるか? 念のため使いたい」
「いいよう。ほら、これだね」
そう言って、Dr.ケミカは俺に薬瓶を一つ取り出して渡してくれた。
俺がそれを受け取ると、ユウカが質問してくる。
「カイト、何する気だい?」
「まあ、見てなって。つまり、こうして……──」
☆★☆
「GYAOOOOOッ────……」
「おーよしよし。スピードスタードラゴン、お疲れ様だぜ」
ショー君が帰ってきたドラゴンを出迎えて、撫でてあげている。
その後、ドラゴンの足にくくりつけていた“地図”を取り外す。
「はい、エルフのねーちゃん。預かっていたものだぜ!」
「ありがとう。どれどれ……うっわ!? 本当にルートが沢山埋まってる!? もうほとんど制覇したようなものじゃ無い!?」
シルフィは受け取った地図を確認して、目を見開いて驚いていた。
それを見て俺は、自分の作戦が上手くいったことを確信する。
「上手くいってよかったね、カイト」
「アーッハッハ!! まさかドラゴンに、この先のマッピングを先に埋めてもらおうなんて恐れ入ったよ!!」
「なかなかいいアイデアだったろ? お前も薬サンキューな」
そう、俺が考えた案とはこれだった。
地図が一度いった場所を自動マッピングするなら、わざわざ自分で動かず、先に地図だけ先行させれば良い。
そのために、代わりに行動してくれるちょうどいい存在がドラゴンだった。
ショー君の言う事を聞くドラゴンなら、この先の隅々の探索にはちょうどよかった。
あとは敵に出会わないよう、“動物除けの薬”を取り付ければ完璧だ。
「あんたら3人の合わせ技だ。どうだ、いいコンボだったろ?」
「なるほどねえ、なかなか面白かったよ。何せドラゴンと不思議な道具の組み合わせなんて、滅多に無いなんてレベルじゃ無いんだ。貴重すぎる経験だったよ」
「俺も! 俺の仲間が誰かの役に立てて嬉しいんだぜ!」
「しかもこれ、マッピングが完了してるから、近づいてくる敵も敵性反応で分かるから、だいぶ楽になるわよ!? それだけじゃ無い、トラップもお宝の位置も表示されるから、大分効率的に動けるようになるわ!!」
Dr.ケミカ達も、三者三様でそれぞれ大喜びを表している。
これだけの情報があれば、もう少し先に進むことも可能だろう。
シルフィにそう確認とれば、本人もこれなら大丈夫とOKを貰えた。
「宝箱があったら任せなさい! 私が罠解除してあげるから! 解除用の必需品道具も持ってるしね!」
「なるほど、スカウトの役割というわけだね? 頼もしいねえ」
「それじゃあ、こっからジャンジャン先に進んでいくわよ! 宝箱を回収しだい、一気に奥まで!!」
『おおー!!』
そうして俺たちは、そこから特に大きなトラブルに遭遇する事なく、ダンジョンを突き進んでいくのだった……