こうして、俺たちはダンジョンをどんどん突き進んでいった。
「あ、宝箱みーっけ!」
「よっしゃ、任せなさない! 1分で解除してあげるわ! 必需品道具の一つ、“ステルス・ゴーグル!!”」
途中で宝箱を見つけて、シルフィがトラップ解除して、それなりのお宝を手に入れたり。
「うっひゃあ! 落とし穴だらけだぜ!?」
「これは、歩いて行くのは不安だねえ……」
「じゃあ、俺が運んでいくよ。よっと……」フワッ
「カイト兄ちゃんが浮いてるんだぜッ!?」
トラップだらけの床を、以前メタルマンに貰った浮遊するブーツで浮かび上がり、他のメンバーを運んであげたり。
順調に進んでいき、そして……
「……遂にたどり着いたわね。おそらくこの先が最深部よ」
「あの入り口の向こうか……」
シルフィが指差した先には、大きめの部屋の入り口があった。
扉は付いてなく、部屋の様子がここからでもよく見える。
そして、覗いてみると……
「グルルルルルッ──…………」
「巨大な狼らしき動物が一体……あの部屋にいるね」
「うひゃー、大きいぜ……俺のドラゴン達に近いくらいだぜ」
「全長13m程かい? 流石にあの大きさは見た事ないねえ……」
と、明らかに強そうな大きな狼に対して、みんな思い思いの感想を言い合っていた。
すると、シルフィが話だす。
「きっと、このダンジョンの“ボス”ね。最後の宝を守るために、あそこにいるのよ」
「なるほど。どうりであんな大きな出入り口があるのに、俺たちの方に近づかないわけだ」
確かによく見ると、先ほどからあの巨大な狼は警戒心の唸り声はあげてはいるが、逆に言えばそれだけ。
俺たちに気づいているはずなのに、部屋から出て襲いかかってこようとしてこない。
ボスと言うだけあって、思った以上に理性的な存在なのだろう。
「でも、あいつを倒せばスッゲーお宝が手に入るって事だよな? ならあとちょっとだぜ!!」
「ふむ。シルフィ君、どうするんだい? このまま入るのかい?」
Dr.ケミカのその問いかけに……
「勿論……────“撤退”よ」
シルフィは、そうはっきりと言い切った。
「……へ?」
「……ほう?」
「そうなのかい?」
「なるほどな」
その反応に、俺たちの反応は様々。
驚きだったり、納得だったりと。ショー君は予想外すぎたのか、シルフィに問いかける。
「な、なんでここまで来たのに帰るんだぜ? あ、もしかして一度出直して、再挑戦のつもりなんだぜ? だとしたら、納得……」
「いいえ。このダンジョンの探索はこれで終わりよ。ここから帰ったら、もうこのダンジョンに用はないわ」
ショー君は再挑戦の可能性を考えていたが、シルフィはそれもはっきり否定する。
「ええ!? なんでなんだぜ!? あとはあいつ倒すだけだろ!? エルフのねーちゃん、こう言うの慣れてるんじゃないのか!?」
「だって私、“ダンジョンのボス倒した事ないもの”」
「──ええッ?!!」
そのシルフィのカミングアウトに、ショー君は予想外過ぎて大変驚いていた。
対して、俺達3人はと言うと、……実は、そこまで驚いていなかった。
まあ、スカウト一人じゃなあ……
「いい事? 私の装備じゃあのボス相手に有効打になりそうな強力な武器はないの。つまり倒せない。この部屋の車での道中の間に小さな宝箱は沢山見つけたから、それで十分な成果よ。むしろ、今回はかなりの稼ぎね」
「で、でも、もったいないんだぜ……」
「無理をして死んだら元も子もないでしょ? ここから先は冒険じゃなくて無謀よ。大人しく帰りましょう」
そう言って、シルフィはショー君に促すような声で説得してくる。
けれど、ショー君はまだ不満そうで……
そんな中、ユウカがちょっといいかい? と声を掛ける。
「君一人なら、その判断は正しいと思うんだけど……ボク達がいるなら、話は変わらないかい? 少なくとも、戦力は十分揃ってると思うんだけど」
「そ、そうだぜ!! 俺のドラゴン達も手伝うから、5人で挑めば十分……」
「いや、俺は撤退に賛成」
「私もだねえ」
ユウカ達の反論に対して、俺とDr.ケミカは逆に撤退に賛成する。
なんでなんだぜ!? という叫び声が聞こえるが……
「ここに来るまでに、カードも薬も十分使っただろ? ボス戦に割けるスタミナ残ってないだろ」
「私も同感だねえ。正直、薬はもとより、体力自体も限界だ。だいぶ疲れてしまっているねえ」
俺たちの言葉に付け足すように、シルフィが話を続けてくる。
「仮に、万が一ボスを倒せたとしても、帰りはどうするのよ? まだ普通の獣やゴーレム達が沢山いるのよ。そいつら倒しながら帰る事を考えると、既にもうギリギリよ。ボスなんか相手してたら、それこそここから出られなくなるわよ」
シルフィの言葉に、俺とDr.ケミカはうんうん、と頷いて同意する。
流石はダンジョン探索の本職者。
素人の俺たちから見ても冷静な判断をしていると言えるだろう。
「カイト、カイト」
「ん、なんだ?」
そう思っていると、ユウカが俺の肩をポンポンと叩いて、こう提案してくる。
「全員はダメでも、ボク一人だけ行くのはどう? ボク自身、今回体力かなり有り余っているから、あれくらいなら倒せると思うよ?」
なるほど、流石は勇者。十分な説得力がある。
しかし……
「それでも、今回は念のため俺の家に帰ろうぜ。せめて、セーブポイント更新してからにしよう」
「そっか。了解」
「ちょっと、あんた達また来る気? 別に止めはしないけど……次はアンタらだけにしてよね。今回ので私にやれる範囲のことは十分やったつもりよ。まだお金が足りないようなら、別のダンジョンの機会にして。またこの最深部に来るだけでも、どれだけ大変か……」
シルフィの、愚痴るようなその言葉に対して……
「いや? ダンジョンからの脱出はともかく。“俺の家ならすぐ帰れるけど?”」
「──は?」
俺のその言葉に、シルフィは鳩が豆鉄砲を喰らったような表情に変わっていった。
それに対し、ユウカが驚くように聞いてくる。
「ひょっとして、マーカーを付けて繋げるつもりかい? ボクも以前、四天王の時に似たようなことはやったけど……けど、確かこの世界は繋げる場所は扉だよね? この近くに、丁度良い扉は見当たらないけど……」
「うん、だから……」
そう言って、俺は背負っていたリュックサックを下ろす。お弁当などが入っていたやつだ。
その下から、“木材”を沢山取り出していく。
そして、ハンマーと釘と、蝶番と。
「──ここで、新しく扉を作ってやる」