トンテンカンッ! トンテンカンッ!!
「……ま、こんなもんだろ」
こうして、汗を拭っていた俺の目の前に、なんということでしょう。
それはそれは、見事な“扉”が出来上がっているではありませんか。
しかもちゃんとその場で倒立し、開閉機能も付いている。
この出来栄えにウンウンと満足していると……
「だいぶ不細工な扉だねえ。ツギハギだらけだ」
「やかましい、細かい木材から組み合わすしかなかったんだよ」
そう、扉に当たる部分の木材が、綺麗な一枚板では無く、小さな板を複数枚無理矢理組み合わせた状態だった。
だって、小さな板じゃないとリュックに入り切らないし。
扉用の板丸々持ち運ぶなんて、邪魔で邪魔でしょうがねえし!
「いやあ、普通に凄いと思うよカイト。ボクなんて、建物作った経験なんて一切ないから、ドアですら作ったことないもん。一から作り上げるなんて尊敬するよ」
「俺も、学校の工作の授業で習ったくらいで、それくらいしか木材触ったことねえぜ! こんなデカイの、作れないんだぜ!」
「で、その扉がなんだっていうのよ?」
ユウカ達は尊敬してくれる中、シルフィが結局どういう事なのか、と聞いてくる。
まあ見てなって。俺はそう言うと……
「それじゃ、これにマーカーのドアベルを付けて、と……よし。開けるぞ」
そうして、俺は実際に作った扉を開いてみる──
☆★☆
「……あ、おかえりー。どうだった?」
「ああ、最深部手前までは行ったよ」
扉の先は、無事俺の家に繋がっていた。
俺達は2階からリビングまで降りると、ポテトチップスを食べている最中のソラを見つけた。
彼女はそれをボリボリと食べながら、俺たちを出迎えてくれる。
すると後ろの方で、ユウカを除いた3人が驚きの声を上げている。
「嘘、でしょ……? なんでこの場所にすぐ戻ってこれた訳!?」
「スッゲー!! 一瞬だ!?」
「これはこれは! 驚きだねえ!? まさかあんな手作りドアから帰ってこられるなんて!?」
自分達の知っている箇所以外で、あっという間にこの部屋に戻って来れたことが信じられないのか、3人に取ってはとても衝撃的だったらしい。
「以前ユウカから話を聞いて思ってたんだ。セーブポイントまでの入り口を、自由に自分で作れたなら便利だろうって」
そう。ユウカが四天王の目の前の部屋にマーカーを設置したという話を聞いてから、思っていたことがある。
この家に繋げるためにはマーカーが必要だという事はソラから聞いている。
参考例として、Dr.ケミカ達3人を除いて、この家に繋がっている世界の住人はユウカ、メタルマン、マホの3人だ。
ユウカはドアに、マーカーがドアベル。
メタルマンは窓で、マーカーが窓の鍵。
マホはクローゼットで、マーカーが取手。
ソラに確認を取ったところ、このようになっているらしい。
用は、通路に使う“扉”になるものに、マーカーを設置したらこの家に繋がるとのこと。
逆に言えば、マーカーさえ設置すれば、対応した“扉”ならどれでも繋げられるという事だ。
これはユウカが旅をしている最中、村や国事でマーカーの設置場所を変えてこの家に来れていることから分かっている。
けれど、“マーカーがあっても対応した扉がない場合があるんじゃないか?” という状況は想定出来た。
だから今回のダンジョン探索では、そのような状況になった場合でもいつでも戻れるように、俺が“扉”を作れるように素材を持って行ったわけだ。
「え? ちょっと待って、ていう事は……さっきの扉をもう一度戻れば……?」
「勿論、“ダンジョンの深層手前まですぐ戻れるな”」
「クッッッソ便利じゃない?!!」
この事実に気づいて、シルフィはとんでもなく驚きの悲鳴を上げていた。
それはそうだろう。こんなの彼女にとってダンジョン攻略の休憩の前提が大幅に変わるのだから。
ボクもこれにお世話になったなー、とユウカが言葉を漏らしている。
……まあ、そのせいで四天王戦の時詰みセーブになったわけだから、確実に安全とも言い切れない行為だけど。
それでも、便利なものは便利だ。
「特にダンジョン探索なんて、それこそ深層に潜る必要のある行為だからな。いつでも休憩場所に戻れるなんて、ありがたい話だろう?」
「さっすがねカイト。そうよ、それこそセーブポイントの活用方法の一つ。確実な安全地帯で休めるという事が大きいわ」
俺の話に、ソラがウンウンと深く頷いていた。
まあ、俺自身ゲームをやる事がよくあるから、セーブポイントの重要性はよく分かっているつもりだ。
今になって思う。
ソラは俺のことをセーブポイントの管理者だと言っていた。
つまりそれは、セーブポイントに関する事を俺がやる必要があるという事。
その一環として、今回俺は“セーブポイントにつながる通路の確保”を重点的に担当してみたわけだ。
そのためにダンジョン同行に申し出たと言っても過言ではない。
……正直素材だけ渡して自作してもらう事も考えたけど、流石に今回のメンツでDIYに精通してそうな人材がいなかったから、俺自ら向かったわけだ。
「さて、シルフィ。これでここで思う存分休んでから、深層まで直ぐに戻れるようになったわけなんだけど……どうする? これでも、ダンジョンから脱出を優先するか?」
「……一応確認だけど、この場所に戻ってくるのって回数制限があったりとかする?」
「しないな。一応、扉さえ作っちゃえばどの場所でも帰ってこれるな」
「……体力と消耗品を補充した上で、深層まで一気にショートカットできる、という事ね」
それを聞いて、シルフィは頭を天井に向けて、暫く深く考えるような姿勢になり……
「……ここにいる全員、休んだらボスに挑めるんでしょうね?」
確認するような目で、俺達を見渡してきた。
それに対して、俺達はうん、と肯定する。
「……よし! 分かったわ。初めてのボス挑戦、このメンバーで行きましょう!!」
「よっしゃあ! やったぜ!!」
「ふうむ! 少しワクワクしてきたねえ!」
こうして、シルフィを説得出来て、ボスに挑む事が決まったのだった。
「ま、それはそれとして、今日はもう休もうぜ。俺が夜ご飯作ってやるから、全員今のうちにシャワーでも浴びてこいよ」
「そうかい? ありがたいねえ、使わせてもらうよ」
「了解だぜー」
「シャワー?」
「あ、そうか。シルフィはボクの世界と同じようにお風呂がないのか。大丈夫、ボクが使い方を教えるよ」
「その前に、全員セーブクリスタルでセーブしてくれない? 忘れないうちに」
こうして、俺達の初めてのダンジョン探索は、一旦の休息に入るのだった……