「ふわあ……おはようー」
あれから一晩立ち、俺は自室から起き上がってリビングに入って行った。
「カイト、お早う」
「おー、おはようユウカ。流石早いな、勇者なだけある」
「けど、まだ他のみんなは起きていないようだね」
キッチンの流し台で、ユウカが水の入ったコップを持って挨拶をしてきた。
そのままコップに口をつけ、ゴクゴクと飲んでいる。
「まあ、他のメンツも大分疲れていたみたいだからな。まあ当然か。シルフィはともかく、ケミカもショーもダンジョン探索なんて初めてだろうし」
「それを言うなら、カイトだってそうじゃないか? 君もキチンと休めているかい?」
「……まあ、俺は正直、最近普段から非日常が起こりまくっていたから、もう慣れたと言うか……」
「あ……なんかゴメン」
ユウカに突如謝られて、俺はそれに良いって、と返す。
冷静に振り返ってみると、ダンジョン探索経験なんてまず普通無いだろう。
そんな慣れない行為に初めて向かって行ったから、異世界人だとしても疲労は当然だ。
シルフィも、いつもはソロで潜っていたらしいし、引率の上での冒険なんて恐らく慣れていないだろう。
全員、まだ起きてこなくてもおかしく無い話だった。
「そう言えば、ソラは? あいつは冒険出てないだろ?」
「ソラ様? いや、見てないけど」
「と言う事はあいつ、まだ寝てやがるな……? 全く、そう言うところは見た目通り10歳だなあ、まあ良いけど」
俺は冒険に出ていないのにまだ寝ているソラに対して、多少呆れながらも肉体的にしょうがないかと納得し、話を終わらす。
と、それより……
「今のうちに、全員の朝飯を用意するか。ユウカ、悪いけど手伝ってくれるか?」
「うん。喜んで」
そうして、俺とユウカは全員が起きてくるまでに、朝食の用意をし始めるのだった……
☆★☆
「やあやあ! おはよう!! いやあ、いい天気だねえ!!」
「おはようございます、だぜー……」
「おっはようー!! ねえなにあのベット!? めっちゃ快適だったんだけど!?」
そうしてユウカと朝食を作り終えた辺りで、3人がちょうど起きてきた。
Dr.ケミカは起き抜けの割に元気な様子で。
ショー君はまだ眠たそうに目を擦っている。
シルフィは寝具の質にめっちゃ興奮しているようだ。
「おはよう~。カイト、ご飯~」
少し遅れて、ソラもやってくる。
これで全員揃ったな
「おはよう。ちょうど朝食出来てるぞ。全員テーブル座れー」
「はい、今から配膳しに行くね」
「いやあ、至れり尽くせりだねえ! 本当に助かるよ!」
「いただきまーす、だぜー……」
「うっっっま! これも美味しいじゃない!? なにこの“ショーユ”ってやつ!? 他にも“コショー”とかも、卵やベーコンに合うじゃない! うっわ、パンめっちゃフワッフワ?!」
「ちょっと、隣うるさーい……」
こうして俺達が朝食を食べ始める中、特にシルフィがめっちゃ興奮しっぱなしだった。
Dr.ケミカとショー君は元々俺の世界に近い文明だからか、そこまで驚きの表情は無さそうだ。
それはそれとして、キチンとした食事に有り付けることには凄く感謝しているようだったが。
そしてシルフィに至っては、食事の文明レベル自体が違うからかずっと感動しっぱなしだった。
調味料もそうだし、パン自体も柔らかさやきめ細かさが全然違うようだ。
それを見ていると、初めて来た頃のユウカを思い返す。あの時は、ユウカも大分こっちの世界について色々驚いていたっけなあ……
「ご馳走様でした、と。いやあ、ここまで連続しておいしい食事にありつけるなんてねえ」
「ご馳走様だぜ! 作ってくれてありがとうなんだぜ!」
「ねえ、カイトだっけ。やっぱりここに住まわせてくれない? ここ並みの宿より高級なんだけど。ねえ?」
「ちゃんと用事が無い時は自分の世界に帰ってねー」
シルフィが再度この家に住もうと画策し始めた中、ソラが釘を指している。
ユウカの視線も心なしか鋭くなっていた。
そりゃあそうだろう、一時期似たようなことをユウカも考えていたんだ。
その時はソラの本体がやってきて、色々大変だった覚えがあるからな。
今だって、ユウカはようやく認められて長期滞在を許可してもらえたようなものだ。
そう簡単に他の奴に住まわれるのはいい気分はしないだろう。
「ま、とにかくだ。朝ごはん食べ終えたなら、もう少し休憩してから、準備を始めようぜ」
「準備って?」
「ダンジョンボス戦に向かうんだろーが」
「あー。……別にもうよくない? ここの生活、並みの宝よりお宝なんだけど」
「ダメでーす」
ッチ、とシルフィが舌打ちした。甘いわ。
少なくとも、完全に無理ならともかく、やれそうな範囲ならやって貰わないと。
相変わらずリビング一部黒コゲのまんまなんだぞ、おい。
せめて弁償代の代わりになる現物をある程度貰わないと、こっちとしても割に合わねえよ。
まあ、シルフィに黒コゲの責任は無いかもしれないけど、元々別件で泥棒の現行犯だからな。しっかり償ってもらわないと。
「ふむ、カイト君。一度私は元の世界に戻らせてもらうよ。薬を補充してこなきゃだしねえ」
「ああ、分かった」
「しかし、相変わらずすごい技術……技術か? ともあれ、世界を繋ぐゲートとは、便利なものだねえ。簡単に行き来出来て、必要な物をすぐに持ってこれるよ」
そう言って、Dr.ケミカはすぐ戻るよ。と言って冷蔵庫の中を入って行った。
相変わらず、冷蔵庫を通っていくのはシュールだな……
おかげで食材、今のところクーラーボックスに移す必要があるんだけど。
普通に冷蔵庫が使えねえ。引き出しの冷凍庫は使えたからまだいいけど。
「兄ちゃんー、俺もデッキ調整の為に一旦帰るなー」
「分かったー」
そうして、ショー君はキッチンの下の食材入れの扉を開けて潜り抜けて行った。
こっちも中の食材取り出せないけど、まだこっちはお菓子の類だからそこまで致命的じゃ無いな。
全く、つながる場所が人によって違いすぎるのをなんとかして欲しいよ。
ユウカとシルフィみたいに、ドアで統一して欲しいぜ……
「私は帰らないわよ」
「分かってるよ。帰ってもダンジョンだしな、今のお前」
帰って行った二人を見て、自分も帰らされるのかと勘違いしたシルフィがそう言ってきた。
今のシルフィの世界、ダンジョンの深層に繋がってるもんな。
ふむ……確かにつながる場所が常に一カ所、と言うのは不便っちゃ不便か。
そのせいでユウカが詰みセーブになったわけだし。
そのことを今ソラに確認してみたが、そこはもうどうしようもないらしい。やっぱダメか。
「カイト、ボクも準備はもう出来てるよ」
「おう、期待してるぜ勇者様」
ユウカもとっくに着替え終えて、鎧姿になっている。
このメンバーでのエースだ。頼りにしてるぜ。
そうして、時間がある程度過ぎ……
「よし、全員準備はいいわね!!」
リビングに全員集まって、シルフィの問いかけに大丈夫ー、と答える。
「それじゃあ、ダンジョン再突入、行くわよ!!」
「しっかり頑張ってきてね~」
こうして、ソラに見送られる中、俺達は再度シルフィの世界に向かって行ったのだった……