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第76話 戦力確認

「うわー……本当に最深部の手前にあっという間だわ」


 再度シルフィの世界に来た俺たちは、シルフィがそのように関心の声を漏らしていたのを聞いていた。


「あ!? あの狼もあそこにいたままだぜ!!」

「本当だねえ。ずーっと動かないでいたのかな? それはそれで凄いねえ。餌とかどうしているんだろうね?」


 例の巨大狼も、相変わらず奥の部屋にいたままなのが確認できた。

 その生態に興味深いとDr.ケミカが声を上げる。


「それで、どうするんだい? あの部屋に早速入るのかい?」

「全員準備は出来てるよな?」


 ユウカと俺の声に、シルフィだけがうーん……と考えこむ。


「その前に、ちょっといいかしら? 改めて、全員のやれることを整理しようと思うの」

「と、言うと?」

「なんの道具を持っていて、何が出来るか? ここまでの道中である程度把握してはいるけど、まだ教えていないものがあるならこの場で共有して欲しいの。初めてのボス戦だもの、慎重し過ぎて損は無いと思うわ」

「なるほどな」


 シルフィのその言葉に、俺たちはなるほどと納得した。

 確かに、いざって時になにが出来るのか互いに把握しておく事は大事かもしれない。

 その事を否定するメンバーはいなかった為、シルフィから紹介し出すことになった。


「私は知っての通り弓矢と、後は冒険者達に必需品の道具をいくつか。ボス戦で使えそうなのは、“ワイヤー・ショット”と“エネミーブック”かしら?」

「なんだい、それ?」

「“ワイヤー・ショット”は文字通り、ワイヤーを飛ばす道具よ。フックがついていて、自動巻き取りリールも付いているの。これでひっかけて自分を移動したり、相手を移動させたり出来るわ。または、相手を縛ったりとかね」


 そう言って、シルフィは実際にフックが付いているワイヤーの射出装置らしきものを見せてくれた。

 狙いを定めたら、そこからフックが発射されるらしい。


「“エネミーブック”は?」

「そっちは、目の前の敵性動物のデータを自動招集してくれるの。つまり、初めて出会った敵でもある程度特徴がすぐ分かるって訳。まあ、解析にちょっと時間がかかるんだけどね」


 そう言って、今度は古ぼけた本を見せてくれる。

 大半が白紙だが、何枚か実際に動物やゴーレムの情報が載っているページが見える。


 なるほど、確かにどっちも役に立ちそうだ。

 特に“エネミーブック”なんて、初見の敵の情報すら分かるなんて大いに凄い。

 相手の特徴が分かると言う事は、弱点も分かると言う事だろう。

 戦闘においてそれは大幅に有利に立つ事ができる。

 シルフィ曰く、これで収集した情報自体も高く売れることもあるらしい。

 それ専門の冒険者もいるんだとか。


「次はケミカだな」

「了解だねえ」


 そう言って、Dr.ケミカは自分の白衣の内側からいくつかの薬瓶を取り出して並べていった。


「私は特に、新しいのは無いねえ。狼が相手だから、怯ませる為に“動物除けの薬”を多めに持ってきたのと、“爆発薬”と“筋力増加薬”を中心に多めに持ってきてるくらいかな? ……ああそうだ、これがあったか」


 そう言って、一つの三角フラスコをコトリと置いた。


「それは?」

「──“毒”さ。それも強力な猛毒の、ね」


 なんて事のないように、Dr.ケミカはさらりと話す。

 “毒”と聞いて、全員体が強張った。


「まあ、相手がサイズが違うとは言え、動物に代わりないなら、これ以上なくシンプルな手だねえ。あの狼の口にでも放り込めば、一撃必殺さ」

「シンプルに凶悪なのが出てきたな……」


 だがまあ、確かに納得出来る話ではある。

 凶暴な動物に対して、毒の入った餌で倒すと言う話はよく聞く話だ。

 また、どこかで薬と毒は表裏一体の関係性だと聞いた事もある。

 それを考えると、薬に精通しているDr.ケミカが毒薬にも精通しているのは不思議ではないだろう。


「次は、ショーだね」

「了解だぜ!」


 そう言って、ショー君は腰のデッキホルダーからカードの束を取り出して、俺達にカードの図面を見せてくれる。


「俺は見ての通り、ドラゴン中心のデッキを組んできたぜ! あと、強そうな相手が一体だと分かっているから、シンプルに強力なドラゴンを多めに入れてきたぜ!」

「おお、頼りになるなあ!」


 そう言って見せてくれたカードには、確かに強力そうなドラゴンの絵柄が描かれていた。

 キラキラと光っており、レア度もとても高そうだ。


「ただ、心配事が一つあって……」

「ん? なんだ?」

「“強力なドラゴン同士ほど、仲が良くない事が多いんだ”。普通のカードバトルの時なら問題ないんだけど、リアル戦闘でのバトルだとこれって結構致命的で……複数同時に出しても、仲間割れする可能性が高いんだぜ」

「あちゃー……なるほど」


 それは、確かに結構致命的だな……

 思えば、確かにカードから召喚していると言っても、ドラゴンも生き物だ。

 機嫌が悪くなる時もあるのだろう。

 昨日みたいな、大量同時召喚はそこまで期待出来ないという事か……


「あ、でも昨日出したドラゴンも十体くらいはデッキに入れてあるから、十分物量作戦も出来るぜ!」

「それなら、どんな状況にも対応出来るから安心だね」

「あとは、サポート用のカードも多めに入れてるぜ!! えっと……」


 ・不自由な鉄球

 ・位置イレカエール

 ・メタル化

 ・ビックリビック

 ・ヒーリングエナジー

 ・ミラクルミラー

 ・サクリファイス・サモン

 ・貫通付与


 などなど……


「ざっと、こんなもんだぜ!」


 そう言って、ショー君はそれらのカードを実際に俺たちに手渡して見せてくれた。

 何々、“ビックリビック”……対象のサイズを巨大化する? ただし、非生物のみ。と……

 他には、“ミラクルミラー”は攻撃を一回防ぐ。特殊攻撃ならそのまま相手に跳ね返す。ほう……


 なるほど、条件付きだが強力な効果を持つカードが多いと。

 様々なカードがあって、いろんな状況に対応出来そうだ。


「んじゃあ、残りは俺とユウカだな」

「だね。それじゃあ、ボクは……」


 そうして、残りはユウカと俺の説明に入る。

 ユウカは、剣技とそこからの光線技。

 俺は、現代道具をいくつかと、ユウカ達から以前貰ったナイフ、シールド、フロートブーツの説明を。


 これで、全員が手持ちの札を公開しあった事になる。


「よし、これで大体わかったわね。それじゃあ、今の内に作戦を立てましょうか」

「どんな作戦でいくんだい? やはり私の毒がメインになるかな?」

「それより、配置を決めた方がいいんじゃないかい? 前衛、後衛だけでも分けて置いた方がいいと思うよ?」


 ユウカがそう提案してくる。本人曰く、王国の軍団と共闘した時もあったらしい。

 その時の経験から言うと、配置によって味方同士で干渉し合わないような距離感を持たないと混乱するとのこと。

 さすが先頭のプロ、説得力がある。


 ふむ、となると……

 よくよく考えてみると、Dr.ケミカ達新人の異世界人メンバーは、博士、スカウト、カードゲーマーといった、どちらかというと後衛気味のメンバーだ。

 ユウカが前衛だと考えると、前衛が足りなさすぎるな……しゃーねえ、俺も前衛に入るか。

 素人だけど、マホの“マジック・シールド・メダル”とユウカの“ナイフ”があるなら、十分行けそうだ。

 エア・フロートシューズでいざとなれば、空中に逃げられるしな。


 その考えを伝えると、みんな納得してくれた。


「オッケー。配置はそれにしましょう。それじゃあ、肝心の戦術だけど……」

「いくつかコンボのパターン分けしようぜ! 事前に考えておけば、連携がしやすくなると思うぜ!」

「そうだね。それじゃあ……」


 そう言って、ユウカ達が戦い方の案を出し合っている中、ふと俺は狼のいる部屋の方に視線がいった。

 相変わらず狼はジーっとした状態で、その場所で待っている。

 にしても、本当に出てこないな。あれだけ入り口がガラ空きなのに。

 それがボスの役割なのかもしれないけど……


 ……“もしかして、ここから一方的に狙える?”


 いや、流石に無理か?

 初撃はいけるかもしれないけど、それ以降はさすがに出てくるだろ。

 攻撃されっぱなしで出てこないなんて考えづらい、が……


 ……試す価値は、あるか?


 そこで、ふと思う。

 どうせ試すんだったら……………


「シルフィ、シルフィ」

「あ? なによ?」

「ダンジョンってさあ。……“少し壊しちゃっても問題無かったりする?”」

「なにその質問。いやまあ、戦闘の余波で壊れるんじゃないかって事? それならまあ、崩れて生き埋めにならない程度なら、大丈夫だと思うけど?」


 そっか、なるほど。

 俺は一応、ダンジョンの保護のルールとかあるんじゃないかと思って聞いたんだけど、それは無いって事かな?

 それなら……


「なあ、ユウカ、ユウカ」

「なんだい、カイト?」

「ちょっと試したい事があるんだけどさ……」


「ふん、ふん……────え?」


 こうして、俺達の作戦の第一弾が決まったのだった……


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